第28話-B 高校1年生 ~別の世界の人たちと2~
由奈の前を歩いていた健斗が、ふと歩調を緩めた。
桂花は、思わず健斗を見た。
健斗は後ろへ振り返ったかと思うと、そのまま少し後ろへ下がり、由奈の隣に並んだ。
(ん、高野、なに?)
由奈は一瞬、健斗を見たが、何も言わない。
それを見た莉乃は、少し眉をひそめた。
由奈は視線を前に戻した。
莉乃の方を見なかった。
桂花はそれを見て、首を傾げた。
(なにこれ)
晴基は健斗の動きを目で追っていたが、何も言わず、前を向いたまま歩いている。
健斗は少しの間、黙って歩いていたが、ふいに由奈の方を見ながら口を開いた。
「学校は、楽しい?」
由奈は一瞬驚いた表情で健斗を見た。
「え?」
しかし、すぐに視線を戻し、淡々と続ける。
「……楽しいよ。友達もいい子ばっかりで」
その間も、莉乃はちらちらと健斗を見ていた。
由奈は小さく息を吐いた。
そして、視線を前に向けたまま言った。
「高野くんは、高校、ちょっと遠いんだっけ」
健斗は由奈の横顔を見ながら言った。
「うん。うちの学校、知ってる子が少ないし、まだ馴染みきれてない感じ……。
やっぱり近くが良かったなって、今になって思うよ」
「そっか。最初に知り合いがいないのはきついよね」
由奈はそれ以上、言葉を続けなかった。
健斗は笑って頷き、少しだけ視線を落とした。
「学校、思ってたのと、ちょっと違ってさ。派手な子多いんだよ、周り」
少し間が空いた。
由奈と桂花は顔を合わせ、声を出して笑う。
健斗は目を丸くした。
「えっ、なに?」
由奈が笑ったまま言った。
「いや、なんとなく。
高野くんは、そういう環境、大丈夫そうなのにって思っただけ」
健斗は苦笑した。
「いやいや、ぜんぜん。自分のキャラがわかんなくなる」
その言葉に、由奈の歩みがほんのわずかに遅れた。
そして、視線が一瞬、健斗に移った。
桂花はそれを見逃さなかった。
(由奈?)
しかし、前を歩く莉乃が声を高くして晴基と笑い合うのが聞こえ、由奈の視線はそちらへ移った。
そして、由奈は歩幅を戻した。
――少し間が空いたあと、
由奈が口を開いた。
「そういえば、さっき、高野くんに呼び止められたよね。あれ、なんだったの?」
健斗は一瞬きょとんとした顔をした。
「ああ……あれね。あれは……特になんでもなかったんだけど」
「え?」
「は?」
由奈と桂花の声が重なった。
思わず、二人は健斗の方に目をやる。
健斗は少し困ったように笑った。
「いや、なんとなく、だった……」
(え、なにそれ)
桂花はぽかんと口を開いた。
――校門で、身を乗り出すみたいにして呼び止めていたのに。
あの顔は、“なんとなく”の顔じゃなかったはずだ。
三人の前方からは、莉乃の弾んだ声だけがよく聞こえてくる。
相変わらず声を高く上げて笑い、晴基の方を見たが――視線の先は健斗だった。
由奈はその様子を見て小さく息を吐き、視線を足元へ落とした。
そして、そのまま歩く位置を少しだけ桂花の方へ寄せた。
健斗は同じ歩幅で歩きながら由奈の方に目をやった。
由奈は、前を見たままだった。
夏の陽射しがアスファルトを照らし、熱気が揺れていた。
どこか噛み合わない空気の中、由奈は歩き続けた。




