第21話 打ち上げ!
「おつかれさまでしたー!!!」
マイクを持ち、バカでかい声で文化祭委員が叫ぶ。
その声と共に同じ部屋の中にいた数十人が一斉に叫び、乾杯が行われる。
文化祭は無事に成功した。
いや、大成功だ。
予想以上の売り上げを叩きだした俺達のクラスは今、カラオケで打ち上げを行っている。
一番広い部屋に案内されたのは良いが、それでも入りきれなかった者たちは他の部屋で大騒ぎをしている頃だろう。
前では散々乾杯をした連中たちがマイクの取り合いをしており、次々と自分の好きな曲を歌っていく。
「いやぁ~、俊悟君のクラスは明るいね~」
俺は出入り口の近くに座ってピザに手を伸ばしていると、横に満足そうな顔をしながらジュースを飲んでいる有希が言う。
どうしてこいつがここにいるのか…誰一人何も言わないけど、明らかにおかしいだろう。
確か、こいつのクラスもここで打ち上げをしているって情報は入っているが…。
「自分のクラスの所に帰れよ」
「んん~、だって私が居たら皆が楽しくできないでしょ?」
「はぁぁ?お前がここに居ても俺達は楽しくできない」
「そんな風に見えないよ?ほら」
有希が指差した方ではバカみたいな盛り上がりを見せる連中がいる。
まぁ確かにあれを楽しくなさそうというのは無理がありすぎるな…。
しかし、こいつは関係ない人間だ。
「俺が楽しくない」
「大丈夫、私は楽しい」
「はぁ…めんどくさくなった。もういいや」
「あ、受け入れてくれるの?」
「勝手に馴染んでる奴の言うことか?」
「ふふ~ん。あ、そのピザも食べて良いのかな?」
「お前の口に合わないからやめておけ」
「ファミレスのと変わらないよ?」
「手、出すの早いなおい」
「それにしてもさ、本当に皆楽しそうだよね」
「自分のクラスが恋しくなったら帰れ」
「だから言ってるでしょ?私が帰ったら皆が恐縮しちゃう」
「なんでだよ…ってあぁ、なるほどな」
そういえば、こいつのクラスのやつらって確か社会的に偉い人たちの子どもが集められてるんだっけか…。
そりゃ、自分の両親から何を言われているか分からないもんな。
ましてや、こいつに何かしたら…社会的地位が落ちること確実だろうし。
変な雰囲気なのは容易に想像出来る気がする。
「たぶん、俊悟君が考えている通りだと思うよ」
「金持ちも大変だな」
「馴れちゃったけどね」
「なら、帰れ」
「それはそれ、これはこれ」
「はぁぁ…うちの連中もお前に恐縮してくれるとありがたいな」
「してるよ?だって、俊悟君が居なくなったら皆テンション少し変になるもん」
「なんでそこで俺が出てくるんだよ」
「だって、俊悟君は西条家に関係のない人だもん」
「そりゃまぁうちは農家だからな」
「川島家って言えばあの村の地主さんでしょ?」
「なんだ知ってたのか」
「調べられてるよ?」
「そういう機密事項みたいなことをさらっと言うな」
「気が付いていると思ってたのに」
「気が付くわけないだろ。想像はしてたけど」
プロの探偵の尾行に気が付くとかどこの超人だよ。
それにしても、本当に調べられていたとは…。なんだか、少しだけドラマに出てくるようなキャラみたいだ。
「神農村の地主と言えば、かなりの発言力あるでしょ?」
「うちの村の発言力なんてたかが知れてる」
「15年前、神農村に住宅マンションが建設される計画が川島家の一言でとん挫した上にその計画に加担していた会社は黒い部分が表に出ちゃったって話もあるよね~」
「生まれてすぐの事なんか知らん。それよりも機械回ってきてんぞ」
「あ、私も歌っていいの?!」
「さっさと歌えよ。お金持ちってその辺の英才教育もされてんだろ?」
「どんなイメージだよ、そんなことまで英才教育されてたらこっちの身が持たないよ~。よし、これにしよ」
有希はパパパっと歌を選択し、マイクが回ってくるのを待つ。
しかしまぁ…なんというか、この部屋の中に居る連中はかなり期待している。
なぜならあの西条有希の歌声が聞けるのだから。
きっと物凄く上手いに違いない。皆、そんな期待を持っているのだ。
しかし、そんな期待は有希が選択した曲が流れた直後に崩壊した。




