第12話 お片付け
「あぁぁぁ…疲れたぁ……」
優勝したというのに俺達1年生は体育祭のお片付けだ。
椅子を運び、テントを治し、荒れたグラウンドを出来る限り元に戻す。
しかし、これは仕方がないことだ。始まる前から知っていたことだし。
でも…でもだ…おかしいだろ。絶対におかしいだろう。
「なんで有希のクラスは帰ってんだよ!!!!!!!!!!!」
おかしい。
おかしすぎる。
あの有希が自発的に帰ることはないだろう。
だけど、こうして帰った。
これはつまり…学校側が有希の立場を考えたのだ。
あいつは西条家。日本でも屈指のお金持ち。
この学校にもそれなりの援助金を送っているかもしれない。
というか、周りのやつらは不満を口にしないのがおかしい。
そりゃ、有希の親の会社は色んな事業に手を出しており、この街に住んでいる奴の親が働いている親会社が有希の親の会社だ。
有希の反感を買えば、自分の家族が路頭に迷うかもしれないという恐怖感はあるかもしれない。
しかし、今まで接してきた有希を見ていればそんな陰口を親に言う奴でもない。
このイライラ感は有希に対して、学校に対してもあるが何も言わずにここにいる奴らにもある。
だけど、ここで愚痴を言っても意味は無いため、さっさと片付けを済ませ、クラスの打ち上げには不参加を言って家へと向かう。
体操服から制服に着替え、靴を履き替える。
そして、バス停へと向かう途中。
電信柱の影に隠れた有希を見つけた。
「お前、何してんの?」
「…その……謝ろうと」
「誰に?」
「俊悟君」
「なんで?」
「だって、私たち片付けしなかったから」
「別にお前の意思じゃないだろ。他の連中に謝らず、俺だけに謝るぐらいなら謝るな。全員に謝るのか礼儀だろ。俺はあいつらの代表でも何でもない」
少しだけキツく言ってしまっている…。別にこいつが悪いわけでは無いのに。
俺の言葉はかなり有希に堪えたらしく、顔を下に向ける。
これ以上は言わない方が良いな…。
「ふぅぅ、で?なんでお前ここにいんの?いつもの高級車どうした」
「嘘言ってたから」
「嘘?」
「片付けすることになって遅れてるって」
「ふ~ん、お前の周りは大変そうだな」
「…分かんない。いつも決まった動きしかさせてもらえないから楽なんじゃないかな」
「金持ちも大変だな。で?お前、これからどうすんの?お嬢様がこんな所で立ってたら誘拐されんぞ?」
「誘拐か…うん、それも良いかもね。でも、もう意味無いよ。西条家に恩を売ろうとする人は居ても敵になろうとする人はいないもん」
「ふ~ん。まぁ俺がここから離れた直後に誘拐されても後味悪いんだけど」
「私を誘拐してくれる?俊悟君」
「するか、アホ」
「…そこは黙って手を取る所だよ?」
無理に笑ったような苦しい笑顔を見せてくる。
自分ではちゃんと笑っていると思っているんだろうか…。
俺はポケットの中にある携帯を取り出し、時間を見る。
「時間つぶしに付き合ってやるよ。近くのファミレスで」
「どうして?」
「言っただろ。俺がここから離れた直後に誘拐されたら後味が悪い。それに」
「それに?」
「お前は俺に恩がある。その恩はファミレス代を奢るってことでチャラにしろ」
「えー…それ、おかしくない?」
「いいのか?西条家の御令嬢がたかがファミレス程度の代金を払えないって言いふらすぞ?それも体育祭の片づけはお前の身勝手な我が儘で逃げたって言いふらすぞ?」
「酷い!それやったら私苛められちゃうよ!」
「知らん。で?どうするんだ?」
「うぅぅ……まぁいっか。俊悟君のその優しさに触れさせてもらうよ!」
暗かった笑顔が少しだけ明るさを取り戻す。
この少しだけ明るくなった笑顔が演技なのか、そうでないのかは俺には関係ない。
でも、やっぱり俺の前であんな笑顔は止めてほしいから、少しだけ嬉しくなった。