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ep.1 春、新しい始まり

斎藤遼は、どこにいても目立つ少年だった。


高身長に加え、すらりと伸びた手足。

整った顔立ちは芸能人と見紛うほどで、通学路を歩くだけで周囲の視線を引き寄せる。

そのうえで勉強もスポーツも誰より得意。

新学期を迎えるこの日も、校門をくぐる彼に振り返る者は少なくなかった。


だが本人は、そんな注目を望んでいなかった。


――小学生の頃までは、ごく普通の少年だったのだから。


まだ小学二年生の頃のこと。

熱を出して眠り込んでいた遼の耳に、不思議な声が届いた。


(目覚めよ、選ばれし子よ)


低くも澄んだ声だった。神のようにも、悪魔のようにも響いた。

夢の中で、白とも黒ともつかぬ光に包まれた彼はただ立ち尽くした。



(才を与えよう。身体も、知恵も、姿も。

そのすべては祝福の呪いとなる)


そこで目を覚ますと、額の汗は引き、体は軽くなっていた。

それ以来――遼の世界は一変した。


運動会の徒競走では、最初の一歩で差を広げ、余裕で一位。

ドリブルもろくにできなかった少年が、数か月でサッカークラブのエースに躍り出る。


授業では一度聞いただけで内容を理解し、テストは常に満点。

周囲の大人たちは「天才」と口を揃えた。


そして外見までも――。

気づけば顔立ちは整い、肌も髪も輝きを増し、誰もが惹きつけられる存在となった。


けれど遼自身は、無自覚に力を誇示するような性格ではなかった。

満点ばかりのテストも、いつの日からかあえて数問を白紙に残し、運動会では全力を出し切らず、部活動では仲間を引き立てる。


「すごい」と言われても首を横に振る。

「たまたま」「みんなのおかげ」

そう言って笑う彼の性格は、謙虚で、誰にでも優しかった。


完璧でありながら、手加減し、人を気遣える。

それこそが斎藤遼を特別な存在にしていた。


そんな兄を、ただ一人の妹――美咲はずっと見てきた。



二人差の学年差で、今年の春から彼女も高校に進学する。

幼い頃は控えめで、兄の後ろを少し距離を置いて歩くような性格だった。

けれど兄の優しさに守られ、誇らしさを感じ続けてきたのも事実。


入学式を終えたばかりの制服姿で、彼女は校門を出る遼に駆け寄る。


「兄さん!」


少し息を弾ませながら、微笑む。

まだ初々しい一年生の制服が、彼女を一層幼く見せていた。


「高校生活、今日から私も同じ学校だね」


嬉しそうにそう言って腕を絡める美咲。

ほんの少し控えめな性格はまだ残っていて、兄に甘える仕草もどこかぎこちない。


「……目立つから離れろ、美咲」

遼は苦笑しながらたしなめる。


「いいの。だって、兄さんは私の自慢なんだもん」


その言葉に、通り過ぎるクラスメイトたちがざわめいた。

「うわぁ、すごい」「かっこよすぎ」――そんな声が耳に入る。


遼は肩をすくめた。

これから始まる二年生の一年が、また波乱に満ちていることを、うすうす予感していた。


桜の花びらが風に舞う。

兄妹は並んで歩き出し、それぞれの新しい高校生活へと足を踏み入れていった。


春の陽射しが柔らかく差し込む校舎の廊下を、斎藤遼はゆったりと歩いていた。

始業式を終えたばかりの二年生の教室には、もう新しい人間関係のざわめきが満ちている。


遼はその中心にいながらも、どこか一歩引いていた。

「すごいね、遼! また同じクラスで心強い!」

「運動会もテストも頼りにしてるから!」

そんな声が飛んできても、彼は笑顔で首を横に振る。


「いや、みんなと一緒に頑張るだけだよ」


完璧な能力を誇示せず、あくまで周囲を立てる。

それが斎藤遼という少年の自然な振る舞いだった。


昼休みには、サッカー部の仲間たちが迎えに来た。


「おーい遼! 顧問が部会開くってよ」

「今年もエース頼むぞ!」


遼は苦笑いを浮かべる。

「……部活はみんなでやるもんだろ。俺一人じゃ勝てない」


だが実際には、サッカー部の勝利の大半は彼のプレーにかかっていた。

それを部員たちも知っている。

それでも遼が「手加減してでも仲間を引き立てる」からこそ、部はうまくまとまっていた。


一方、美咲は一年生の教室で新しい友達と打ち解けようとしていた。

控えめな性格は変わらないが、兄と同じ学校にいる安心感が彼女を少し大胆にさせていた。


「美咲さんのお兄さんって……二年の斎藤遼先輩?」

休み時間に友人からそう尋ねられると、美咲は小さく頷く。


「うん。……でも、兄さんはただの優しい兄だよ」


本当は誇らしいのに、少し照れてそう答える。

けれど心の奥では――兄の存在を羨ましがる声を聞くたびに、胸がざわついている自分に気づいていた。


---- 放課後


校門の前で、美咲は兄の姿を探していた。


「兄さん!」


人混みの中で見つけると、駆け寄って腕を軽く掴む。

「一緒に帰ろ?」


「……友達と帰らなくていいのか?」

遼がそう尋ねると、美咲は小さく笑った。


「うん。今日は兄さんとがいい」


周囲の生徒たちはまたざわめいた。

「美男美女だ」「お似合いすぎる」

そんな声が漏れるたびに、美咲の頬はほんのり赤く染まっていく。


夕暮れの道を歩きながら、美咲は今日の出来事を兄に話し続けた。

新しいクラスメイトのこと、授業のこと、部活をどうしようか悩んでいること。

遼は相槌を打ちながら優しく聞き、時にアドバイスをする。


「無理して部活を決めなくてもいい。ゆっくり考えろ」

「……うん。ありがとう、兄さん」


その笑顔に、遼は小さく頷いた。

こうして並んで歩く時間こそが、美咲にとって何よりの宝物なのだろう――そう思いながら。


高校生活はまだ始まったばかり。

だが兄妹の特別な距離感は、確実に周囲から注目を集めていた。


そしてそれは、やがて恋と嫉妬の物語へとつながっていく。

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