蕎麦屋にて 2
姉至上主義な蕎麦屋店員と、
銃砲を持つ男を旦那に持つ記録者のお話。
先程蕎麦を持って来てくれた店員。彼女は「零仁(レニ」と言って、日陽がここで働く際に良くお世話になっているという。仕事を始めた時期もほぼ同時期である。月織の家族に居ても、そんなに違和感はない。寧ろ違和感が仕事しない、違和感何処行った。
「零仁ちゃん、俺の妹が世話になってるね」
「いえ、スノーはとても優しいし、働き者なのですよ。とてもいい子なのです」
「そうかな?毎回転んでるし、結構ドジなんだけど…」
「そうですか?苺さんが来た時だけだと思うのですけど」
「そうなのかーっていうか苺さんやめてマジ止めて」
本日二度目の土下座である。素晴らしい程に形が整っている、この時代にカメラがあれば写真にしておさめておきたいほどである。
そして、手を合わせて。頂きます、と言って食べ始めた。義理の父親に、叩き込まれた事をなんだかんだ言って、きっちり守っているのも事実。そして、訓練を終えたばかりの彼の胃に、邪魔するような栄養素はいない。
一口が、でかい。男性とは言え、…もう少し小さく食べられませんか…。
「そう言えば、おねーさん元気?…まぁ元気なんだろうけど」
「それはもう。元気に決まってるじゃないですか、可愛いですし」
「それはいつも聞いてるから言われるまでも無い気がするんだけどね?」
食べながら、零仁の家族について尋ねる。そして彼女は、当たり前の様にさらり、と答える。だがそれが、どうしてもシスコン発言に聞こえてしまうのは何故か。勿論、彼女が姉至上主義だからであるが。
零仁には、姉が一人いる。義理の姉だが、とてもよくしてくれる優しい姉である、らしい。
修哉よりは年下なのだが、とても大人びている。其の顔立ちや立ち居振る舞いから、男に見られる事が多いらしい。だが、それも。妹にとっては自慢の一つ、その言い分は「お姉ちゃんはカッコカワイイのです!」との事。姉からしたら「頼むから、どっちかはっきりしてくれないか」なのだろう。
そんな姉が夫の元に嫁ぐ事になったのは、つい1か月前。二人が出会ったのは、ちょうど1年前だった。妹が軍の下級職に襲われそうになっていた所を、姉が助けたのである。
『俺の妹に手を出したのは、何処の輩共だ!!?前に出るが良い、俺が相手をしてやろう…!』
本当に女か、と疑いたくなる口ぶりである。
4人ほどいたのだが…あっという間に地に倒れ伏した。姉は、何も武器を持っていない状態であった。随分舐められたものだ、と零仁を連れて帰ろうとする姉を、本屋に居た青年が引き留めた。
其れが、今の姉の旦那である。
毎週一度、その本屋の前を通ると、彼はいた。入る事はしなかったが、彼はじっと、姉を見つめていたそうだ。現代でいう「ストーカー」、なのかもしれない。
共通の会話が出来てから、二人は何度も、その場所で会って、よく議論していた。姉は女ながら政治経済の分野に長け、周囲の人間からも一目置かれていたそうだ。彼女を中心に、町の隅っこで議論が小さく行われていたらしい。
そして、意を決した相手が、結婚を申し込んだ。が。
「お前の様な貧弱な男は好みでは無い!」
第一男嫌いの俺に言うんじゃない!と、断ったそうだが。数日後、街中で二人が手合わせを行い、結局姉が生涯一度の敗北を喫し、結婚するに至った。
と、言う事である。
「…零仁ちゃん」
「はい?」
「…あの人達、毎日楽しそう?」
「?はい、以前と変わらず」
変わらないものは、何時まで経っても変わらないものであった。
もうちょっと続きます。