表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/52

第26話  高校1年生 ~落ち着かないまま、夏休みへ~

「ねぇ、金曜日、春日くんと帰って、どうだったの?

私の話なんて、出なかったでしょ?」


月曜日、裕香が尋ねてきた。


「え……っとね、普通に話しながら歩いたよ」

由奈は、しどろもどろに答えた。


裕香はニヤニヤしながら言う。

「一緒に歩いてるの、教室から見てた」


「えっ、そうなの?」

由奈は驚いて顔を上げる。


「うん。私だけじゃないよ。クラスの子、結構見てた」


「えー……。

ね、ちゃんと誤解解いといてくれた?」


「誤解? 何が誤解なの?」


「確かに一緒に帰ったけど……

春日くん、ちょっと不安そうな顔してたから、何か困ってるのかなって思ったし……

もしかして裕香ちゃんのこと気にしてて、私に聞こうとしてたのかなって……」


「何ブツブツ言ってるの? しかもそれ、言い訳にしか聞こえないけど?」


「そうだよね……」

由奈は項垂れた。


「でしょ。春日くんが不安そうな顔してたのだって、また由奈に断られるかもしれないって思ってたからじゃないの?」


裕香はにこにこしながら言う。


「そんなことない、と思うけど……」

由奈はそれ以上、言葉を続けられなかった。


「やっぱり、春日くんは由奈と帰りたかったんだよ」


「えー、だって、そんなはずないもん。たまたま、一緒に帰れる子を探してただけなんだってば」


「まだ、それ言う?」


「だって、そうだもん」


そこに、佳菜子が小走りでやってきた。

「ねぇ、由奈ちゃん、金曜日、春日くんと帰ってたよね。すごいね!」


「ちょっ、声が大きいって」

由奈は慌てるが、佳菜子はきょとんとして言った。


「え? みんな知ってるじゃん」


「えっ、みんな?」


由奈が驚くと、佳菜子はうんうんと頷く。


「えー……」

由奈は頭を抱える。


だが、裕香と佳菜子の視線は温かい。

“由奈なら大丈夫”とでも言いたげだった。


(全然、大丈夫じゃないってば……)


「そうだよね、クラスの子とたまたま同じ方向に帰るなんて、普通普通」

由奈は自分に言い聞かせるように頷いた。


それを見た裕香と佳菜子は顔を見合わせ、小さく肩を竦めた。



夏休みまで、一週間を切った。


夏休みになれば、夏期講習で学校には来るけれど、毎日クラスの子と会うことはなくなる。


実は、春日には地元に彼女がいたりしないのだろうか。


もしそうなら、

高校のクラスの女子を誘って帰るなんて、彼女は嫌がるだろうな、と思うけれど。


なぜか春日は、そういう不誠実なことをするタイプには見えない。


(もしかして、私は女子っぽくなくて、気楽に話せるから誘ってくるのかな?)


そんな考えは今さら無理があるかな、とも思ったが、


(とにかく、夏休みまでだから)


――その時、スマホが震えた。


桂花からのメッセージだった。

「由奈の高校も、終業式14日だよね? 昼から会わない?」


その誘いに、気分が切り替わる。


(桂花に会える)


「うん、14日、終業式。

うちの校門で待ち合わせる?」


由奈のメッセージに、桂花がスタンプで了解を示してきた。


(夏休みになれば、こんな話は立ち消えるに決まってる)


「とにかく、こんなことは夏休みになったらみんな忘れるって」

由奈はそう言って笑った。


それよりも、桂花に会えると思うと、急に楽しみな気分になってきた。



そして、終業式の日。


ホームルームで通知表が配られ、教室はざわつきながら解散していく。


由奈は、桂花との待ち合わせまで少し時間があるため、裕香たちを見送ったあと、席で時間を潰していた。


すると、右隣に背の高い影が差し、思わず見上げる。


春日だった。


(あ……)


由奈の気持ちが一気にそわそわし始めた。


そして、春日は穏やかな表情で口を開いた。

「佐山さん、一緒に帰らない?」


前より自然な口調だった。


裕香に言われたことがふと頭をよぎる。


『やっぱり、春日くんは由奈と帰りたかったんだよ』


「あ……」


思わず漏れた声とともに、由奈は立ち上がる。


「きょ、今日はこの後、友達と待ち合わせがあってね。今、ちょっと時間潰してるんだよね」


今日は、断る理由がある。


「そっか。待ち合わせまで、ここにいるの?」


「うん。隣の高校の子だから、うちの校門で待ち合わせ。久しぶりに会うから、楽しみなんだ」


周囲の視線が集まり始めているのを感じる。


「そっか、それはいいね。

あ、佐山さん、夏期講習は取るんだよね?」


「うん。数学と英語と古文」


「僕も同じの取ってるから、その時に会えるね」


嬉しそうに笑う春日に、由奈も微笑むが、心臓は落ち着かない。


(この人、ほんと……どういうつもりで言ってるんだろう)


「じゃ、またね」


春日は爽やかに言って去っていった。


由奈は振っていた手を下ろし、周りを見回す。


何人かのクラスメイトが慌てて視線を逸らした。


(あぁ……なんか、誤解されてる……)


小さくため息をつく。


ふと思い立って窓際に行くと、春日が足早に校門から出ていくのが見えた。


まっすぐ前を向き、迷いのない歩き方だった。


立ち止まる様子もなく、そのまま人の流れの中へ入っていく。


(春日くん、ほんとはあんなに歩くの速いんだ。……あの時、合わせてくれてただけなんだよね)


理由はわからないのに、胸の奥が少しだけざわついた。


春日は、今日も声をかける機会を待っていたのだろうか――

そう考えかけて、由奈はその思考を打ち消した。


――これ以上考えるのは、ろくなことにならない。


(あ、そろそろ行かなきゃ)


時計を見て鞄を手に取り、待ち合わせ場所の校門へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