第27話-B 高校1年生 ~思わぬこと~
「声、でかいし」
健斗は苦笑しながら桂花を見た。
相変わらず、明るく人懐こい印象の目だ。
「ごめ……。でも、どうして……」
桂花は両手で口を覆いながら目を丸くしている。
「晴基に会いに来たら、由奈と小藤さんもいるから。驚いたのはこっちだよ」
「だよなー」
晴基は楽しそうだ。
(あ……。由奈、さっき固まってたけど……)
桂花は由奈の横顔を見る。
由奈は黙って健斗を見ていた。
さっきまで固まっていたけれど、今は胸に手を当てている。
(……由奈も、びっくりしたよね)
桂花も少し深く息を吸った。
健斗は一歩進んで由奈の前に立った。
「由奈も、久しぶり」
穏やかな声だった。
そこで、由奈の目つきが変わったように見えた。
一拍置いて、由奈は健斗を見上げて口を開いた。
「……うん。
高野くん、久しぶりだね」
由奈の声はいつも通り。
さっきまでの動揺はすっかり消えている。
笑顔も浮かんでいる。
それを見て、なぜか桂花はほっとした。
再会が重なって、少し驚いたけど。
(まぁ、こういうこともあるよね。
でも、ただの偶然)
けど――
(高野の目、なんか前より少し優しい?)
桂花は中学の時のことを思い出した。
(誰かも、そんなこと言ってたな。誰だっけ?)
『高野くんが、由奈ちゃんを見つめる目ってさ、女の子を見てるって感じ。優しい目だよね』
(今も、そんなふうに見えたな)
桂花は由奈と健斗を交互に見た。
(でも、由奈は表情がちょっと硬い?
さっきまで、そんなことなかったのに……)
そこからひとしきり、再会の会話。
みんな笑顔だ。少しぎこちないけれど。
途中、桂花の目の端に見たことのある男子の姿が入った。
――太田だ。
中三の秋以降は、毎日由奈と帰っていたのに。
由奈は気づかない。
太田は少し面白くなさそうに、こちらをちらりと見て通り過ぎた。
桂花は、一人で歩く太田の背中を見送った。
(……由奈は、ほんとに太田とは何もなかったんだ)
その少し後、由奈が言った。
「桂花、もう行く?」
「あ、うん」
桂花は頷いた。
一瞬、桂花の視界に入った健斗が、何か言いたげにも見えたが――
(……まぁ、いいか。
久しぶりに会って、これ以上話すこともないでしょ)
いいかげん暑いし、お腹も空いている。
「じゃ、古山くん、また夏期講習で会えたらね。
高野くん、元気でね」
そう言って由奈が手を振って歩き出し、桂花も小さく手を振って由奈に並んだ。
「桂ちゃん、これからどこ行く?」
「うーん、とりあえず駅の方?」
「暑いし、お腹空いたね」
「ほんとだよー」
二人の声は、校門から遠ざかっていく。
しかし――
十歩も行かないところで、
「あのさ!」
由奈と桂花の背中に声が飛んできた。
二人は足を止め、思わず顔を見合わせて、ゆっくりと振り返った。
健斗が少し前のめりになって、何か言おうとしている。
けれど、言葉は続かない。
それでも、しっかりとこちらを見ている。
その沈黙が、やけに長く感じられた。
――その空気を破ったのは、由奈だった。
「……なに?」
とても淡々としていた。
興味が後ろに引っ込んだような声音。
桂花は思わず由奈の顔を見た。
声と乖離のない表情。
そのとき――
由奈の横顔の奥、桂花の視界に別のシルエットが飛び込んだ。
(あっ……あれ?)
桂花は少し身を乗り出し、目を見開いた。
(え……っ。
……あれって、まさか……)
桂花の視線が固まる。
(やば……)
あちらはまだ気づいていない様子だが、視線が交差する予感。
桂花は思わず背を向けた。
(なんで今日に限って……?
役者が揃いすぎなんだよ)
由奈も桂花の様子がおかしいことに気づいたのか、同じ方に目をやった。
そして、すぐに顔を逸らした。
二人の様子に、健斗はぽかんと口を開けた。
――その直後、恐れていたことが始まった。




