第38話-D 高校1年生 ~さざ波のあと~
由奈は健斗にメッセージを送った。
由奈
「近くにいるから、戻るね」
メッセージを見て健斗は胸を撫で下ろした。
(よかった。帰ってなかった)
そして、十分も経たないうちに由奈はテーブルに戻り、健斗の向かいにゆっくり腰を下ろした。
「――由奈」
由奈が席に戻ったとき、健斗の見せた笑顔には安堵が滲んでいた。
由奈も小さく微笑んだ。
「高野くん……。早かったね」
「うん。言いたいこと、決まってたから」
「そっか。
莉乃ちゃんは……帰っちゃったんだね」
健斗は苦笑した。
「まぁ、最後、ここに残れる雰囲気じゃなかったしな」
由奈が思った以上に、健斗はあっさりしていた。
由奈は自分の飲みかけのカフェラテのカップを覗いた。
(高野くんと莉乃ちゃんの関係、もしかしたら元に戻るかもって思ってた……。
これも、高野くんには言っちゃダメなのかな……)
晴基の言葉を思い出しながら、健斗の顔をちらっと見る。
(……つい、言いそうになっちゃうけど、きっとダメだ)
「由奈、ごめん、席外させちゃって」
健斗は申し訳なさそうに言った。
「ううん、高野くんのせいじゃないし。
こういうふうになるの、だいたい想像してたから」
由奈は笑って顔を上げた。
「……莉乃ちゃんにとっては、ほんとは私がいない方がよかったんだろうしね」
由奈がそう言うと、健斗は目を伏せた。
「……由奈を外したの、めっちゃ腹立ってさ」
「あはは。私は大丈夫だよ。
高野くん、機嫌悪そうだったから。大丈夫かなって思ってた」
由奈は少し俯いて続けた。
「莉乃ちゃん、やっと高野くんに会えたって喜んだ顔してたから。
二人の感じが違いすぎて、心配になったけど」
「悪いけど、素っ気なくしてた」
「……そっか。高野くん、あの感じのままだったんだね」
健斗は小さく笑い、思い出すような仕草をした。
「あいつ、何しに来たんだろうなぁ」
「何をって、そりゃあ、高野くんと……」
由奈が言いかけたとき、健斗が気を取り直したように言った。
「ねぇ、由奈。
俺さ、今日、本持ってきてるんだ。由奈がよかったら読書の続き、一緒にしようかと思って」
健斗は本を取り出してテーブルに置いた。
由奈は、胸の奥が温かくなった。
(高野くん、ちゃんと読む気になってくれてるの、なんか、すごく嬉しい)
「由奈、この後、行けそう?」
「うん……。ダメじゃないけど」
(地元なのがちょっと)
健斗が少し身を乗り出した。
「じゃ、この後、どっか行く? それとも、ここ雰囲気いいから……」
――そのとき、突然声がかかった。
「ねぇ、暑いから入ってきちゃったけど。
なんか盛り上がってるところ?」
聞き覚えのある声が頭上から聞こえた。
由奈が慌てて見上げると、火照った顔をした晴基と桂花がすぐ横に立っていた。
二人とも額に汗が滲んでいる。
「ああっ、ごめん」
由奈は慌てて立ち上がった。
「あれ?
晴基と小藤さんじゃん」
健斗も二人を見上げた。
晴基が汗を拭きながら言った。
「いやー、外暑かったなぁ」
「ごめんねー、連絡すればよかった」
「いや、いいけどさ」
桂花がニヤニヤしながら言った。
「また読書デートなの?」
「ちょっ、桂花! 変な言い方しないで」
晴基は不思議そうな顔で言った。
「なに? 読書デートって」
「あれ、古山は知らないの?」
「知らない」
「そうなんだ」
桂花が由奈と健斗を見た。
健斗が座ったまま、晴基を見た。
「日曜日に、由奈に読書手伝ってもらった。一日で初代の異世界編、読み終わってさ。今は、現実世界編にも手をつけてる」
晴基が興味深そうな顔をした。
「へー、そんなことあったのか。
どこで?」
「県立図書館」
「へー」
「今日も本持ってきてさ。この後、由奈と一緒にどっかで読書したりしようって言ってたんだ」
「高野くん……その言い方、なんかイメージ違わない?」
桂花はニヤニヤしながら言った。
「えー、いいじゃん。カフェで読書デートか」
由奈が掌を左右にひらひら動かしながら言った。
「いや、読書だってば」
晴基も言った。
「まぁ、今日のはデートでいいんじゃないの?」
由奈は目を閉じた。
「うう……もう、なんでもいいや」
健斗がはっとして言った。
「あっ、もしかして、晴基たちも気にして来てくれてたってこと?」
「ん? そうだよ。この店の前にいたら由奈が出てきたから驚いたけどな」
「私も二人が外にいたの、ちょっとびっくりしたけど。
さっきまで、こっから少し離れたところで三人で話してたの」
健斗が少し目を見開いて晴基と桂花を見た。
「そっか。二人とも由奈と一緒にいてくれたのか。ありがとう」
由奈も頷いた。
「うん。私も二人に会えてよかったよ。
ねぇ、もうお昼も近いし、みんなでどっか行く?」
晴基が健斗を見た。
「健斗の読書は?」
健斗が笑う。
「いや、もう、みんなでどっか行けばいいじゃん。読書は家でもできるし」
「じゃ、あそこのドラッグストア隣のファミレスかな」
「そうだな。じゃ、行くか」
四人はカフェを出てファミレスに向かった。




