第27話-C 高校1年生 ~どうせ今日限り~
「あーーっ!」
女子生徒の叫び声が響いた。
周りにいた生徒が思わずそちらを振り返る。
健斗と晴基もびくりとして、声の方を見た。
「ねぇっ、まさかとは思うけど……健斗くん?!」
そこには、化粧映えのする女子生徒が立っていた。
――莉乃だ。
由奈と桂花は同時に天を仰いだ。
(あー……終わったというか、始まったというか……)
でも――
(こんな興味深いシーンを見逃すわけにはいかない)
桂花はすぐに健斗を見る。
健斗はこちらを見たまま固まっている。
まるで、さっきまでの由奈だ。
少し前まで、ぎこちなさはあったが表情は明るかったのに、今は困惑したまま動かない。
莉乃は、少し遠慮がちに健斗に駆け寄り、その顔を見上げた。
その横で、晴基は少し顔をしかめ、左手で顎に触れながら二人を交互に見ている。
由奈は無表情。
だが、しっかり健斗と莉乃を見据えている。
莉乃は健斗の視線をたどった。
「由奈? あれ、小藤さんも?」
次に右後ろを見上げ、目を丸くする。
「えっ、晴基もいるじゃん!」
視線をきょろきょろさせてから、明るく通る声で言った。
「久しぶりだね! でも、どういうこと?」
誰も言葉を発しない。
セミの声が妙にうるさく響いている。
「四人で待ち合わせ?」
莉乃はそう言っていないのに、桂花には「そんなことあり得ないと思うけど」と聞こえた気がした。
「違うよ」
温度感のない声で答えたのは由奈だった。
その声は異様に冷たく響いた。
「へぇ」
由奈の態度にも動じず、莉乃は興味深そうに笑う。
桂花は由奈の表情を窺った。
(由奈、さっき古山と歩いてきた時、こんなんじゃなかった)
もっといい表情をしていた。
高校生活が楽しいんだと、すぐにわかるほどだったのに。
「由奈、校舎違うと全然会わないね」
「そうだね。久しぶりだね」
当たり障りのない会話。
相変わらず、由奈の声は冷めている。
桂花には、由奈の気持ちがわかる。
莉乃が現れて、この場にあの頃が戻ってきたみたいになってしまった。
――健斗と莉乃がクラスの中心にいた頃。
二人はみんなに囲まれ、ちやほやされ、両想いだろうと噂されていた。
毎日、楽しそうだった。
そんな中、由奈と桂花は、居ても許される場所を常に探していた。
心を抉るような記憶が押し寄せる感覚は、桂花にも手に取るようにわかる。
そして、案の定――
由奈は違和感があるほど落ち着いた声で言った。
「桂ちゃん、行こうか」
桂花は由奈を見る。
その顔には、感情らしいものがほとんど浮かんでいない。
由奈は、桂花が「行こう」と言えば、すぐここを離れるだろう。
(あ……でも、高野に呼び止められてたのにな)
桂花は思わず健斗を見る。
(高野、何か言いたかったんじゃないの?)
それにしても、莉乃はさっきから健斗ばかりを見つめている。
初めて見る健斗の高校の制服姿に釘付けだ。
(これがまた、この場から去りたい気持ちに拍車をかけるよね……)
桂花はため息をついた。
「桂花?」
由奈が桂花の顔を窺う。
桂花も由奈を見る。
(由奈、ここから離れたいって顔してる……)
その時、晴基が一瞬、健斗を見た。
それから一呼吸置き、
「みんなで、カフェ行かない?」
晴基は軽い言葉で、その場の空気を揺らした。
莉乃の顔がぱっと輝く。
「えっ、行く行く!」
「え……」
反対に、由奈は声色で乗り気でないとわかる。
沈黙。
返事を待つ空気が流れる。
「どうする、桂ちゃん?」
桂花は思わず健斗と晴基を見る。
二人はこちらを見ていた。
由奈は、桂花に「もう行こう」と言ってほしそうに見えるけれど――
桂花は頷いた。
「行こうよ、カフェ」
「え……っ」
由奈は眉を寄せ、信じられないという顔をした。
(行ったら疲れるかもしれないけど……)
役者が揃い過ぎていて、何か起こりそうな気がする。
桂花の好奇心が勝ち、強く断る気になれなかった。
それに――
桂花は小声で言った。
「どうせ今日限りだよ。なんか面白そうじゃん」
由奈は呆気にとられたが、やがて思い直したように、目に浮かんでいた迷いの色を薄くした。
そして、大きく息をついてから、小さく微笑み頷く。
由奈は健斗と莉乃から視線を外し、晴基を見る。
「じゃあ、ちょっとだけ行こっかな」
声の温度は少し戻ったが、健斗と莉乃の方は一切見ない。
けれど、その言葉で健斗の表情がわずかに緩んだように見えた。
「よし! そういうことで」
晴基が駅の方へ歩き出す。
健斗と莉乃が続く。
由奈と桂花も、一度、顔を見合わせて歩き出した。




