第22話-A 高校1年生 ~ゴールデンウィーク ― 再会~
待ち焦がれたゴールデンウィークの二日目。
由奈は、桂花とファーストフード店で待ち合わせをして会った。
久しぶりだったせいか、待っている間は少し緊張した。
けれど、顔を見た途端、その緊張はすっと消えて、会話はごく自然に弾み始めた。
「帰り道、会えると思ったけど、意外と会わないもんだね」
「そうなんだよ。私、案外帰る時間遅くてさ。実習が夕方まであるんだ」
桂花の学校では、一年生の最初から実習が入っているらしい。
毎日、勉強中心の由奈の学校とは、随分違う。
実習班でやっていることや、班のメンバーの話になると、桂花は少し愚痴っぽくなった。
協力的でない子のこと、勝手な行動をする子のこと。
桂花は観察眼が鋭く、気づくことが多い。
けれど、それをその場で言わずに堪えるタイプだから、余計にイライラが溜まりやすいのだろう。
自分には、久しぶりに会った親友に聞いて欲しいような愚痴がない。
それは、ありがたいことだと思った。
そして由奈は、静かに息を吐いて心を決める。
(今日は、桂花の話をたくさん聴こう)
桂花の愚痴は、三十分ほど続いた。
その間、由奈は頷いたり、相槌を打ったりしていた。
そうするうちに気持ちが少し落ち着いたのか、同じ学校に進んだ同級生の話や、中学時代に付き合っていた者同士が別れたという噂話など、話題は自然と広がっていった。
「由奈は、学校に慣れた?」
桂花は、言いたいことを言い終わって気が紛れたのか、由奈に話を振った。
由奈は、桂花が落ち着いたのが何よりだと思いながら、小さく深呼吸し、話し始めた。
勉強の時間が長いこと。
周りは落ち着いた子が多くて、馴染みやすいこと。
裕香のこと。
「すごく綺麗な子で、背も高くて、モデルみたいだって言ってる子もいるの。でも、勉強に関して、すごく努力家なんだ」
そして、クラスでもひときわ注目されている、「王子」という異名を持つ男子のこと。
「春日くんっていうんだけどね。見た目もいいし、落ち着いてて、勉強も運動もできるんだ」
春日は大人びていて穏やかで、話しやすい。
由奈は、たまたま授業で同じグループになったことがあったが、あれほど目立つ存在なのに、普通に話せて楽しかったのが意外だった。
「春日くんと同じクラスってだけで、すごく羨ましがられるよ」
「へえ。そんなの、うちの学校にはいないな」
桂花は、あっさりと言った。
「ふふっ、あれはね、なかなかいないレベルだよ」
由奈も、頷きながら答えた。
「今度、写真撮って送ってよ」
由奈と桂花は、高校生になってスマホを持ち始めたばかりだった。
まだ使い慣れてはいないけれど、今日、連絡先を交換したことで、これからは、もっと気軽にやりとりができるようになるかもしれない。
「春日くんに写真撮らせて、なんて言えないでしょ」
由奈は笑いながら言った。
「隠し撮りでいいじゃん」
「ムリムリ」
「それにしてもさ、あんな子の彼女って、大変そうだよね。絶対、綺麗な子じゃないと、周りが認めなさそう」
「いや、案外普通の子かもよ。そういう子、見られてる自覚ないんじゃない?」
「あー……それ、ありそう。でも、その方が感じいいよね」
桂花は、由奈の話を聞きながら、ふと胸の奥が少しだけちくりとした。
由奈は、高校生活を楽しんでいる。
それが、よく伝わってきた。
(新しい友達ともうまくやってるし、だんだん、私のことなんて忘れちゃうのかな……)
けれど、その気持ちは口には出さなかった。
「でもさ……桂花がいないと、ちょっと寂しいよ」
そして、由奈は声を落として言った。
「なんか、不安になる」
それを聞いて、桂花の顔が少し綻ぶ。
「……うん。私も、由奈がいないと思うと寂しい気持ちになる」
もう、同じ学校に通うことはない。
でも、二人の気持ちは同じだった。




