第28話-A 高校1年生 ~別の世界の人たちと~
眩しい夏の陽射しが刺さる中、舗装された歩道の上を、五人はカフェに向かう。
健斗、晴基、莉乃が前を歩き、その少し後ろに由奈と桂花が続く。
晴基を真ん中にして、左側が健斗、右側が莉乃。
由奈は健斗の後ろを歩き、桂花はその右側にいる。
莉乃は、晴基に笑いかけながら学校の話をしている。機嫌がいい様子が伝わってくる。
桂花は、莉乃の横顔を見ながら思った。
(渡瀬さん、古山に話してるけど、高野を意識してる気がしてならないわ)
声が妙に高く、笑い声も大きい。
桂花が横を歩く由奈にちらりと目をやると、由奈も莉乃を見ていた。
桂花は由奈の顔を覗き込み、小さくニヤリと笑う。
由奈も少しおどけた表情を作り、口をすぼめて同じ顔をした。
二人は、居心地の悪かった小学校の教室で、クラスメイトを観察して過ごしていた。
つい、その頃の感覚に戻りかけてしまう。
(さっきまで通知表の話をしてたのに、それが嘘みたいに思えるな)
高校から離れるにつれ、何が現実なのかわからなくなっていく気がするけれど――
――この時間は処理するもの。
今日、莉乃は高めのポニーテールをオレンジ色のシュシュで結んでいる。
由奈でも見とれるきれいなうなじに、かすかに汗が滲んでいる。
(相変わらず似合ってる。
ポニーテールは、みんなの中で “莉乃の髪型” だったな)
――小六の時。
莉乃がポニーテールで学校に来た時、ちょっとした騒ぎになった。
すごく似合っていて、かわいかったからだ。
クラスの中心にいた華恵は、少し面白くなさそうだったけど。
あの時、莉乃は黄色いリボンをちょうちょ結びにしていた。
クラスの中心にいた女子たちや一部の男子が、莉乃の周りに集まっていた。
健斗が莉乃の傍にいて、莉乃が揺らしたポニーテールにちょっと触れた時、
莉乃は嬉しそうに笑っていた。
けれど、他の男子が同じことをしようとしたら、莉乃がびっくりして嫌がって泣いた。
その男子は、女子たちに睨まれ、居心地悪そうにしていた。
数日後、別の女子がポニーテールで登校してきた。
朝の教室で、誰かが笑った。
「莉乃の真似じゃん」
「ほんとだー、莉乃の真似してる」
言われたその子は笑っていたけど、二時間目のあとには髪をほどいていた。
――そこで、由奈は、はっとした。
さっき、校門のあたりで胸が冷えた感覚が、形を持った。
――あの頃の並びだ。
あの教室に立っているように感じられた。
(あぁ、嫌だ……)
由奈は、思わず首を振った。
「由奈?」
桂花が声をかけた。
由奈は一度まばたきをしてから、はっとしたように顔を上げた。
「……あ、ごめん」
何でもない、というように小さく微笑む。
かわいかった莉乃は、今、大人っぽく綺麗になった。
健斗も相変わらず人目を引く。
(二人とも、相変わらずだな)
由奈はそっと息を吐き、顔を上げて前を歩く健斗と莉乃を見た。
……たぶん、このあと二人は普通に話し始める。
そうなったら、私は少し離れる。
昔から、そうだった。
でも――
(これは、今日限りのこと。私にとっては、“今”のことじゃない)
目の前では、健斗と晴基が何か話しながら笑い合っている。
高校生になっても、二人の空気感は小学生のころから変わらない。
親友同士の会話のテンポと、信頼の滲む空気。
それが今も二人の間には確かにあった。
――小六の途中まで、由奈はこの中で一番背が高かったのに、今では一番低い。
桂花も莉乃も、由奈を抜かしていった。
女子の後ろから二番目を定位置にしていた由奈は、どんどん前に移っていった。
(高野くんや古山くんにも、知らないうちに抜かれてたな)
今、莉乃は二人の男子の会話に交じることができず、少し退屈そうに彼らを見ながら歩いている。
由奈は一度、肩で呼吸をしてから、少しゆっくりまばたきし、まっすぐ前を見た。
そして、歩き続けた。
熱気を含んだ夏の風が吹いた。




