試作品1
健全です
顔を上げると、見知らぬ町が広がっている。
沈んでばかりもいられない――そう思いはしても、重い腰は上がらない。やはりショックからは簡単には抜け出せないようで、私はいつまでも、公園の遊具から降りられないでいた。
幼い時から見慣れた、滑り台の上からの景色。けれども、それはいつもと違っている。滑り台は、私が知っているように黄色ではないし、公園がある場所も団地の中心ではない。
知っている感覚と会わない景色。既視感と違和感。
――私の身のまわりは、変わってしまった。
最大の原因は、両親の離婚だった。何があったのかはわからないが、いつからか、両親の口数は減ってしまった。母と父は口をきかず、私にも話しかけてこない。もうしばらくの間、家族の間に笑顔はなかった。
私はそんな空気が嫌だった。小さい私にできることなど、たかが知れている。それでも何か動かなければと思っていた。両親の無表情を見るたびに、家事を手伝ったり、花を摘んできたりしたものだ(結局どれも効果はなかったけれど)。
結局私は、知らない町に、母と引っ越すことになった。
思い出されるいくつもの挫折。それは私の後悔であり、
―――――けれど、進むための踏み台でもあった。
―――まわりが変えられないのなら、自分が変わればいい。
―――後悔と失敗を胸に進む。
突然耳に、父と母の声がふっとよみがえる。どうやら、父と母が私に残したものは、失敗と後悔の記憶だけではなかったらしい。
思い出してみれば、二人はいつも、私の背中を押してくれていた。
友達を作るのが苦手で話しかけられなかったとき、父は私に勇気をくれた。カブトムシを捕まえたくても怖くて持てなかったとき、母は持ち上げて私に渡してくれた。発表会でみんなの前に立つのが怖かった時に、声をかけて応援してくれたのも二人だ。私は憶えている。
―――――そういえば、滑り台がまだ怖かったころ、一緒に滑ってくれたな。
足元を見る。私はもう、一人で滑らなくちゃならない。――手すりから手を放した。
私の体は、滑り台の上をすべり始める。
最後まで読んでくれてありがとうございました
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