第1話 追ってくるあの子は完璧超人
初めての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
やっと投稿させていただきました。
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350円という時給の半分以下のお金が俺の高校人生を大いに狂わせるなんて…あの時はミジンコレベルにも思っていなかっただろう。
だからこそ、言いたい。あの時の俺よ、昔欲しかったゲームが中古で見つけ、手に入ったからと言って心を躍らせ、他人に優しくしようなんて思うな。おつりで貰った350円はお前の人生を大いに狂わせることになるぞ。と。
4時間目の授業が残り30秒。
俺は心の中でカウントダウンを始めながら、カバンの中に入っている母親特製のお弁当に手を伸ばす。
別にお腹が減ってこんなことをしているわけではない。
俺にはこれを持って逃げなければならないのだ。
ある人物から。
「俊悟くん、お昼一緒にたべよ~」
4時間目が残り10秒で終わる所で教室のドアが開く。
ちょうど先生が終わりの合図をしようとしている所に突然の侵入者。
普通なら怒っても良い所だ。しかし、教師は怒れない。
なぜなら彼女はこの学校にとって、いや日本、世界にとって特別な人物だからだ。
西条有希。
世界でこの名前を知っている人間は何人いるだろうか。おそらく上位階級の人間は彼女の名前を聞いた途端、身体を引き締めるだろう。
そして、日本では彼女の魅力に捕われる。
170cmと女性の中でも高身長であり、さらりと背中に流れる濡烏色の髪。
容姿端麗、才色兼備、文武両道、超が付くほどの大金持ちの御令嬢。神様が彼女を贔屓したとしか思えないような待遇っぷりだ。
話せる言葉は日本語、英語、中国語、イタリア語、スペイン語と5カ国語をマスター。
それでいて、俺らみたいな庶民クラスにも分け隔てなく接し、むしろ話し方はこちら側に近い。
そんな人間から逃げようなんて思う人間は居ないだろう。というか、普通は追われない。彼女は追われる立場なのだから。
しかし、実際に彼女は追っている。この川島俊悟というどこにでもいるような高校生を。
そして、俺は彼女から逃げるのだ。
「あっ!」
教室のドアが開き、彼女が教室に1歩入った瞬間、この授業は終わりを確定させる。
俺はその瞬間を見逃さず、弁当を持ち、彼女が入ってきた逆の前のドアへダッシュする。
そして、体育でもこれほど全速で走ったことがないようなスピードで廊下を走り、彼女から離れる。
そう、俺は逃げる立場なのだ。
「しんど……」
持ってきた弁当を広げながら、激しく動く心臓を落ち着かせようと深呼吸をする。
ここまで来れば、安全地帯だ。
ここは図書室。それも図書委員の一部の人間しか入ることが認められない司書室。
お茶は完備、ソファ完備とお昼を心地よく過ごすにはもってこいの場所。
何より、あいつがここに来れないことが最高なのだ。
愛情の詰まったいつも通りの内容の弁当を広げながら幸せのため息を吐く。
「ふぅ…。やっぱりここは心地いいなぁ」
本に囲まれた空間。図書室独特の匂い、雰囲気。
俺はこの空間がとても好きだ。静かに本を捲る音しか聞こえない。
無駄な会話がない。
元々、俺は人とコミュニケーションが苦手だった。
1対1なら普通に話せる。しかし、集団の会話となるとどのタイミングで話せばいいのか分からないのだ。
学校というのは集団で行動をさせるシステム。だから、俺にはかなり苦痛な場所ではある。
しかし、この図書室は違う。ここでは無駄な会話はしてはならない。ましてや集団で無駄話をするなんて言語道断。
一方、西条有希は俺とは全く別の人間だった。
彼女の周りには常に集団が付き纏っている。
そして、彼女を中心に集団が動いている。
集団のコミュニケーション?そんなの余裕でしょ。と言いたげなほど彼女の周りには常に集団があるのだ。
そんな彼女が1人を好む俺に近づいてくる。これが何を意味しているのか。
それは決まっている。嫌がらせだ。史上最凶の嫌がらせだ。
そう思わないとやってられない。なんせ、彼女は好意という俺にはあまりにも重すぎるモノを飛ばしてくるのだから。