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第35話-A  高校1年生 ~にわかには信じられないけど ~

19日(水)に桂花から本を受け取った由奈は、夢中で読み進めた。


内容をだいたい覚えていたので、読みやすかった。

そして、今のところ、気になることはない。


本が光り出すことが心配だったが、それもなかった。


22日(土)の午前中には読み終えた。


由奈は天井を見上げ、小さくため息をつく。


(四人で集まらなきゃいけなくなるな……)


けど――


いきなり、自分が本を読み終わったから集まろうと言っても、健斗には意味がわからないだろう。

かと言って、本のことをメッセージで細かく説明するのは、ますます混乱を招きそうだ。


「みんなで集まろう」と言い出すのも、自分の役割ではない気がする。

そもそも、グループLINEを作るのを渋った手前、積極的に集合をかけるのはやりづらい。


由奈は少し迷った末、決めた。


(やっぱり、古山くんに任せよう)


(LINE)

由奈

「本、読み終わったよ」


晴基

「まじ? 早っ!

明日、集まれるか確認するわ」


(古山くんはやっぱり、話が早いな)


感心していると、晴基からグループLINEにメッセージが入った。


(LINE)

晴基

「明日、集まれない?」


三人からすぐにOKが入った。


夏休み中の日曜の午後、カフェは賑わっていた。


晴基が一番乗りで、注文を済ませてテーブルに着き、ボックス席で三人の到着を待つ。

グループLINEで席の位置を伝えた。


五分もしないうちに由奈が来て、晴基の向かいに座った。


「昨日は、グループに連絡してくれてありがとう」


「ああ。それで、なんか変なとこ、あった?」


「ううん、特には気づかなかったかな」


「そっか」


そこに桂花が来て、由奈の隣に座る。


「お待たせ」


前に会ったときより、桂花の表情はすっきりして見えた。


「さて、あとは健斗……」


晴基がそう言いかけたとき、健斗がテーブルの横に立った。


「あ、一番最後か。お待たせ」


――私服の健斗も目立つ。


由奈は、にわかに興味が湧いてあたりを見回した。

少し離れた席の女子グループが、明らかにこちらを見ている。


(……やっぱりね)


健斗は昔からこうだ。

特別なことをしているわけでもないのに、自然と周りの女子の目を引く。


(高野くん、気づいてないんだろうな。

こんなんだと、高野くんの彼女になる子って大変そう)


自分の彼女をヤキモキさせているのに何も気づいていない健斗を想像すると、なんとなく可笑しくて笑いそうになる。


(ありそう!)


そして、そんなことを思う自分に、少し安心する。


健斗は晴基の隣に座り、軽く三人を見回した。


「グループLINE、結構すぐに使えたじゃん」


そして、健斗の視線が由奈に向けられる。

健斗はふっと微笑んだ。


(え……)


胸の奥がわずかに揺れる。


由奈は慌てて微笑み返す。

自分でもぎこちないとわかる。


その拍子に、図書館での健斗の言葉を思い出した。


『……前より、かわいくなったって思った』


(……あれは、真に受けるやつじゃない。ただの、高野くんの気まぐれだし)


そこに、桂花の言葉も被さってくる。


『高野って、昔からモテてたけど、誰にでも「かわいい」とか言って回るタイプじゃなかったよね?』


由奈は無意識に小さく首を横に振る。


(……きっと、高野くんはそういうタイプになったんだってば)


そして、何度も小さく頷く。

そのとき、桂花に肘で軽く突かれた。



――本の話を切り出したのは晴基だった。


「実はさ。今日、集まりたかったのは、あの本のことなんだよ」


健斗は不思議そうな顔をしている。


由奈はバッグから本を取り出し、丁寧にテーブルへ置いた。


健斗が身を乗り出す。


「え、あの時のやつ?」


由奈と桂花が頷く。


「桂花と私は読み終わったよ」


「えっ、早くない?」


「私は一週間くらいかかったけど、由奈は四日くらいだよね」


由奈はパラパラとページをめくった。

「前も思ったけど、これ、読みやすいんだよ」


晴基が静かに言う。

「それで――前に読んだ時と比べて、ページが増えてるらしい」


「は?」


晴基が問題のページを開き、健斗に見せた。

由奈もその箇所を指す。


「ここが、増えてたの」


「増えたって……うそでしょ」


健斗は本を引き寄せ、読み始めた。

一度読み、もう一度読み返す。

さらにページを透かしてから、もう一度。


そして顔を上げた。


「……これ、誰かが書き足したとか、ある?」


「私もそう思った。でも、そんな感じ、した?」


健斗は首を捻った。


しばらく沈黙が落ちる。


「……なぁ」


声が少し低くなる。


三人の顔を順に見てから言った。


「これ……俺たちのことみたいに見えるんだけど?」


「そう思うでしょ? 桂花も私も、びっくりしたんだ」


桂花も小さく頷く。


健斗が三人を見回して言った。

「じゃあ、これって……どうするの?」


晴基が呟く。

「はぁ……どうしたもんかねぇ……」


アイスティーの氷をストローでカラカラと鳴らした。


健斗は本から目を離し、テーブルの中央に視線を落とす。


由奈は静かに言った。


「……まずはこれ、四人とも読まないといけないよね」


桂花が驚く。

「えっ、由奈、これ、行くつもりなの?」


「いや、行くとも行かないとも決められなくて……」


由奈は、ぽかんとした顔をしている男子二人に向けて説明した。


「選ばれた四人が本を読み終えると、この本の舞台の異世界に転移する権利が発生するって書いてあるの」


桂花が続けた。

「小学生のときはこういうのいいなって思ったけど、この世界、魔王封印のための訓練とミッションの日々だよ」


健斗と晴基の声が揃う。

「異世界って……」


由奈は努めて明るく言った。


「ほら、ゲームの世界に入る感じ。

中世ヨーロッパ風で、剣と魔法、お城、ダンジョン……本読めばわかるよ」


桂花が苦笑する。

「はは。由奈、言い方、軽いし」


「わかりやすいかと思って」


「それって、敵に襲われたり、ダンジョン行ったりするってこと?」


由奈が頷くと、晴基は眉をひそめた。


「戦ったら怪我もするし、暗いところにいたら不安にもなる。

……つまり、命がけってことだろ」


健斗も言った。

「……それに、俺たち、この世界からいなくなるってこと?」


「いきなり知らないところに放置されて、冒険して来いってことはないみたい。

こっちの世界で、行方不明扱いにならないしくみもあるし」


健斗と晴基は言葉を失う。


桂花が苦笑する。

「由奈、あんた、あっけらかんとしてるよね」


由奈は笑って言った。

「いや、こう見えてもかなり困惑してるんだってば」


「……そりゃそうだよね」


由奈はため息をつく。


「なんか……みんなが動揺してると、逆に冷静になっちゃうっていうか」


晴基がぼそりと言った。

「なるほど……」


沈黙。


「……でもさ」


由奈は小さく息を吸う。


「私たちが行かないと、多分、この本の世界が滅ぶの」


――空気が凍った。


桂花は目を伏せ、健斗と晴基は表情を固める。


「……そっか」


空気を動かしたのは晴基だった。


「とりあえず、俺、本、持ち帰るわ」


健斗は驚いた顔で晴基を見て、もう一度ページを見た。


由奈たちの話は、にわかには信じられない。

けれど、不思議と、由奈が出まかせを言っているようには感じられなかった。


由奈は頷いた。


「ねぇ、ちょっとお腹空かない?」


時計を見ると、集合から二時間ほど経っていた。

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