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第35話-C  高校1年生 ~同じ皿の距離~

由奈と健斗は、注文した品をカウンターの端で待っていた。


やがて、BLTEサンドイッチとホットドッグ二つが載ったトレイを由奈が店員から受け取り、歩き出すと、健斗が腕を伸ばしてきた。


「持つよ」


「え、大丈夫だよ」


由奈は、健斗がそんなふうに自分に気を使うとは思っていなかった。


「いいから」


健斗は腕を差し出したまま引かない。由奈はトレイを健斗に渡した。


「ありがとう」


(気を使ってもらったのかな……。なんか、変な感じ)


健斗はトレイのサンドイッチを見て言った。


「うまそうだな、これ」


その様子を見て、由奈は思わず笑う。


「あはは。高野くん、そんなにBLTE、食べたかったんだ。あの写真、美味しそうだったもんね」


健斗は一瞬、面食らった表情になった。


「え?……ああ、まぁね」


何か言いかけたようにも見えた。けれど言葉は続かず、健斗は嬉しそうに笑顔を返した。


席に戻ると、晴基と桂花が含みのある表情で待っていた。


桂花が二人を交互に眺める。


「おかえり。結構、時間かかったね」


由奈は曖昧に笑った。


「うん……」


健斗はあっけらかんと言う。


「でも、由奈と話しながら待ってたら、あっという間だったじゃん」


桂花は吹き出し、由奈は表情が固まる。


「ははっ、そうなんだ、良かったじゃん」


健斗はホットドッグを一つずつ晴基と桂花の前に置いた。


そして桂花のいる席を指しながら言った。


「由奈、ここね」


そこは健斗と向かい合う席だった。


「え?」


健斗は自分の席にサンドイッチを置いた。

晴基と桂花はそれを見つめ、しばらく黙っていた。


やがて、桂花が自分のグラスとホットドッグを、もともと由奈が座っていた窓側にスライドさせ、健斗の向かいの席を空けた。


由奈は申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、桂ちゃん」


「え、いいよ、別に」


晴基は一度だけ健斗を見て、何も言わなかった。


健斗は由奈を覗き込む。


「由奈?」


「あ、うん……」


由奈がおずおずと座ると、健斗は二人の間にサンドイッチを置いた。


「へぇー」

桂花はにやりとしてホットドッグを手に取る。


(やっぱり、桂花、そういう顔するよね……)


図書館の女子トイレでも散々冷やかされたので、容易に想像がついていた。


(後で誤解を解かないと……)


晴基は黙ってホットドッグの包みを外して食べ始めた。


健斗もサンドイッチに手を伸ばす。


そして、由奈を見て言った。

「うまいな、これ」


(もう。なんでこうなったの……)


由奈は曖昧な笑顔を返した。


(……桂花の方は、見ないようにしよう)


見なくても、桂花の表情が目に浮かぶ。


由奈もサンドイッチに手を伸ばした。


手に取って口に運ぼうとしたとき、健斗がじっと見ていることに気づく。


「え……、私、食べるけど、いい?」


「うん、食べて」


健斗は視線を外さない。


(……見られてると落ち着かないなぁ)


一口食べる。


「うん、おいしい」


由奈は頬張りながら言った。

実際、お腹が空いていたので、なおのことだ。


健斗が安心したように笑う。

「な、うまいよな、これ」


「うん」


健斗は満足そうな顔で由奈を見つめた。


目が合いそうになり、由奈はサンドイッチに視線を落とした。

なんとなく、見ちゃいけない気がした。


晴基と桂花は何も言わず、二人の様子を見ていた。



桂花がホットドッグを半分ほど食べたところで言った。

「なんかさ、本のこと、不安でいっぱいだったけど、不安なの自分だけじゃないって思ったら、少し気分が軽くなったな」


由奈は頷く。

「そうだね。こんなの、一人じゃ抱えきれないよね」


晴基は包みをたたみながら言った。

「そうだな。このメンバーで一緒に考えていくしかないしな」


健斗が苦笑する。

「俺、読めるかどうか自信ない。あれ、めっちゃ読むとこ多いじゃん。絵もないよね?」


「あー、健斗、本読むの好きじゃないもんな」


由奈も頷く。

「確かに、苦手な人には分厚いよね」


桂花が言う。

「でも、わりと読みやすいよ。私でも一週間くらいだったし」


「健斗、お前がもたもたしてると、異世界が滅ぶぞ」


「えー、そういうこと言わないでよ」


晴基が頭の上で両指を重ねた。

「ま、俺も挫折しないようにしないとな」


食べ終わり、店を出る。

途中から男子二人とは別の道になる。


夕日が差す中、由奈と桂花は並んで歩いた。


桂花がからかうように言う。

「ねぇ、由奈、今日も高野と仲良かったじゃん。サンドイッチ分けてたし」


由奈は肩をすくめる。


「言われると思った。でも、そうでもないよ。列で並んでるとき、高野くんのこと不機嫌にさせてたし」


「えっ、そうなの?そんなふうには見えなかったけど?」


「うん。私も怒らせるつもりなかったけど。莉乃ちゃんや田下さんみたいなかわいい子と似合ってるよって言っただけなのに、不機嫌になってさ」


桂花の顔が引きつった。

「由奈、高野にそんなこと言ったの?」


由奈は少し不可解そうに言った。

「うん……。私は高野くんのこと、褒めたつもりだったんだけどね」


「褒めたつもりって……。この前、高野、渡瀬さんのこと苦手そうにしてたじゃん。『勝手にくっつけるな』って言ってた」


「まぁね……。あれ、本気だったんだなって思った。それに、高野くんのことを見てる子が何人もいるよって教えてあげたときも、あんまり反応よくなかったな」


それを聞いて桂花は小さくため息をついた。


(高野、きつかっただろうな……)


由奈は前を見て歩いている。


桂花はその横顔を見た。


(まさか由奈って、高野のこと全然わかってないの?

鈍いタイプじゃないのに……)

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