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第38話-A  高校1年生 ~投石~

由奈は家に帰って食事とシャワーを済ませると、部屋のベッドに沈み込んだ。


今日もいろいろあった。


(高野くんが読書頑張ってくれたのは良かったな)


けど、健斗が読み終わったら、異世界に行くかどうかを決める必要が出てくる。

まだ心が決まったわけではないが、全員が行かなければ魔王封印はできないことは、記録の書を読めばわかる。


けど、今は考えないようにしたい。


まだ、もう少し、曖昧な心境で過ごしたい。



---


健斗の読書を手伝った二日後。

8月1日(火)。


由奈は夏期講習のために学校に行った。


休み時間、席で復習していると、机の前に影ができた。


顔を上げると、思わぬ人物がいた。


――莉乃だった。


今日、由奈は自分の教室にいる。

ほとんど由奈のクラスのメンバーだ。


莉乃は、このクラスは真面目な雰囲気だから近寄りづらいと言っていたが。


(よほどのことなんだろうな)


由奈はなんとなく予感した。


「由奈、ちょっといい?」


莉乃に言われ、由奈は頷いて立ち上がる。


廊下に出たところで、莉乃が口を開いた。


「ねぇ、健斗と連絡とれるでしょ?」


由奈は思わず声を出しそうになり、こらえた。


(なんで私にそんなことを……?)


「日曜日に、健斗が由奈といるところ、見たって子がいるの」


背中に、冷たいものが走る。


(どこかで、見られてたんだ……)


由奈は黙って莉乃の言葉を待った。


莉乃は俯き、それから顔を上げた。


「わたし、健斗に会いたいの」


莉乃はじっと由奈を見る。


由奈は莉乃を見つめ返した。


(高野くんが困ることもわかってるけど……。

莉乃ちゃんは諦めないだろうな)


由奈は静かに言った。


「……どうすればいいの?」


「健斗に会えるようにしてくれない?」


莉乃は目に力を込めた。


「ねぇ、由奈、お願い。

もし、由奈さえよければ三人でも」


「えっ、それはさすがに変じゃない?」


「でも、健斗、気まずくて私に関わりたくないないのかなって。

だったら、二人だけは嫌だろうから。

だから、誰か来てほしいの」


「それ……、古山くんに頼んだら?」


「晴基はあんまり話を聞いてくれないの。健斗が会いたがらないのをわかってるからって」


「……そっか」


莉乃は探るように言った。

「……健斗と由奈って、付き合ってるわけじゃないよね?

日曜日もたまたま一緒のとこ見られたってだけで?」


「……うん」


(たまたま……じゃないけど。読書の約束してたなんて言えない)


「じゃあ、頼んでもいいよね?」


「……うん。でも、高野くんに聞いてみないと」


莉乃の声のトーンが落ちた。

「やっぱり……由奈、健斗と連絡とれるんだ」


胃の底に冷たい感覚を覚えた。

由奈の体の力が抜けたようになる。


(ああ、嫌だ……こういう空気)


由奈は取り繕うように言った。


「あ……終業式の日、カフェに行ったとき、なんとなく、みんなで交換する流れになってね。使うことないと思ったんだけど……」


「へぇ。なんとなく……ね。

あの時、そんなふうになったんだ。わたしも残ってたらよかったな」


「そう……だね」


由奈は俯いた。


「とにかく……高野くんに聞いてみるよ」


「うん、お願い」


莉乃はそう言って去っていった。



次の授業が始まる前に、由奈はLINEにメッセージを送った。


(LINE)


由奈

「高野くん、ごめん。嫌な話するかも」


「莉乃ちゃんが高野くんと会いたいって。

私、断れなかった。ごめんね」


健斗の反応は、早かった。


健斗

「マジか……」


「こっちこそ、なんかごめん」


「実は晴基からちょっと聞いてた。

莉乃が俺の連絡先知りたがってるって。

でも、晴基に断ってもらってた」


由奈

「そっか。大変だね。

どうする?断っておこうか?」


「ごめん、今から夏期講習だから、あとで返すね」



由奈は、いったん健斗との連絡を中断した。


(なんでこんなことになるんだろう……)


由奈は、思わずため息をつきそうになった。

授業に集中し、どうにか気を紛らした。


講習後にスマホを見ると、健斗からメッセージが入っていた。


健斗

「俺は会いたくないけど。由奈に断ってもらうのも変だから」


由奈はメッセージを続けた。


(LINE)


