第17話-C 中学3年生 ~それぞれの卒業~
冬休みが明けて、しばらく経った頃。
朝と帰り道の空気が、はっきりと冷たくなっていた。
下校時間。
健斗は校舎の陰から、由奈と太田が並んで歩いていくのを見かけた。
二人とも、少し肩をすくめるようにして歩いている。
吐く息は白く、手はポケットに入れたままだ。
寒そうなのに、二人は何か話しながら、楽しそうに笑っていた。
(相変わらず、だな)
そう思いながら眺めていると、
由奈たちの方へ、ひとりの女子が近づいてきて、太田に声をかけた。
太田は足を止める。
健斗は、その光景に目を奪われた。
(ああ……あれが、太田のこと好きな女子か)
太田に一歩遅れて立ち止まった由奈は、
少し気まずそうに、足元へ視線を落とす。
しばらくして、由奈は小さく息を吐き、歩き出した。
すると――
太田が少し慌てた様子になったのが、遠目にも分かった。
「由奈!」
太田が声を上げる。
女子に一言、何か返してから、
太田はすぐに由奈の後を追った。
追いついた太田を、由奈は心配そうに見ていたが、
やがて二人は、また自然に並んで歩き始めた。
その様子を、健斗は少し離れた場所から見ていた。
太田が由奈を呼んだとき、
なぜだか胸の奥が、少しだけモヤっとした。
でも――
(由奈は、小学校の頃から知ってる。いいやつだけど)
(自分の中では、女子って枠じゃない)
そう思ってから、健斗は小さく頷いた。
由奈とは、言いたいことを言い合ったり、
くだらない話も、真面目な話もしてきた。
一緒にいて楽しかったのは、確かだ。
でも、由奈は学級委員をやったり、
クラスの話し合いでは、男子よりもはっきり意見を言ったりしていた。
すごいな、とは思う。
けれど、どこか女子っぽくないとも感じていた。
由奈が他の男子と一緒にいるのを見てモヤっとするのは、
小学校の同級生が、少し遠くに行ってしまったように感じるからだ。
きっと、それだけだ。
(今さら、小学校の同級生に何を思ってるんだって話だ)
健斗は、由奈と太田の背中から、そっと視線を離した。
(もうすぐ卒業だし。きっと、高校に行ったら……
もっと可愛くて、気の合う女子もいるだろうしな)
そんなことを考えながら、歩き出す。
少し離れた場所から、その様子を見ていた晴基は、
健斗が歩き出したのを確認すると、
小さく息を吐いてから、小走りで追いかけた。
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ある日の放課後。
由奈は、職員室の中を覗く桂花を見かけた。
(最近、ちょくちょくここで見かける)
由奈は声をかけずに、様子を見ていた。
(早田先生に、会いにきたんだろうな)
早田先生は桂花のクラスの英語の担当だが、
三十歳手前で見た目も悪くなく、少し抜けたところもあって、
優しく親しみやすい先生だ。
普段、先生とあまり打ち解けられない桂花にも、よく声をかけてくれた。
由奈も、初めて先生を見たとき、
わかりやすいハンサムではないが、女子ウケする先生だなと思った。
実際に、早田先生に恋をしていた子もいたし、
男子生徒からも、親しまれていた。
冬休みに入る少し前――
桂花は由奈と同じで、
誰かのことが好きだと、親友にでも素直に言えるタイプではないが、
あのとき、彼女なりに、由奈に打ち明けてくれたのだと思った。
「私たちが卒業した後、
早田先生、転勤しちゃうかもしれないよね……」
そう言った桂花の声は、震えていた。
由奈は、少し驚いて桂花の方を見た。
桂花は、少し上を向いて、涙をこらえているようにも見えた。
これ以上、言葉にしたら泣いてしまうだろう。
そう思って、由奈はそっと、
桂花が思っているであろうことを口にした。
「そうなっちゃったら、
ここに来ても、早田先生に会えないんだね」
由奈の言葉に、桂花は目を閉じて、ゆっくり頷いた。
由奈は、そのときのことを思い出しながら、職員室を覗く桂花を見つめ、心の中で願った。
(少しでもたくさん、桂花が先生と話す時間を作れるといいな)
そして、気づかれないように、静かにその場を離れた。




