第23話 高校1年生 ~期末テスト~
六月の下旬になると、期末テスト週間に入った。
朝から空は曇っていて、校舎の中には湿った空気がこもっていた。
じっとしているだけでも、汗ばむ季節だ。
中間テストの頃は、まだ基本的な内容が多く、そこまで大変ではなかったが、期末テストの頃には習ったことが増え、内容も少しずつ難しくなってきている。
由奈は、科学コースに入学したが、子どもの頃から読書が好きで、数学などよりも国語の授業の方が得意だと感じていた。
特に、みんなが苦手になりがちな古文や漢文は、最初こそ慣れない言葉が多く、覚える文法や単語も多くて途方に暮れたものの、だんだんと好きになっていった。
一気に教え込まれる文法事項は膨大に感じられたが、これを覚えなければ先に進めないと、由奈は直感した。
意を決して、数日間集中して文法書を読み、覚えることを繰り返した。
単語も、教科書の中でわからないものは辞書で調べ、毎日眺めて少しずつ覚えていく。
そうしているうちに、授業も理解できるようになった。
予習をして授業に臨めば、文章の意味だけでなく、物語そのものを楽しめるようになっていった。
一方で、数学にはもともと苦手意識がある。
たとえば、因数分解をすれば答えは出る。
けれど、「問題を解くだけ」と割り切れない性格なので、「なぜそれをするのか」「どういうときに必要なのか」がわからないまま進むのが、気持ち悪かった。
先生は「今は考えなくていい」と言うけれど、それでは、理解した気がしない。
多分、誰もこだわらないことにこだわっているのだろう。
きっと先生にとっても、こんな質問への説明は面倒なのだろうと思ってしまい、聞くこともできない。
これでは、理解が浅いまま。
自信が持てないし、どんどん先へ進む授業についていけなくなる日が、いつか来るのではないか。
そんな不安が、頭の片隅にある。
(できるだけ、余計なことを考えずに、問題をたくさん解けるようにしよう)
テスト勉強には、そう思って取り組むけれど、わからないところが出てきて、解説を読めば読むほど、わからないことが増えてしまい、なかなか先に進めない。
(私って、数学に向いてないんだろうな)
由奈はため息をつきながら、問題集を解き続けた。
割り切って、決められたことをやれば正解は出せる。
けれど、疑問は解消していない。
立ち止まりたい気持ちを堪えながら、テストに間に合うよう復習を繰り返した。
――そして、テスト当日。
数学のテストでは、理解できていない問題が出ないようにと、祈るような気持ちで臨んだ。
テスト前の勉強で、繰り返しだけは何度もしてきた。
だから、見覚えのある問題なら解ける。
幸い、まったく見たことのない問題は出なかった。
古文のテスト中は、あちこちからため息が聞こえてきた。
やはり、多くの生徒が苦戦しているようだ。
繰り返し覚えた知識を駆使して解いていった。
まったくわからない問題はない。
ただ、少し自信が持てないものはいくつかあった。
数日後の授業でテストが返却され、
由奈は古文で、クラスで一番いい点数を取れた。
数学は、計算ミスをした箇所と、文章問題で知らない問題が出たため、途中まではできたものの、最後まで仕上げられず減点された。
それでも、思っていたより悪くはない、という感覚だった。
「すごいじゃん、由奈」
古文のテストの後、裕香がそう言ってくれたが、由奈の気持ちは少し複雑だ。
「ありがとう。でも、私、数学が本当に自信なくて」
「けど、点数、それなりに取れたんでしょ?」
「うーん。でも、ちゃんと理解して取れた点数だと思えないんだよね」
「私も、ちゃんとわかってないところあるよ。今日、復習しようと思ってる」
「そうだね。夏休みにも復習できるといいな」
――夏休みが近づいている。
入学してから時間が経ち、勉強の大変さを少しずつ感じ始めてはいるが、好きな科目があるのが救いだ。
それに、勉強以外の部分でも、学校生活は充実している。
女子同士で恋愛話をしたり、中学の頃にかっこいいと思っていた先輩が同じ高校にいることがわかって喜んだりと、毎日、楽しいことがある。
(夏休みも夏期講習も取ることにしたから、学校には来なきゃいけないけど。
この学校なら、それも悪くない)
由奈はそんなことを思いながら、数学のテストの復習を始めた。
雲の切れ間から久しぶりに日差しが差し込み、校舎の外には夏の気配が漂っていた。




