第10話 たかが体育祭、されど体育祭
「マジかよ…B組本気じゃねぇか……」
クラスメイトが絶望を感じているのような顔をする。
たかが体育祭程度でそこまで絶望的に鳴らなくても良いだろう…と思うんだけど…。
まぁポイントがポイントなだけに絶対に勝ちたいのだろう。
このクラス対抗リレーに勝つことができれば俺達の勝ちなのだから。
しかし、その勝利はかなり厳しいモノとなる。
B組、有希のクラスは全クラス最強と言っていい。
一年生ながら有希を筆頭に陸上部にスカウトされた組が勢ぞろいだ。
つまり、ほとんどの人間が全国区。
このクラス対抗リレーは男女合同。
走る順番は決められていないが、俺ら男子がB組の女子と走ったとしても勝てるか分からない。
これがあいつの言っていたことか…。
たかが勝負、されど勝負ってやつだ。
「まぁなるようにしかならないな」
俺の走る順番はアンカー。最後だ。
だから、責任としては重いかもしれないが…相手が相手なだけに責任はかなり軽くなった。
ほとんどの確率で俺にバトンが渡される時、B組の方が先に走っている状態なのだから。
アンカーの証である赤いバンダナを頭に巻き、集合場所へと向かう。
「アンカーの方はこちらに集合お願いします!」
体育委員の言われるがままに集合場所へと向かうと、やはりアンカーは男子が多い。
それもサッカー部やら野球部やら陸上部とスポーツ系の部活をしている奴らが一杯だ。
しかし、その中に一人だけ女子がいる。有希だ。
彼女の放つオーラというか、雰囲気は他の男子よりも遥かに速そうに感じられる。
あれが全国の舞台で走ったことがある本職の雰囲気というものだろう。
有希はかなり真剣な表情で走る順番を待っているらしく、俺の存在には気が付いていないらしい。
さて…このままほっておくのが俺にとって楽な展開ではあるが…ここは仲間のためにも少しだけ勝率を上げなければならない。
「お前アンカーなのか?」
「あ、俊悟君!そうだよ、私アンカー。俊悟君も?」
「だからここにいる。それにしても……そんな本気でやるようなモノか?これ」
「ふふん、ここで俊悟君に勝たないと意味無いもん」
「俺に勝ったところで意味は無いだろう」
「ちっちっち。それがあるんだなぁ。私が勝てば俊悟君は私の彼氏になるんだよ」
「あぁなるほど。お前は凄いバカだったな」
「バカじゃないよ!」
「あぁ、悪い。お前のその気持ち悪い発想力にバカという言葉は当てはまらないか」
「だから大宇」
「ほら、呼ばれたぞ。どうだ?リラックス出来たか?」
「へ?あ、もしかして私のために?」
「あぁ、まぁな」
「……俊悟君、本当に優しい!もう大好きだよ!」
「そうか、なら最後は手を抜けよ。抜かなかったら俺はお前と一言も話さないからな?」
「ちょ、それは酷いよ」
「俺はお前よりも仲間を選ぶ仲間思いな人間だからな」
「ふふ~ん、いいもん。私が勝てば俊悟君は私の彼氏だし」
有希はどこからわき上がるのか分からない変な自信を持ちながら、歩いていく。
どうして俺が負けたらあいつの彼氏にならなければならないのだろう…、どこからそういう発想が生まれるんだろうか…かなり不思議で仕方がない。そしてかなり気持ち悪い。
有希の背中を見ながら、少しだけこいつを負かせてやろうと気合を入れた。