由奈

「じゃ、どうする?会う?」


「二人だけは気まずいなら、誰か一緒に行っても良さそうだったよ」


「私、莉乃ちゃんから、よかったら来てって言われるけど。

高野くんは古山くんがいるといいよね?」


健斗

「気まずいっていうか、関わりたくないって感じだけど……」


「莉乃の友達とか来ても困るな」


「晴基、結構何回か断ってくれててウンザリしてたし。

ほんとに悪いけど、由奈、来てくれない?」


由奈はそのメッセージに一瞬固まった。


(……いやいや、ちょっと勘弁してよ)


「私より古山くんの方が頼りになるし」

そう送りかけて、指を止めた。


(古山くんにも負担だよね。

高野くんも困ってるだろうし)


由奈は、メッセージを打ち直す。


由奈

「わかったよ。古山くんにも負担だろうから。私で良ければ」


「ちなみに、莉乃ちゃんは高野くんが気まずいから会いたがらないんじゃないかって思ってたよ」


健斗

「ありがとう。助かる。

これ以上、由奈と晴基に迷惑かけないためにも、ハッキリ言うよ」


「いや、気まずいって……なんか違うし」


由奈

「私はほんとに、そこにいるだけになっちゃうと思うけどね」


「いつにする?」


健斗

「こんなん、早く終わらせたいから。明日とか、いい?」


由奈

「そうだね。私は大丈夫。

莉乃ちゃんに聞いてみるよ」


健斗

「うん」


由奈は、莉乃に翌日の都合を確認した。


(LINE)


由奈

「明日なら、高野くん、会ってくれるみたい。ただ、私も行くことになったけど」


莉乃

「よかった~由奈、ありがとう!

じゃ、時間と場所、決めてほしい」


由奈

「わかった」


由奈はため息をついた。


(仕方ない……)


由奈は、二人が話しやすそうな店を探す。


駅付近の、普段あまり行かない通りにある、落ち着いた雰囲気のカフェ。

高校生同士はあまり使わなさそうだが、あの二人には似合うかもしれない。


(ここなら、雰囲気よさそうだし、知ってる人もあまり来なさそうだし)


健斗と莉乃に店と時間を伝える。


(よりによって、こんなことに巻き込まれるなんて……)


さっきの莉乃の声が思い出される。


『やっぱり……健斗と連絡とれるんだ』


(そりゃあ、莉乃ちゃんからしたら、そうも言いたくなるよね)


(高野くんと私が一緒にいたのって、どんなふうに伝わったんだろう)


小六の教室の空気が蘇る。


『ねえ、高野くんってさ、最近けっこう由奈と喋ってない?』

『うんうん、なんか楽しそうにしてるよね』

『前から気になってたんだけど、あれって……ちょっと意外じゃない?』


“健斗と莉乃が並んでいる”


それが当然の空気。


だから――


(やっぱり、私が高野くんと連絡とれるなんておかしいんだろうな。

高野くんは、莉乃ちゃんといるのが自然……なんだよね)


頭の片隅で、莉乃の目の前でそっぽを向いたり、莉乃の話題に不機嫌になった健斗の表情も思い出す。


(あれが今の高野くんの本心だとは思うけど)


でも――


実際に会って、きちんと話せば、高野くんの気持ちも少し変わるかもしれない。


(もしかして、これで二人が元に戻るかも……?

それがみんなが納得できる形……)


そこまで考えて、由奈は思考を止めた。


(考えても仕方ない)



――その間、健斗は晴基に連絡していた。


(LINE)


健斗

「莉乃が由奈に、俺に会えるようにしろって、言いに来たらしい」


晴基

「マジか。由奈のとこまで?

しつこいな。

つーか、由奈、それ断れないだろ」


健斗

「ああ。断れなかったって言った」


晴基

「それは仕方ない」


健斗

「明日、三人で会うことになりそう」


晴基

「は?

三人?」


健斗

「俺と由奈と莉乃。

莉乃がそれでいいって言ってたらしい」


晴基

「マジか。由奈、大丈夫なの?」


健斗

「俺がさっさと話を終わらせるつもり」


「晴基や由奈にこれ以上迷惑かけないように、莉乃に、はっきり言う」


晴基

「一応、時間と場所、教えてよ」


健斗

「由奈が、明日でいいか莉乃に確認してくれてるから。

決まったら教えるよ」

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