第17話 冬!
「川島よぉ…どうして冬服って服が厚いんだろうな…透けねぇじゃん…」
今朝が冷えるようになり、白い息が出始めたこの頃。
俺の横に座り、残念そうな顔で話かけてくる男子生徒の気持ちはよーーーーーーーく分かる。
俺もあの夏服の後ろから透けるアレは良く見ていたからよーーーく分かる。
むしろ、アレに興味がない男がいるならそれはあっちの趣味のある奴だけだ。
それに俺は教室の後ろの窓際の席という絶好のポジションに居たため、授業中は常にベストポジションと言ってもよかった。
しかし、だからといって冬服が嫌いなのか?と言うとそうではない。
「まぁよく考えろ。冬の雀を見たことがあるか?」
「すずめぇ?あるけど」
「あいつら可愛いだろう?もこもこしていて」
「あ~確かに」
「今はまだだが、あと少し待て。そうすればマフラー女子が増える」
「マフラー……」
「それにすでに黒タイツも増えていることに気が付いていないのか?」
「黒タイツ……か、川島…俺、目がおかしくなっていたのかもしれない…」
先ほどまで目が死んでいたクラスメイトの目が輝き始める。
こいつもようやく現実を見れるようになったか…。
そう、冬服は冬服で良い所がたくさんあるのだ。いや、冬服ではない。冬は良い事があるのだ。
「あぁ、なんかさっきまでの憂鬱がぶっ飛んだ。やっぱり川島すげぇ」
「いや、当然のことだ。俺もアレが無くなるのは悲しいからな」
「でもやっぱり…うん、いいな。冬いいな!」
「だろ?視点を変えれば夏も冬も変わらないんだ。それぞれ楽しみがあるってことだからな」
「そうだよなぁ。いやぁ…それにしても川島は黒タイツ派なのか」
「まぁ…恥ずかしいがな」
「いや、わかるぞ。同士だな。おい…川島、気が付いているか?西条さんは黒タイツを履いているぞ」
真剣な顔で俺に問いかけてくる。
そんな真剣で言うことなのか?と思いながらも、最近の有希の姿を思い出すと確かに黒タイツ着用率が高い気がする。いや、毎日と言っていいだろう。
まぁそれ自体は大したことじゃない。
俺が例え黒タイツ派であっても、あいつのは対象外だし。
「あ~、やばい。川島のせいで俺、もう足しか見れない気がする」
「警察に厄介になることは止めろよ?」
「わかってるっての。あ~、いいなぁ黒タイツ」
クラスメイトの目が若干ヤバい感じになりつつあり、周りの女子達はクラスメイトを見てコソコソと話す。
完全な変質者を見るような目で見ているから可哀そうになってくるが、一部は俺を見ている所を見ると同類とされているらしい。
しかし、こいつとは違って俺には予防策はある。
「あ、俊悟くん!聞いたよ!黒タイツが好きだってね!」
「黙れ変態、この教室から出ていけ」
「酷い!好きって言うからせっかく来てあげたのに!」
「お前のは例外だ。そもそも男なんて皆同じだ」
「あ、そうやって逃げるんだ。ふふ~ん、良いんだよ。ほら、私のこのタイツを見ても」
有希は校則通りの膝下まであるスカートを少しだけ持ちあげる。
すると、先ほど俺と話していた変質者認定された男以外に、教室の中に居た男共は「おぉ…」と歓喜のため息を吐きながら有希の足を凝視する。
その姿は先ほどまで俺と変質者認定されていた男に向けられていた女子の視線を分散させる。
いや、むしろ俺達なんて視界に入らないかのように周りの男共をゴミを見るかのような目で見ている。
有希はそんな男共の視線なんか気にせずに、普段スカートの下に隠れている足を俺に見せようとする。
「あのなぁ、俺はそうやって羞恥心の無い奴は嫌いなんだ。淑女が好きなんだ」
「私、淑女だよ」
「黙れ小童」
「俊悟君と同じ年だよ!」
「はいはい。さてっと、次は移動か。おい、早く帰れよ、他クラス」
「ふふーん、残念でした~。私も同じなんだよ、忘れてた?」
「あ、そう言えばそうか。これっぽっちも覚えていなかった」
「あぅ、それはそれで酷い…」
ガクッと崩れ降りそうになる有希の横を通りぬけ、教室を移動する。
それにしても、あんな馬鹿でも役には立つもんだ。
俺が教室を出る頃には教室にいた女子達のゴミを見るような目は俺では無く、未だに教室に居る男たちに向けられていた。