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図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第三章 高校1年生 1学期
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第30話  高校1年生 ~雨宿り~

「そろそろ、ここ出る?」


小一時間ほど四人で話したところで、由奈が時計を見た。


外はまだ明るいが、再会した頃の真昼間とは、陽射しの角度が変わっている。


「そうだね」


由奈と桂花が帰る雰囲気を出すと、男子二人も立ち上がった。


店を出ると、まとわりつくような熱気が肌に触れる。


四人は分かれ道までしばらく同じ方向へ向かった。


健斗と晴基の後ろを、由奈と桂花が並んで歩く。


「健斗、腹減ってない?」

「あー、空いてる」


「桂ちゃん、この後、うち来る?」

「うん、行く!」


もともと待ち合わせしていた組み合わせの二人ずつで話しながら歩く。


すると、空がにわかに暗くなってきた。


そして次の瞬間、激しい雨が降り出す。


「ひゃー、なにこれ!」

「ええー!? 天気予報、そんなこと言ってなかったよね?」

「こんな雨になるなんて、知らなかったー」

「とりあえず、図書館入ろう!」


四人は声を上げながら、近くの市立図書館へと駆け込んだ。


自動ドアをくぐると、冷房の効いた空気に触れ、濡れた体が一気に冷えた。


ロビーにはすでに何人かが雨宿りしていた。


「うわ、ベタベタ……」

夏服のシャツは濡れると肌に張りつく。


休憩スペースを覗いてみたが、ほとんどの椅子に子ども連れや高齢の利用者が座っている。


四人はハンカチやタオルで水を拭き取り、タオルを肩にかける。


そして、自然と閲覧スペースへ足を向けた。


やや奥まったところにカウンター席が空いていて、そこに落ち着く。


窓の向こうには雨が降り続いてるのが見えた。


由奈は思わず腕をさする。

濡れた服の冷たさが、じわりと肌に残る。


それぞれ本棚へ向かい、本を手に取る。


由奈はミステリー小説、桂花は風景の画集、健斗は雑誌。晴基は友人に借りた漫画。


先に座っていた由奈の右隣に、健斗が腰を下ろした。


桂花は左隣に座る。


健斗は自分の隣の椅子に荷物を置き、由奈に手を差し出した。


「荷物、ここ置けるよ」


「え……ありがとう」


由奈は鞄を手渡す。


(高野くん、こういう優しいところ、変わらないんだな)


小さく微笑み、本に目を落とした。


やがてトイレに行っていた晴基が戻り、桂花の隣に座る。


ちらりと健斗を見て口元を緩めたが、何も言わない。


閲覧室は静かだった。


紙の擦れる音だけが、やけに大きく聞こえる。


由奈は本に集中する。


桂花も晴基も、本に目を落としている。


だが――健斗だけが落ち着かない。

雑誌をめくっては止め、顔を上げ、また落とす。


しばらくして、右側から視線を感じ、由奈は顔を上げた。


健斗がこちらを見ている。


「……どうしたの?」


小声で問いかけると、健斗ははっとしたように目を逸らした。


「由奈、昔から本読むの好きだよね」


「え?」

少し目を大きくし、頷く。

「うん」


すぐに本へ視線を戻す。


「それ、どんな話?」


「探偵と女子高生が一緒に事件の謎を推理する話みたい。まだ読み始めだけど」


短く答え、ページをめくる。


「面白い?」


「……たぶん」


由奈は視線を上げない。


(高野くん、雑誌面白くないなら、替えてこればいいのに……)


文字を追うことに意識を向ける。


――五ページほど読み進めた頃、また小さな声がした。


「あのさ……」


由奈は顔を上げた。

つい眉間にシワがよる。


健斗の目が、まっすぐ自分を見ている。

「……さっき、言いかけたことなんだけど」


「さっき……?」


少し考えてから、思い当たる。


「あっ。カフェで、だよね?」


「……うん」


健斗は息を吸い、言葉を探すように一瞬黙る。

そして、小声で話し始めた。


「由奈の雰囲気、変わったって言ったじゃん」


「うん」


短い沈黙のあと、健斗は続けた。


「……前より、かわいくなったって思った」


――心臓が跳ねた。


完全に虚を突かれる。


「え……、そ、そうかな……ありがとう」

声がわずかに上ずる。


鼓動が速くなる。胸の奥が熱い。


(……なにそれ)


思わず、視線が宙に浮いた。


左側からの視線に気づき、はっとして見ると桂花と目が合った。


口元に笑みを浮かべ、わずかに肩を震わせている。


その様子に気づき、晴基も覗き込む。

「なに?」


桂花がにやりと笑う。

「後で話すね」


由奈は俯いた。

(これ、後で絶対聞かれるやつ……)


最近、クラスの男子にも言われる。

『佐山さん、かわいいね』


嬉しくないわけではない。

ちゃんと女子として見られているのだと分かる。


でも――

(……高野くんは、違う)


そう思った瞬間、胸の奥が静かに引き締まる。

ふと、かつての声がよみがえった。


『んなわけねーよ、こんな地味なやつ。女子じゃねーし』


その言葉を思い出すと、心のざわつきが引いていった。


(そうだよね……)


小さく息を吐き、少し俯いた。


それから顔を上げて、口元だけで小さく健斗に微笑む。


健斗も照れたように微笑み返す。


健斗は、さっきまでの落ち着かなさが嘘みたいに、静かに雑誌へ視線を落とした。


由奈も、本に目を落としてページをめくる。


でも、文字は目に入るのに、意味が頭に残らない。


(もう少しで落ち着くはず)


由奈は、本を読んでいるふりを続けた。


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