第11話 スタート!!ゴール!
1/7 一部訂正
どうしてB組は全国クラスを備えている癖に第3走者まで接近戦なんだよ…。
俺達A組と有希率いるB組が接戦を繰り広げている。
他の組はすでに勝負外だ。
周りの観客もすでに前を走る2人に集中している。
こいつらがここに戻って来ると…俺と有希のサシでの勝負。
正直、女には負けられないが相手は有希だ。
簡単に勝てる相手ではない。しかし、クラスメイトがここまで頑張ってきているというのにここで負けたりしたら…後で何を言われるか分からない。いや、何も言われないからこそ精神的ダメージは大きい。
つまりだ、ここでこいつに勝てば良いだけの話。
「ふぅぅぅ…ぜってぇ負けねぇ」
身体に残っている悪い空気をすべて吐き出し、新鮮な空気を取り込む。
勝ち負けに拘った勝負をするのはいつ振りだろう…。
「A組、B組アンカーの方!」
体育委員の人が俺と有希を呼ぶ。
第3走者はすでに最後のストレートに入っている。
アンカーは150m。トラックを一周し、最後の直線を突っ切る。
前半は並ばれても良い。いや、最悪前に出られてもいい。
陸上部出身のやつ曰く、有希は後半型。
後半のスピードの伸びは全中でも横にでる人は居ないと言っていた。
「俊悟!」
「はい!」
ほぼ同時にバトンが渡される。
俺も有希もほぼ完璧のタイミングでバトンを受け取った。
しかし、やはりここでは経験がモノを言う。
ほぼ同時に渡されたはずのバトンが、一歩、二歩と走るごとに離され始める。
でも、これは予想通り。むしろ、好都合だ。
有希の後ろを走れば、コーナーの周り方も空気抵抗も避けられる…はず…。
バックストレート。
有希は本当に速い。いや、綺麗だと言うべきだ。
無駄がない。こうして後ろを走っていてよく分かる。
だけど、付いていけないスピード差ではない。
それにアンカーは200m走るのだ。100mとは訳が違う。
勝負は残り25m。
ここだ!
有希の走りに重さを感じた瞬間、横に並びかける。
こっちもかなりしんどいがここで抜かなきゃ男じゃない。
そして、ここで勝たなきゃ顔向けができない。
「はぁ…はぁ…はぁ……死ぬ……」
テープを切った感覚すらない。
でも、確実にテープを切った。
だってこの変に盛り上がっている感じは予想外の事が起きた感じなのだから。
「ずるい、ずるいよ…本当にずるい」
心臓が爆発してしまいそうだ…。
それなのになんだこいつ…イキイキとした顔で倒れている俺の上に立つ。
つか、負けたんなら悔しがれよ…。
「でも、うん。やっぱり走るの楽しいね!」
「うっさい…。ほれ、立たせろ」
「逆じゃない?こういうのって」
「うっさい」
有希が手を伸ばし、俺はそれを掴む。
そして、一気に引き上げてくれる。が、俺の足は予想以上に限界を超えており、踏ん張ることができなかった。
「きゃ」
「…あ~、すまん」
思わず、有希の体に身を任せてしまった。
…不本意ながら、本当に不本意ながらこいつの匂いが良いって思ってしまった……。
「いや…うん、その私にとっても得になったから…」
「いつもと違う雰囲気で言うな…ふぅぅぅ…、よし」
なんで顔を赤らめながら恥ずかしそうに言う…。いつものようにバカみたいに言えばいいのに。
気合を入れ直し、有希から離れる。
そして、クラスメイト達が待っている場所へと向かってゆっくりを歩いた。