第21話 高校1年生 ~新しい友達~
「由奈、一緒にごはん食べよ」
声をかけてきたのは、西本裕香だった。
裕香は、違う中学校出身で、最近、由奈と一緒に行動することが増えた子だ。
整った顔立ちで背も高く、ぱっと目を引く。
由奈のように大人しく見える人間と一緒にいると、不自然じゃないかと、由奈は思った。
しかし、裕香は、由奈の洞察力や語彙が豊富なところが、一緒にいて面白いらしい。
そして、裕香は勉強の面で努力家でもあった。
見た目の華やかさから誤解されやすそうだが、中身は穏やかで、話しやすい。
「裕香ちゃん、部活入るの?」
「うん、何かやろうと思ってる」
「運動神経よさそうだし、背も高いから、何でもできそうだよね」
「そうでもないって」
そんな会話をしながら、二人は昼食を食べていた。
教室のざわめきが、どこか心地よかった。
最近では、裕香に限らず、普通に話せる友人も増えてきた。
勉強も、今のところついていけないと思うことはないが、どこの中学から来た生徒も、基本的に勉強を頑張る子ばかりだ。
少し手を抜くと、置いていかれる感覚はあるけど、それも悪くない刺激だった。
あと少しでゴールデンウィーク。
高校に入ってからは、毎日、夜まで勉強しているから、少しはゆっくりしたいが、きっと宿題はたくさん出る。
「ねえ、由奈って、太田くんと付き合ってるの?」
裕香が、ふいに尋ねてきた。
由奈は慌てて否定する。
「えっ、違う違う。誤解されるだろうなって思ってたけど、違うよ」
「えー、そうなの? 太田くん、由奈のこと名前呼びじゃん」
「中学が一緒だった子は、結構そうだったからね」
「太田くん、由奈のこと好きそうだけどね」
「違うってば」
「でも、一緒に帰る時あるよね」
「中学の時から一緒に帰ってたけど、それには理由があってね……」
由奈が、太田と一緒に帰っていた理由を話すと、裕香は興味深そうに聞いていた。
「そうなんだ。でもさ、なんにしても、太田くんは由奈と一緒に帰りたいんだと思うよ。放課後、由奈のこと気にしてるもん」
「じゃあ、今でも、あの子に追っかけられそうだから私と帰りたいのかな」
「うーん、追っかけられそうなタイプにも見えないけどね」
「あはは、裕香ちゃん、ひどいなぁ。太田くん、あれでも、結構モテてたんだよ」
「由奈だって、“あれでも”とか言ってるじゃん!」
そう言って、二人は笑い合った。
ひとしきり笑ったあと、裕香が少し声を落とす。
「私さ、今、気になる人いるんだ」
「え、クラスの人?」
「違う。ねえ……絶対言わないでよ」
少し間を置いて、裕香は言った。
「……数学の先生」
「えーっ!」
思わず、由奈の声が大きくなる。
裕香は、人差し指を唇に当てた。
「声が大きい」
「ごめん……。あの先生、知的そうだけど、無愛想じゃない? ちょっと変わってそうだし」
由奈が正直な感想を言うと、裕香は頷いた。
「私もそう思う。でも、なんか気になるの。最近、質問しに行ってみたけど、個人的に話すと、授業中よりいい感じだよ」
「へえ、そうなんだ。まあ、知的な雰囲気はいいよね」
先生を好き、と言えば――
(桂花も……)
桂花が心配していたとおり、由奈たちの学年が卒業したあと、早田先生は転勤してしまった。
同じ学校に残っていれば、会おうと思えば会えたかもしれない。
けれど、転勤してしまった先生には、追いかけない限り、もう会えない。
――きっと、早田先生の転勤が、ひとつの区切りだったのだろう。
「私の友達もね、中学の時、先生のこと好きだったと思うの」
由奈がそう言うと、裕香は興味深そうに目を見開いた。
「へえ。その子、どうなったの?」
「卒業の後、先生が転勤しちゃった。告白とかは、多分してなかったと思う。……できないよね。
あんまり、そういうこと話さない子だったから……ほんとのところはわからないけど」
「そっか。転勤か。残念だったね」
「うん。寂しそうだった」
二人は昼食を食べ終わってからも、話を続けた。
裕香には、まだ少し気を使うが、一緒にいようとしてくれるし、見習いたいところが多い、素敵な友達だ。
だけど――
桂花のことを思い出すと、無性に桂花と話したくなった。
(早くゴールデンウィークにならないかな)
早田先生の話題が出ることは、きっともうないだろうけれど。
桂花と、新しい学校の話がしたい。
その時には、裕香の話もしよう。
由奈は、そんなことを思いながら、窓の外を眺めた。




