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試作品1

作者: 蒼井伽
掲載日:2026/05/19

健全です

顔を上げると、見知らぬ町が広がっている。

 沈んでばかりもいられない――そう思いはしても、重い腰は上がらない。やはりショックからは簡単には抜け出せないようで、私はいつまでも、公園の遊具から降りられないでいた。

 幼い時から見慣れた、滑り台の上からの景色。けれども、それはいつもと違っている。滑り台は、私が知っているように黄色ではないし、公園がある場所も団地の中心ではない。

 知っている感覚と会わない景色。既視感と違和感。

――私の身のまわりは、変わってしまった。


 最大の原因は、両親の離婚だった。何があったのかはわからないが、いつからか、両親の口数は減ってしまった。母と父は口をきかず、私にも話しかけてこない。もうしばらくの間、家族の間に笑顔はなかった。

 私はそんな空気が嫌だった。小さい私にできることなど、たかが知れている。それでも何か動かなければと思っていた。両親の無表情を見るたびに、家事を手伝ったり、花を摘んできたりしたものだ(結局どれも効果はなかったけれど)。

 結局私は、知らない町に、母と引っ越すことになった。


 思い出されるいくつもの挫折。それは私の後悔であり、

―――――けれど、進むための踏み台でもあった。


―――まわりが変えられないのなら、自分が変わればいい。

―――後悔と失敗を胸に進む。


 突然耳に、父と母の声がふっとよみがえる。どうやら、父と母が私に残したものは、失敗と後悔の記憶だけではなかったらしい。

 思い出してみれば、二人はいつも、私の背中を押してくれていた。

 友達を作るのが苦手で話しかけられなかったとき、父は私に勇気をくれた。カブトムシを捕まえたくても怖くて持てなかったとき、母は持ち上げて私に渡してくれた。発表会でみんなの前に立つのが怖かった時に、声をかけて応援してくれたのも二人だ。私は憶えている。


―――――そういえば、滑り台がまだ怖かったころ、一緒に滑ってくれたな。


 足元を見る。私はもう、一人で滑らなくちゃならない。――手すりから手を放した。

 私の体は、滑り台の上をすべり始める。

最後まで読んでくれてありがとうございました

コメントくれると嬉しいです。(><)/

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