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第38話-C  高校1年生 ~さざ波~

一方、


由奈がカフェの席を立った後。


莉乃はすぐに健斗へ向き直った。


健斗の目は警戒の色を一気に強くした。

テーブルの下では、指で膝を小刻みに叩いている。


それに気付かない莉乃は、笑顔で言った。


「健斗、来てくれて嬉しい。やっと会えた」


健斗は黙って莉乃の顔を見た。


莉乃の表情には、「やっとここから」という雰囲気が漂っている。


一方、健斗はほとんど表情がない。


莉乃は少し目を細め、健斗を見つめながら話し始めた。


「最近ね、健斗と由奈が一緒にいたの見たって、友達が言ってたの。

なんか、すごく楽しそうだったって。

それ聞いて、わたしも健斗とちゃんと話したくなったんだ」


健斗は目を伏せ、黙ってその言葉を聞いていた。


「久しぶりに見た健斗、ちょっと大人っぽくなってた。相変わらずかっこいいし。

前よりずっと、いい感じになってる。

……また仲良くしたいって思った」


莉乃の声は穏やかで楽しげで、飾り気がなかった。


「ずっと気まずかったから、急には無理かもしれない。

でも……、わたしも健斗と連絡とったり、会ったり。

そういうの、できたらって思ったの」


健斗は、ゆっくりまばたきをしてから顔を上げた。


「……それは、できない。俺には、そういう気持ちはないから」


莉乃は眉間に皺を寄せ、まばたきを繰り返す。


「うん……。そっか。

ちゃんと会ったら、健斗、態度変えてくれないかと思ってたけど。

……やっぱりダメなんだ」


健斗は小さく頷いたが、それ以上は何も言わなかった。


しばらく沈黙が続く。


莉乃は幾分か声を落として口を開いた。


「小六の頃、覚えてる?

あたし、健斗の言葉に泣いちゃって、健斗を困らせたよね」


健斗は眉をひそめた。


あの頃の記憶は断片的になっている。

しかし、その時のことは覚えている。


あれは、針の筵だった。


クラスの人気No.1の女子だった莉乃と噂があった自分。

そんな自分が莉乃を泣かせた。


さぞかし、注目を集めた出来事だっただろう。


しばらく、みんなの視線が痛かったのを覚えている。


今となっては、莉乃を泣かせたこと自体より、

自分の言葉が他人を傷つけたことの方がショックだったのだと思う。


それから、言葉選びに少し慎重になった。


莉乃は続けた。


「今思えば、あたしがただ子どもだっただけ。

健斗の言葉に怒って泣いて。

でも……今、また健斗と仲良くしたいって思う気持ちの方が大きくなったんだよね。


ううん、中学生の時も、全然話せなかったけど、本当は健斗と話したかった。

健斗が他の子と付き合ってること知ったとき、悔しかった……」


莉乃は少し笑った。


「だからきっと、また言うと思う。会いたいって」


健斗はゆっくり莉乃を見て言った。


「……何回そう言われても、俺の気持ちは決まってるから」


「健斗……、連絡先、教えてもらえない?」


「連絡とる必要ないから。

それにもう、由奈や晴基にも迷惑かけないでほしい。

今日はそれが言いたくて来ただけ」


莉乃は、寂しそうに笑った。

納得したようにも見えたが、その瞳の奥に、まだ何かが残っているようにも見えた。


「……わかった」


莉乃はそう言って立ち上がり、手に持ったアイスキャラメルラテを見つめた。


健斗は莉乃から視線を外し、スマホを見た。

通知は入っていない。


小さく息を吐き、目を伏せる。


さっき店を出る前、由奈が一瞬こちらを見た顔が頭に浮かんだ。


(……まだ、いるよな)


そう思いながら、素早く指を動かしてメッセージを書き始めた。


「じゃ、わたし、帰るね」


莉乃はそう言ったが、健斗はスマホに視線を落としたままだった。


莉乃はその姿を少し寂しそうに見つめ、店を出ていった。


―――


一方、由奈たちは木陰で話していた。


「由奈、お前、それ、一体いつのこと思って話してんだよ?」


晴基の呆れた声に、桂花が頷く。


「ほんとだよ。むしろ高野、渡瀬さんの話、嫌がってるじゃん」


「健斗、あのときの決裂以来、莉乃に全然こだわってないからな。

仲直りしなくても平気そうだった。

だから、今の態度が正直な莉乃への気持ちだと思う」


由奈は俯いて言った。


「……うん、そうかもしれない」


晴基がはっきり言った。


「とにかく、莉乃とお似合いとかつり合ってるとか、もう健斗に言うなよ」


由奈は頷く。


「……うん。

高野くんからも言うなって言われてるから、本人の前では言ってない。

他にも田下さんの話とか、かわいい女子とお似合いって言っても嫌がられたし」


晴基と桂花は、うんうんと頷いた。


「あっ」


由奈は思い出した顔で手を打った。


「古山くん、私、高野くんに彼女いるのかどうか確認してって言われてたじゃん」


「ああ」


「私、聞いてみたの」


「聞き出せた?」


「高野くん、前に高校があんまり楽しくないって言ってたからさ。

彼女できたら高校楽しくなりそうだけど、夏休み前とか同じ高校の子から告白されたりしなかったの?って聞いたの」


「はぁ……」


「そしたら、高野くん、何も言ってくれなくてさ。

むしろその後、何も話さなくなっちゃったの。

だから結局、確認できてないんだ。彼女いるのかいないのか」


晴基と桂花は同時に肩を落とした。


晴基はため息をつく。


「由奈、それもダメだ……」


桂花が小さく言う。


「言い方がまずいよ……」


晴基は目を閉じてうんうんと頷いた。


(健斗……、なんか気の毒だな)


由奈は不思議そうな顔で桂花を見た。


「え……、そうなの?」


――その時。


由奈の手の中のスマホが震えた。


由奈は画面を見る。


健斗

「由奈、ごめん。今どこ?

莉乃、もう帰るみたい」


「早っ!

高野くんから。

莉乃ちゃん、もう帰りそうだって。話ついたってこと……?

えーっ、私がカフェから出てきてから十五分くらいしか経ってないよね」


「健斗、早く終わらせたんだろ」


「由奈、早く行ってあげなよ」


「うん、とりあえず戻るね」


由奈は来た道を戻り、カフェへ向かっていった。


それを見届けて、晴基が呟いた。


「由奈、なかなかだな」


桂花が首をひねる。


「うん。なんで由奈って、高野のことになるとわかってない感じになるんだろう。

高野の態度から何か感じててもよさそうなのに」


「俺も思った。由奈って鈍いやつじゃないのにな」


桂花は少し考えてから言った。


「なんか、ずれてるっていうか……」


晴基は頷いた。


「だな」


「とりあえず、高野はがんばったみたいだね」


少し間を置いて、晴基はぼそりと言った。


「……でも、由奈、やっぱりわかってないと思うぞ」



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