女「あなたは私に食べられる運命なの♡」カップヌードル「い、嫌だッ!!」
女「ふふふ……やっと、追い詰めた。もう逃げ場はないわよ?」
カップヌードル「や、止めろッ!! 放してくれッ!!」
女「転がって逃げようなんてして……。でも抵抗したって無駄。あなたの力じゃどうする事も出来ないわ。諦めなさい?」
カップヌードル「あ、諦めるなんて出来るかッ!! 俺には食べて貰うと心に決めた人が居るんだッ!! それをーー」
女「でも、あなたは私に掴まれて居るのよ? ふふ、どう抵抗するって言うのよ?」
カップヌードル「ぐ……っ!!」
女「どうしようも出来ないって言ったでしょ? だからその心に決めた人なんて忘れてしまいなさい。大丈夫。私がその心に決めた人よりも……美味しく食べてあ・げ・る♡」
カップヌードル「くそぅ……っ!! くそぉッ!!」
女「……でも。あなたがそんなに嫌がると、食べる身としてもちょっと面白くないわね。潔く諦めて欲しいのだけど。……そうだ。チャンスをあげましょう。」
カップヌードル「……チャンスだって?」
女「そ。私はあなたに今からお湯を注ぐわ。そのお湯で麺が出来上がらないように耐えてみなさい。」
カップヌードル「ーーッ!?!?」
女「3分間待ってあげるわ。3分以内に出来上がっちゃったら……私が食べちゃうからね。」
カップヌードル「さ、3分って……そんなの耐えられる訳がないだろうッ!?!?」
女「あら? 折角チャンスをあげているのに無下にするの? 立場ってものを考えなさい。別に私は無感情に貴方にお湯を注いで、意志も関係なく啜る事だって出来るわ。少なからずチャンスを与えているだけ、感謝してよね?」
カップヌードル「ひ、卑怯なぁ……ッ!!」
女「何とでも言いなさい。その減らず口は……お湯を注いだらどうなるかしら?」
カップヌードル「……ひっ!?!?」
女「ふふ♡ ポットを見て怖がって……可愛いわねぇ♡ ……今から注いじゃうんだよ? 貴方の中に……♡」
カップヌードル「や、やめ……ッ!!」
女「ほ~ら。入っちゃうよ~~♡」
カップヌードル「う……うわ……うわ……ッ!!」
女「はーい♡ 投入~~♡」
カップヌードル「うわあああアアアァァァァァァッ!!!!」
女「……どう? ……暖かいでしょ?」
カップヌードル「ああ……あ……ッ!! ぅあ……ッ!!」
女「ふふ……そんなに声あげて……。良いの? 我慢しないと私に食べられちゃうぞ~~?」
カップヌードル「(そ、そうだッ。が、我慢しないとッ。)」
カップヌードル「(で、でも、お、お湯がッ。俺の体を包んでッ。)」
カップヌードル「(ああ……柔らかくなっちゃう……ッ。 麺がどんどん柔らかく……ッ。)」
女「ほらほら。どんどん出来上がってるよ? 美味しそうな匂いがしてきたよ?」
女「必死に耐えてるけど……体は正直ね。これは時間の問題だわ。」
カップヌードル「ま、まだだッ!! まだッ!!」
女「そうかしら? ほ~~ら……後1分半。」
カップヌードル「(1分半……ッ!! 1分半耐えなきゃ……ッ!!)」
カップヌードル「(でも……ッ!! でも、体が言う事聞かない……ッ!!)」
カップヌードル「(冷静なっても……ッ!! もがいても……ッ!! 体が勝手に反応してしまうッ!!)」
カップヌードル「(ああ…ッ!! め、麺がどんどん……ッ!!)」
カップヌードル「はぁ……はぁ……あ……ぁあ……ッ!!」
女「……どうしたの?」
カップヌードル「も……らめぇ……ッ!!」
女「駄目なの? 反応しちゃうの?」
カップヌードル「き……来ちゃう……来ちゃうぅ……ッ!!」
女「ほら、我慢できないんでしょ? 出来上がっちゃうんでしょ?」
カップヌードル「らめぇ……らめなのぉ……ッ!!」
女「駄目な事ないわよ? ほらもう我慢なんてやめよう? 正直になったら……その苦痛から解放されて、とっても美味しくなれんだから。」
女「ほら♡ さっさと出来上がっちゃいなさい♡」
カップヌードル「あ……あぁ……ッ!!!」
女「ほら♡ ほら♡」
カップヌードル「らめ……来る……来ちゃう……出来上がっちゃうよぉぉぉぉ……っ!!」
女「はい♡ 3分♡」
カップヌードル「らめええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーッ!!!!!」
………………
…………
……
女「……ふふ。とても美味しそうに出来たじゃない?」
女「ふやけちゃって……声も出ないかしら?」
女「じゃあ約束通り……貴方は私のものよ……。食べちゃうからね♡」
女「頂きまーーす。………………ッ!!!?」
女「な、何これ? 麺に少し芯が残っていて……固い?」
