第23話 お正月
「ふぁぁぁ~…明けましておめでとう」
コタツの中に身体を埋めるようにもぐりこませる。
この寒さは殺人的だな…。
新年も明け、新しい年が始まる。
TVでは芸能人たちがお祝いムードで何やら楽しげにしている。
まぁ見ているこっちは何も面白くないんだけど。
「面白くないわねぇ…」
同じ感想を持っている姉がコタツの上に置かれているミカンを手に取り、皮を剥く。
「正志さんは?」
「父さんたちとご近所に挨拶しに行ってるわ。よくやるわね、あの人も」
「普通、妻であるアンタも行くべきだと思うけどな」
「私は昔から行かないスタンスを貫いてるのよ。それにアンタだって同じじゃない」
「俺が行ったら相手に迷惑かかる。お年玉の準備させるからな」
「いいじゃない。貰えるものは貰っときなさい」
「そういうわけにもいかないだろ」
昔からご近所からお年玉をもらうことは禁止されている。
お金関係は後々面倒なことになる可能性があるから。
それに俺自身も新年早々からクソ寒い中、外を歩き回り、作り笑顔をする気力は無い。
「そういえば、聞いたわよ。あんた、あの西条家の御令嬢と仲良いらしいじゃない」
「同じ学年だからな」
「それだけじゃないでしょ?向こうが積極的に来てるって話じゃない。逆玉じゃない」
「そんな話題好きだったか?」
「まぁ、自分の愛する弟が世界でも有数の御令嬢といい関係なんて無視できないわよ」
「ふ~ん、良い関係というか別に大した関係じゃないぞ。友達だ」
「あっそ。それにしても、どうしてあんなお金持ちの子があんたみたいなつまらない子に絡むのか理解できないわ」
「俺も理解できん。そういえば、この家の事も知ってたみたいだからこっちに興味があるんじゃないか」
「神農村ねぇ…まぁそう言われないと理解できないわね。そういえば、正志が言ってたっけ。西条家傘下の不動産業がこの辺を狙ってるって」
「まぁ勝手に手を引くだろ。ここに手を出すほど向こうもバカじゃないだろうし」
この神農村は文字通り神の住む村だ。
農産物の宝庫であるこの土地は昔から神様が住んでいると言われていた。
それも生易しい神様じゃない。
自分の愛する土地に土足で踏み込んでくる野蛮な連中を消すとまで言われている破天荒な神様だ。
今から50年前には、この土地を狙ってきた連中が不思議な死に方をしているし、この土地を売ろうとした家は数年のうちにその家系は全滅した。
だから、この場所は外部の人間が入ることは許されない。
「あんたも大変ねぇ~」
「何が」
「いや、色々とね」
「利用されてるとでも?」
「あら、気が付いてんのね」
「まぁよく考えれば普通に辿りつくだろ」
「普通そう思うわね。でも、それ相手が本気だったら、あんた最低なことを考えてるって自覚ある?」
「いや、特に無い」
「最低ね。可哀そうだわ~、西条有希ちゃん」
ポリポリとお菓子を食べながらニヤニヤと笑う。
人の不幸がそんなに面白いと思うようになった姉はまるでおばさんに見える。
俺は飛び出そうな悪口を飲み込み、面白くもないTVを見続けた。




