第1話
15R/BL要素/残酷な描写有りです、ご注意下さい。
ヴォルフ・グラハンスは、ソフィニアにひと月近く滞在していた。
理由は簡単、約束したあの日がもうすぐやってくる。
“愛しの君”の誕生日などと表現したら、たぶんその相手から小馬鹿にされるか、蹴りを入れられるに違いない。それでも愛しいのだから、甘い人間になったものだとヴォルフは思った。
金も力もなかった両親だが、容姿だけはヴォルフにくれたので、十代の頃から女には苦労はしていない。この街でも何人かの女と寝たことがあるが、ヴォルフにとって色恋とはただのゲームであり、時には欲情を満たすだけのもの。愛などというものは、一時の感情に流された結果だと思っていた。
それなのに、だ。
よもや自分が十二も年下の、しかも少年に恋することになろうとは……。
この半年、何故独りで行かせてしまったのかという後悔と、二度と会えないのではないかという不安と、他に恋人でも造っているのではないかという焦りが、繰り返しヴォルフの胸を刺していた。
モテないわけではないので、欲情を昇華させる女に不足はなかったし、当然やることもやった。けれど男に興味を持つこともなく、結局は彼だけなのだと分かり、だからこれは気の迷いではないと改めて思い知らされる。
あの約束が反故にされないか、それだけが心配だった。
ギルドは基本、仕事の斡旋をしているが、ハンターや旅人の為の郵便業も行っている。訪れた町でギルドに通達すれば、自分と連絡を取りたがる相手からの手紙などが届く。
どういうシステムなのかはよく分からないが、それを利用してヴォルフは何度か実家とのやりとりをしたこともあった。
待ちに待ったその日が近づくに連れ、ヴォルフは期待と不安が募っていく。ギルドに行っては連絡がないかと尋ねてはガッカリして宿に戻る。そんな毎日が続いていた。
その日もまた、ギルドへ行っていつもの質問をすると、受付嬢が好奇の目でヴォルフに微笑み返す。
「連絡と言えば、エリーさんが連絡を欲しいらしいですよ。またお会いしたいって」
「エリー?」
「ほら、ハンターの。先週、一緒に過ごしたんですって? エリーさん、すごく自慢してましたよ」
「ああ……」
一晩限りの相手などどうでも良かったので、「そのうちに」と呟いてお茶を濁した。
「それで、どなたからのご連絡を待っているんですか?」
「仕事の相手、急ぎの用事なんだ」
「あら、つまらない」
何がつまらないのかは聞かないことにして、「また来る」と言い残しその場を離れようとした。
その瞬間、受付嬢の楽しげな声が背後から聞こえてくる。
「ユリアーナさんってお仕事のお相手?」
ヒラヒラと揺さぶられる手紙をひったくり、ヴォルフはギルドを後にした。
ギルドを出て直ぐ、にやける口元を引き締めつつ、ヴォルフはその手紙をもう一度見直した。
繊細な文字で署名がされている封筒を開け、ワクワクと便箋に目を通せば、その内容に思わず仰け反る。日時と場所と時間。書かれているのはそれだけだった。
愛の言葉など期待はしていなかったヴォルフだが、本名で送ってきたのだから、もっと何か書いてあるのかと想像していただけに、肩すかしを食らった気分だ。
(らしいと言えばらしいけど……)
それでも連絡してくれたことが嬉しく、常宿に戻っていそいそと旅支度を始めた。
最後に立て掛けてあった槍に手を伸ばしながら、ふと考える。前回はずっと醜態をさらしていた上に、これを使うことも殆どなかった。だからきっと自分への印象は“情けない大人”であったに違いない。その証拠に、彼は常に上から目線の命令口調、かなり偉そうな態度だったではないか。
けれどそうなるのも仕方がないことで、出会った当初は自分の感情に戸惑い、旅の途中は振り回され、別れ際は離れたくないと惨めに哀願した。思い返しても情けない男だったし、思い出したくないほど悲愴感が漂っていた。
(今回はもっとマシな態度で接しよう)
いつまでも尻尾を振る犬のようではいられない。いずれ彼を自分のものにするためにも、もう少しクールな大人を演出したかった。