表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/74

第36話  高校1年生 ~届かなかった~

7月25日(火)

晴基が本を持ち帰った二日後。


由奈は夏期講習のために登校していた。


休み時間、廊下の方から声がかかる。


「佐山さん、呼ばれてるよ」


指された方を見ると、後ろの扉のところに晴基が立っていた。


由奈は頷き、廊下へ出た。

「どうしたの?」


由奈が寄っていくと、晴基が一言。

「……お疲れ」


「うん、古山くんも」


「……」


晴基はなにも言わない。


「古山くん、読書は順調?」


「……ああ、わりと読み進めてるよ。

異世界に行って何をするのか、わかってきた」


「うん。分厚いけど、わりと読みやすいよね」


「そうだな」


由奈は晴基の顔を見た。


(なんだろ、古山くん、歯切れ悪いな。用事あったんじゃないの?)


すると晴基は、小さくため息をついてから言いにくそうに口を開いた。


「……これさ、言っていいかどうか、健斗に確認してないんだけどさ」


神妙な言い方に由奈は少し身構える。

「うん……」


晴基がぽつりと言った。

「……莉乃がさ」


「うん」


「健斗の連絡先、知りたいって言ってきた」


「えっ」


一瞬、胸の奥が波打った。


けど――

(まぁ、そうだよね。そうなるはず)


「……うん」


由奈は小さく微笑んだ。

「そうなると思ってたよ」


晴基は意外そうな顔をした。

「え……、そうなの?」


「うん」


「……もう、莉乃ちゃんに教えたんでしょ?

だったら、きっと……」


晴基は首を横に振る。

「いや。健斗に確認したよ。莉乃に連絡先教えていいかって」


「あ、そうだね。高野くんの了解は取った方がいいもんね」


『莉乃の話はもういい』


カフェでそう言っていた健斗の顔が思い浮かぶ。


(まぁ、ああいうふうには言ってたけどさ……)


「高野くん、きっと断れないよね」


晴基は口元だけで笑った。

どこかいたずらっぽさが滲んで見えた。

「……健斗、教えないでほしいって言った」


「え……」

由奈は思わず目を見開く。


「なんで……?」


「なんでって……嫌だからだろ」


「……そっか」


「由奈もわかったよな?」


「うん……でも、なんでだろうね」


晴基は眉を寄せた。

「いや、だから、どう見ても……嫌だからだって」


由奈は目を伏せた。

「……あの二人、両想いって言われてたのに。決裂した後は戻らなかったもんね」


胸の奥がざわつく。

思わず、手を胸に当てた。


晴基は淡々と言った。

「健斗が謝っても莉乃は許さなかったしな。健斗もそれっきり何もしなかった」


由奈は俯いた。


少し、間が空いた。


「私……なんだかんだ言っても、高野くんと莉乃ちゃんは戻るものだと思ってた。

お互い、ずっと素直になれなかっただけじゃないかなって」


晴基は眉をひそめた。


由奈は呟くように言った。

「……だから、今の話聞いて、二人にはチャンスだったのに、って思った」


晴基は、再会の日と前の日曜日の、健斗の様子を思い出す。

(いや、どう考えたって、健斗は……)


「……由奈、莉乃とカフェに行った時の健斗、覚えてる?」


「うん……」


「莉乃が帰ったあと、健斗、自然だったよな。楽しそうだった」


「……そう……だったね」


日曜日、莉乃の話で機嫌が悪くなった健斗の声が甦る。


(莉乃ちゃんの話、本気で嫌がってた……)


そこで由奈の思考は止まりかけた。


けど――


(……あっ)


「高野くん、彼女いるのかもね」


晴基の表情が固まった。

「え……?」


「だから嫌なのかも」


「は? 健斗、彼女いるって言ってた?」


「ううん。久しぶりに会っただけなのに、そんな話しないでしょ」


「いや、俺はたまに連絡してたけど、聞いたことない」


「日曜日にね、莉乃ちゃんとか田下さんみたいなかわいい子が高野くんには似合うねって言ったの。

そしたら、高野くん、あんまりいい顔しなくて」


「え……、由奈、それ、マジで言ったの?」


「うん。だから、高野くんに言われて、お詫びでサンドイッチ一緒に食べることになったの。

……別に、あれ、奢れってことでもなかったんだな」


晴基は小さく息を吐いた。

「はぁ……」


由奈は続ける。

「好きな子か彼女がいるなら、莉乃ちゃんのことも日曜日のことも、なんか納得できる」


晴基は何か言おうとしているが、言葉が出なかった。


「でも、そもそも私が言うことじゃなかったのかもね」


晴基は呻くように言った。

「いや、健斗さ、お前になんつったんだよ……」


「え?」


そして晴基は踵を返す。

「もう戻るわ。じゃ」


「え?」


晴基は後ろ手を振って歩き出した。


由奈はスッキリしないまま見送った。


次の瞬間、由奈は思いついて晴基の背中に声をかけた。


「あっ、ねぇ!」


振り返った晴基に駆け寄る。


「古山くん、莉乃ちゃんに連絡先断るの、嫌な気分じゃなかった?」


「あ? ……まぁ、ちょっとな。

でも健斗、関わりたくなさそうだったし。俺が断るのがちょうどよかったんだろ」


(やっぱり、古山くん、友達思いだな)


「……そっか。大変だったね」

由奈は穏やかに微笑む。


晴基は力の抜けたように笑った。

「由奈、気が向いたらさ、健斗に彼女いるか聞いといてよ」


「えー、きっと教えてくれないってば」


晴基は手を振って去っていった。


由奈は背中を見送りながら首を傾げる。

(古山くん、なに言いたかったんだろう……。)


言いにくいことを、わざわざ教えてくれたみたいに見えたけど。


『健斗、お前になんつったんだよ……』


晴基は確かにそう言った。


――だが、


考えかけて、やめた。

(……気にすることじゃないよね)


一方、


晴基は教室へ戻りながら思う。

(……由奈って、やっぱ気が回るんだよな。

健斗の代わりに断る俺の気持ちまで考えるなんて)


――でも


(健斗のこと、何もわかってないように見えたけど……)


二人が笑い合っていた光景を思い出し、思わずため息が漏れた。


(健斗……これ、長くなりそうだな……)


晴基は頭を掻きながら教室へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