第19話 中学3年生 ~それぞれの道へ~
高校入試まで、あと二週間。
卒業までは、三週間ほど。
学校には、卒業よりも受験一色の空気が漂っていた。
仲のいい友達とさえ、顔を合わせる機会が減っていく。
なんとなく空気が張り詰めていて、
以前のように、ふざけ合ったり笑ったりする余裕が、
みんなから少しずつ失われていった。
そんな日々の中で、ある日の下校前。
桂花は中庭で、由奈と足立が話しているのを見かけた。
由奈は、驚いたような顔をしてから、何かを言って笑っている。
足立のまなざしは柔らかく、由奈も自然な仕草で目を細め、彼を見上げていた。
しばらく見ていても、由奈はこちらに気づかない。
そして、その二人の空気感に、桂花は声をかけ損ねた。
見なかったことにして、そのまま通り過ぎる。
(由奈の、ああいう顔。久しぶりに見た。
……分かりきってたことだけど、足立は、由奈のことが好きなんだろうな)
小学生の頃から、足立は、まめに由奈のもとへ来ては話をしていた。
クラスの居心地がよくなかった頃の由奈にとって、
足立のようなクラス外の友人は、安心して話せる相手だったのだろう。
中学に入ってから、足立は背が伸び、顔立ちも整ってきた。
金持ちで、バイオリンが弾けて、テニスが上手い――
そんなイメージも相まって、女子から注目される存在になっていた。
分かりやすいモテ男子というわけではないけれど、
何人かの女子が足立に告白した、という話も聞いたことがある。
それでも、誰かと付き合っているという噂はなかった。
そして今、由奈と話している足立は、とても楽しそうだった。
傍から見ても、好きな子と話している顔をしている。
彼は私立高校に進む。
このあたりでは一番都会の、N市にある学校だ。
成績だけでなく、経済力も必要な学校。
足立自身の優秀さと裕福な一面を、改めて感じた。
(もう卒業でバラバラになるのに、
あんなふうに楽しそうに由奈と話してるなんて……)
これっきり、という感じでもなさそうだ。
そして由奈も、
昔から変わらない距離感で関われる足立のことを、
大事な友達だと思っているのだろう。
それから、さらにしばらく経って。
合格発表の日。
桂花は、帰宅してすぐ、合格したことを由奈に知らせるため、由奈の家に電話をかけた。
しばらくして、由奈も合格発表を見て帰宅したらしい。
「受かったよー!」
「おめでとう! すごいね、やっぱり!」
「桂ちゃんもおめでとう!
これからも、帰り道とかで会えるね」
由奈は、このあたりで一番難しい高校に合格し、
桂花も、第一希望の学科に合格した。
(やっぱり……ちょっと、寂しいな)
電話を切ったあと、桂花はふと思った。
(ほんとに、中学校も終わりなんだな)
なんだかんだで、
小・中学校時代、由奈と桂花の間で話題に上ることが多かった健斗と晴基。
彼らも、もうすぐ「関係のない人」になる。
少し寂しい気もするけれど、自然なことのようにも思えた。
由奈と太田は、たぶん、これからも同じ高校で一緒にいるのだろう。
由奈が太田のことを話題に出すこともあったから、
それなりに、由奈の心の中にいる存在なのだと思う。
(なんだかんだ言って、あの二人、付き合い始めるのかな)
高校でも、由奈は由奈のまま、
きっと、誰とでもうまくやっていくのだろう。
中学校の間に、すっかりそういう子になった。
健斗は、違う。
電車で通う、少し遠い学校。
足立とは違って、勉強をあまりしなくてもいい学校。
そして、きっと――もう会うことはない。
でも。
(たまには、由奈に会えるといいな)
桂花は、心の中でそう呟いた。
会えたら、これまで通り、誰かの話や学校の話をしたい。
教室で、廊下で、校門の前で見た光景が、
やけに鮮やかによみがえる。
まだ少し冷たい、春の匂いが混じった風が吹く日だった。




