第15話 鬼畜野郎
「あぅぅ…洒落になってないよ、まだ頭がジンジンする」
目の前で頭を摩りながら、限りなく黒色に近い緑色の飲み物を苦そうに飲んでいる有希。
ファミレスの店内で俺の綺麗な叩く音が響いた後、こいつに確実にマズイと思える飲み物を飲ませていた。
「自分が招いた結果だろ」
「うぅ~…女の子の頭を叩くなんて俊悟君は鬼畜野郎だよ」
「仮にも西条家の御令嬢だろ?鬼畜野郎なんて言葉使うなよ」
「ふふ~ん、私はこういう言葉も使えるんだよ」
「庶民の味方的なアレか?金持ちが庶民の気持ちなんてわかるわけないだろ」
「あ~、俊悟君もそういうこと言っちゃうんだ、悲しいなー」
「なんだ、昔よく言われたのか?」
「まぁね。お金持ちって皆が思うほど贅沢な物じゃないよ。僻まれるし」
「それは頻繁にあるのか?周りも金持ちだろう?」
「そんなお嬢様学校には通ってないよ?一度通ったことはあるんだけど」
「なんでやめたんだ?お前、お嬢様らしくないから出ていけって言われたのか?」
「出ていけなんて言われないよ。その逆。残ってくれって言われた」
「そうだろうな、援助金みたいなのありそうだし」
「あーいう学校って今の学校以上に西条家の名前に敏感なんだよ。物凄く距離を取られるか、微妙な距離感で話しかけられるかどっちかなんだよね。今みたいに親しくしてくれる人なんて皆無だよ」
「あぁなるほどな」
「それに俊悟君みたいな人も居なかったよ。私の頭を叩くなんて大問題になるもん」
「そりゃ普通の学校でよかった」
今の学校でもこいつの頭を叩いたら大問題になるとおもうんだけど…。
そもそも、こいつの頭を叩こうなんて考えは俺以外あの学校に居ないだろう。
それにしても、この店に入ってからそろそろ1時間が経とうとしている。
こいつの嘘もバレる頃だ。
俺がメールを確認する動作で時間を確認すると、有希は俺の方をじーっと見ていた。
「なんだ?」
「そろそろ時間かなぁって思ってるでしょう?さりげなくしているけど、ばればれだよ?」
「さいですか。で?時間は大丈夫なのか」
「大丈夫も何もあそこにもういるもん」
有希の指差した方を見るとファミレスの駐車場には場違いな高級車が一台停まっている。
そして、その脇ではいつも校門の前に立っている女性が立つ。
「いつも気になっていたんだが、あの人は?」
「幸子さん。私の監視役かな」
「ふ~ん、あの人も大変だな。お前みたいに自由な奴が相手だと」
「自由か。俊悟くんにはそう見える?」
「こういうことをしているからな」
「…確かに。でもこれは例外中の例外だよ。それにあの人はこれもたぶん予想してる」
「なんだ、あの人は予知能力者なのか?」
「あはは、それに近いかもね。あの人は私の事なら何でもお見通しらしいよ」
「凄いな、お前みたいなバカの思考も読めるのか…」
「あ、バカって言った。私、そこまでバカじゃないよ」
「あっそ。さてっと、出るか」
「もう出るの?まだ居ようよ」
「待たせるの悪いだろ」
「待つのが仕事だよ」
「なら、仕事をさせるな」
「はぁ、まぁいっか。十分気分転換できたもんね」
「ほれ、これを持ってレジに行け」
伝票を有希に渡し、カバンを持つ。
有希は俺の行動に少しだけ苦笑いをしながらも伝票を受け取るとレジへと向かい、クレジットカードを出す。
店員さんはクレジットカードを受け取り、いつもやっているように行動する。
有希がその動作を見て少しだけ安心した表情をしたのは見逃さなかったが、俺も同じような顔をしていただろう。
もし、ここでクレジットカードが使えないと言われれば有希を人質にして俺が家までお金を取りに行くことも考えたほどだ。
「有希お嬢様、このようなことは」
「わかってる。もうしない。俊悟くん、今日はありがとうね。気分転換できたよ」
「お前の奢りならいつでも付き合ってやるよ」
「それじゃ毎日してもらおうかな」
「2回目でお前とは話さなくなるけど、それでもいいなら良いぞ」
「いつでもって言ったのに…。まぁいっか。本当に今日はありがとう」
「それじゃまたな」
「うん、バイバイ!」
高級車に乗り、駐車場を出ていく。
お金持ちってのは自由なイメージがあったけど…あの最後の有希の表情を見るとそこまで自由ではないらしい。
まぁあいつの家はケタ違いのお金持ち度だからそうなのかもしれないが…。
俺はスマホで帰りのバスの時間を調べながらバス停へと向かった。