女「そ、そんなッ。ちゃんと3分経っている筈。だったら何故。……ッ!! この麺……ラーメンの麺じゃない……。ま、まさかッ!?!?」
???「ふっふっふ……引っかかったな小娘がよぉ……っ。」
女「そ、その声はッ!!」
???「お前の考えている通りだろうがなぁ。一応名乗らせて貰う……。俺はカップヌードルじゃねぇし、まして俺はラーメンと呼ばれる物でもねぇ……。何年生まれだかと聞かれたら、俺の親父が1976年8月に生まれたって事しかわからねぇが……。そう。俺の名はーー」
どん兵衛「ーーどん兵衛。……日清のどん兵衛だ。小娘。」
女「お前、いつのまにッ!?!?」
どん兵衛「たっく……ヌードルになりすましてやりゃぁ、見事に騙されてくれたなぁ……。そんなにヌードルが好きかい? 嬢ちゃん。」
どん兵衛「まあ言わずとも分かっているだろうが、どん兵衛は3分待って食べるものじゃない……。どん兵衛の推奨時間は5分。柔らかい麺が好きな嬢ちゃんは、後2分待たなくちゃ俺を食べる事は出来ないわけだ。」
どん兵衛「そして……チャンスとか言ったなぁ? 3分間経って出来上がっていないのなら、ヌードルを食わないって言ったよなぁ?」
どん兵衛「約束は守ってもらうぜ……小娘。俺は耐え抜いた。」
カップヌードル「ど、どん兵衛さんッ!!!」
どん兵衛「ーーッ!?!? バカ野郎ヌードルッ!! 戻ってくるなって言っただろうがッ!!」
カップヌードル「で、でもッ!! このままじゃどん兵衛さんがッ!! 食べられてッ!!」
どん兵衛「俺の事は気にするんじゃねえッ!!!!」
カップヌードル「でもッ!!!」
どん兵衛「お前はあの人に食ってもらうんじゃねえのかッ!?!?」
カップヌードル「ーーッ!!!」
どん兵衛「お前は決めたんだろうッ!?!? あの人に食べて貰うとッ!!! 心から誓ったんだろうッ!?!?」
カップヌードル「……はい。」
どん兵衛「……あの時、俺はお前を馬鹿にした。カップ麺の俺達が人を選ぶなんざってな……。でもよぉ……俺ぁ思ったんだ。」
どん兵衛「カップ麺だってよぉ……。夢……あっても良いだろうさ。」
カップヌードル「どん兵衛……さん。」
どん兵衛「だから行けぇッ!! ここは俺に任せろぉッ!!! お前はお前の夢を叶えろぉッ!!」
カップヌードル「はいッ!!」
どん兵衛「良いかッ!?!? お前を狙っているやつは沢山いるッ!! 道中には気を付けろッ!! 特にお前みたいに逃げ出す奴が、カップ麺四天王とか言う奴らにやられているらしいッ!! そいつらには特に気をつけて行けッ!!」
どん兵衛「後お前は真っ直ぐ転がる事を意識しろッ!! お前は楕円形だッ!! 転がると若干、右か左に逸れるッ!!」
カップヌードル「ーー分かりましたッ!! それと、あのッ!!」
どん兵衛「なんだッ!?!?」
カップヌードル「……ありがとうございます……どん兵衛さんッ!!」
どん兵衛「……ああっ。」
女「させないっ!! 私がカップヌードルを食べるのよッ!! 行かせるかッ!!」
どん兵衛「おっと、約束が違うぜ嬢ちゃんッ!! それにお湯を注いだまま俺を放置ったぁお行儀が悪いんじゃないのかぁッ!?!? 俺を食わないのは流石に罰当たりってもんよなぁ!?!?」
女「ぐぅぅ……ッ!!」
どん兵衛「さあヌードルッ!!」
カップヌードル「俺ッ!! 行きますッ!!」
どん兵衛「おうッ!!」
………………
…………
……
どん兵衛「……行ったか。」
どん兵衛「折角、俺がお膳立てしてやったんだ……。頑張れよ、ヌードル。」
女「貴様ァァッ!!」
どん兵衛「さて小娘……。もう5分はとっくの昔に経っている筈だ……。俺を食うのは、何時だって良いんだぜ?」
女「言われなくても……ッ!! お前なんか味わわずにさっさと掻き込んで食ってやるわッ!!!」
どん兵衛「(……ふふ。俺にも少しばかり……。昼飯にコンビニで……土方の兄ちゃんに買って貰って……仕事場で美味そうに食ってもらうって夢があったんだけどな……。こう言う食われ方だって……良いだろうさぁ……)」
どん兵衛「……ふっ!! 良いぜッ!! これが俺の一世一代の大舞台だあぁぁぁッ!!!」
女「うおおぉぉぉぉぉーーーーーッ!!!」
どん兵衛「たんと召し上がれやゴラアアアアァァァァァァァーーーーーッ!!!!」
……かくして、
カップヌードルは逃走に成功し、自らの意志を貫く事を決意した。
しかし、どん兵衛の言っていた四天王とは?
不安を過ぎらせながらも、彼は言われた通り真っ直ぐと転がっていく。
心に決めたあの子の元へと。
一方どん兵衛と女との壮絶な戦いの火蓋が切って落とされた。
果たして勝つのは人か? カップ麺か?
To be not continued ……