第39話 高校1年生 ~協力してくれる大人~
四人はドラッグストア隣のファミレスへ移動した。
昼食をそれぞれ注文する。
「健斗、読書は結構進んだのか?」
「異世界編も現実世界編も、あと2つずつ」
「かなり進んだね」
「そっか。そろそろ、真剣に考えないとね」
――この世界の生活を止めて、異世界に行く。
本に載っていたような訓練や戦いの日々に耐えられるのか。
記録の書を正しく使えば、この世界からいなくなることはないから、行方不明扱いにはならない。
二つの世界を行き来することもできる。
それでも、家族に会えない時間は長くなる。
ちゃんと生きて帰れるかもわからない。
考え出すと、不明点が多く、不安になるばかりだ。
それでも、行くのかどうかを決めなければならない。
「もし行くなら……“協力してくれる大人”について考え始めないとね。
これ、決めるのに時間がかかりそう」
由奈の言葉に、全員が箸の手を止めた。
「うん、それね。一人指名しないといけないんだよね。
私もちょっと考えてたけど……」
「“協力してくれる大人”って……すぐには思いつかない」
「記録の書の中でも、みんな決めるのに苦労してたよな」
由奈は、あと少し残ったシーフードドリアを眺めながら、神妙な面持ちで言った。
「こんなこと、誰かに話すって、なかなか難しいよね」
健斗はチキン南蛮をつつきながら頷く。
「大人って、こういう話を聞いて信じてくれるのかなぁ」
晴基がコップの水を一口飲んでから言った。
「そっからして不安だよな。
大人とか関係なく、こんな話、普通は信じられないだろ」
「できれば、みんな知ってる人がいいけど……」
“協力してくれる大人”――
現実世界で問題が起きそうになったとき、
秘密を守りながら、状況をうまく回してくれる人。
けれど、そんな相手が都合よく思い浮かぶほど、四人の周りに頼れる大人は多くなかった。
家族にこんな話をしたら、信じてもらえたとしても、きっと引き止められてしまう。
親でなくても、普通の大人はそうするだろう。
そして、親にしろ、親戚にしろ、学校の先生にしろ――
信じてもらえるイメージが湧かない。
全員の食事が終わり、ドリンクだけが残されたテーブルを囲んで、四人はそろって思案顔になる。
「ちょっと、おかわりするわ」
「俺も」
健斗と晴基が立ち上がった。
「ほんとに、誰に話せばいいのかなぁ」
席に残った由奈が、コップを握りながらつぶやく。
桂花はそれには答えず、考え込んでいる様子だった。
男子が戻ってきて席に着く。
晴基がストローでアイスティーをかき混ぜながら言った。
「なぁ、どんな人がいいか、書き出してみないか?」
「あ、うん、それ大事かも。
やみくもに考えても仕方ないもんね」
「確かに。
今の学校の先生、まだよく知らないし。
そういう人はダメだよね」
「そうだな。あと、親は心配するからダメだ」
由奈は頬杖をつきながら言った。
「私が最初に思い浮かんだのは、おばあちゃんなんだよね。
話は信じてくれそうだけど、私たちが困ったときに走り回ってもらうのは難しいよね」
桂花はストローの袋を指でいじりながら言った。
「私は近所のお和尚さんかなって思ったけど……
なんか違う方向に話が行きそう。現実世界と異世界って、あの世とこの世……みたいな」
健斗はテーブルの上で腕を組んだ。
「俺も従兄が思い浮かんだけど、口が軽そうなんだよ。
親に言うなって言っても、たぶん黙ってられない。まだ大学生だしな」
「なんか……結局、みんな自分の周りからしか探せないよね」
「ファンタジー系のゲーム作ったり、小説書いてる人ならいけそうだけど。
そんな人、簡単には会えないよな」
「じゃ、条件になりそうなのはこんな感じか?」
晴基はここまでの話をもとに、紙に書き出す。
・信頼できる人
→ 秘密を守ってくれる
・親とは繋がらない人
→ 家族ルートで話が回ると、絶対止められる
・できれば四人全員が知っている人
→ 全員にとって信頼がある方が安心
・ちゃんと聞いてくれる人
→ 話に耳を傾けて、一緒に考えてくれそうな人
・行動力がある人
→ いざというとき、冷静に動いて助けてくれる人
・会いに行ける人
→ この夏休み中に動ける範囲。遠方は難しい
書き出したあと、晴基が思わず笑った。
「ハードル高っ」
健斗も苦笑する。
「こんな人、そうそういないだろ」
桂花がため息をついた。
「“理解があって口が堅い人”なんて、ね……」
「これ、無理じゃね?
当てはまるの、“経験者”くらいだろ」
「あー、前に異世界で勇者やった人たち?」
「そそ。既に事情を知ってる人なら、きっと話が通じる」
「でも……その人たち、今、この世にいたら相当な年配だよね。
頼むとか、無理そう」
「条件全部満たす人なんて……まったく思いつかない」
テーブルの上に沈黙が落ちる。
周りの笑い声や、店員の呼び出し音が、やけに遠くに感じられた。
四人とも、言葉を失ったように黙り込む。
由奈はコップの水滴を指先でなぞりながら言った。
「とりあえず、これ宿題にしない?」
「そうだな。今日、結論出るとは思えねー」
「じゃ、次集まるときまでに考えとくか」
一瞬、間が空く。
「次は、いつにする?
あと、これって、異世界行く前提で考えてるけど……みんな、それでいいの?」
「それも含めて、次までに考えとこう」
次回は、明後日――8月4日(金)に集まることになった。




