7話勇者の魔法訓練
夕焼けの光が差し込む訓練場に、僕とリアンナさんの二人きりの空気が広がっていた。さっきまでのジャン師匠との肉体訓練で身体中が痛んでいたけど、次は魔法の訓練。身体を使わない分少しは負担が少ないかも知れない。
「さて、始めるとしようか。」
リアンナさんが静かにそう告げる。
相変わらず落ち着いているけれど、その目はどこか楽しそうだ。
「勇者君……見た感じだけどね、君の魔力量はかなり多い」
「ほんとですか!?」
「ふふ、疑うのかい? 私の目を」
そう言ってリアンナさんは楽しげに笑う僕は自分の胸のあたりを押さえる。魔力なんて目に見えるものじゃないから実感が湧かない。
「魔力はね、魔法を使うための根本的な燃料だ。そして使えば使うほど、身体が慣れてさらに器が広がる。つまり……訓練すれば魔力量はどんどん増えるってことだよ、まあ君は最初からとんでもない魔力量だけどね」
そう言ってリアンナさんは苦笑する。取り敢えず僕の魔力量が高いらしくてホッとした。
「ちなみに君の適性属性を調べたが……驚いたよ。光魔法だけじゃない。水、土、風、そして氷。この四つにも適性がある」
「えっ!? 僕、光魔法以外も使えるんですか!?」
思わず声が裏返ってしまった。僕は勇者として光魔法だけが特別だと思っていたけどまさか他にも……。
「いやいや、驚きたいのはこっちだよ」
リアンナさんが額に手を当て、わざとらしくため息をつく。
「私の適性は風と雷と音の三つ。とても多い方だと自負してたけど……それを上回ってくるとはね。しかも光魔法まである。これは化け物だね」「ば、化け物って……」
思わず頬を掻いた。もし楓がこの場にいたら『このチート野郎!』とか言われるんだろうなぁ。
想像してしまい、笑いが漏れる。
「なに笑ってるんだい?」
「い、いえ! ちょっと友達の顔が浮かんだだけです」
リアンナさんは首を傾げたが、追及はしなかった。
「それと……気になったんですけど」
僕はふと疑問を口にした。
「リアンナさんが持っている雷魔法って、光魔法に似てるんじゃないですか?」
「……いい着眼点だよ、勇者君」
リアンナさんは目を細め、わずかに口角を上げた。
「確かに雷は光に近い。でもね、光魔法は特別なんだ。光魔法と闇魔法、この二つは他の属性とは一線を画している。水や火のように『魔力を燃料にして現象を起こす』だけではない。光と闇は、人の心に宿る『希望』や『悪意』といった概念と密接に結びついている」
「希望と……悪意……」
思わず呟いた。魔力が心の在り方と結びついているなんて、正直理解しきれない。
「難しく考えなくていいさ」
リアンナさんがふっと微笑んだ。
「君が成長するにつれて、嫌でも分かるようになる。その時……どんな顔をするのか、ちょっと楽しみだね」
軽口のように聞こえたけど、リアンナさんのは冗談を言っている目じゃなかった。
「さて、魔法の訓練に入ろうか。……と言っても、まずは魔力操作だね」
「魔力操作……ですか?」
「ああ。どれだけ魔力量が多くても、操作が下手だと大きなロスが生まれる。魔力を魔法に変える時に大きなロスが出てしまう。せっかくの魔力が無駄になるんだ。それに、魔力操作は近接戦闘においても重要だ」
「近接戦闘でも……?」
そう聞いた僕の中に疑問が浮かんだ。魔力は魔法を使うためだけのものじゃ無いのかな、?
「魔力は筋力に上乗せする鎧みたいなものなんだ。拳や足を魔力で覆えば、威力も防御力も格段に上がる。上手く使いこなせば格段に強くなれるよ」
リアンナさんは拳を軽く握り、薄い光の膜を纏わせて見せた。ぱち、と空気が弾けるような音がした。
「なるほど……。じゃあリアンナさんは近接戦闘も得意なんですか?」
僕がそう尋ねると、リアンナさんは苦笑を浮かべて首を振った。
「残念ながら私は肉体を動かすのが苦手でね。筋肉もないから、いくら魔力操作が上手くても結果は平均程度だ。……だからこそ、あの脳筋の肉体改造訓練もきちんと受けることだよ」
「脳筋って……ジャン師匠ですか」
「そうだよ、ふふっ、でもああ見えてジャンは魔力操作も一流なんだ。まあ、私ほどじゃ無いけどね」
リアンナさんはさらりと自慢げに言ってみせた。僕は思わず笑ってしまう。
「さて、余談はこれくらいにしよう。まずは君の魔力を感じて、制御する感覚を身につけよう。と言ってもまずは魔力を感じれるように私が君に魔力を流して勇者君の体に魔力の存在を認知させる。さあ、勇者君、深呼吸をして目を閉じて」
リアンナさんの指示に従い、僕は深呼吸し、目を閉じる。リアンナさんが僕の肩に手を置く。そしてしばらくするとほんの少しだけ違和感を感じた。
「感じるかい?何が異質なものを」
「少しだけ、何が違和感があります」
胸の奥にある見えない何かに意識を向ける。微かな熱のようなものが、脈動しているのを感じた。これが魔力、?
「感じるかい?それが魔力だよ」
「……はい。なんとなくですが」
「よし。その感覚を保ったまま、手のひらに流してみな」
言われるままに意識を集中する。だけど魔力は思うように動かない。流れが乱れて、体のあちこちが熱くなったり冷たくなったりする。
「くっ……難しい……」
「最初はみんなそうだよ。だけど魔力は君の意思で従うもの、焦らないで」
リアンナさんの声は冷静で、どこか優しさも含んでいた。その声に導かれるように、僕は再び集中した。しばらくすると、手のひらがじんわりと温かくなり、小さな光が生まれた。
「……できた?」
「うん、小さいけど間違いなく魔力を手に集められたね」
リアンナさんが微笑む。その笑顔で胸が少し誇らしくなる。
「だけどここからが本番だよ。魔力を練り上げ、自在に操ること。それができなければ魔法も近接も中途半端に終わる。地道な訓練だけどとても大事なんだ」
僕はごくりと唾を飲んだ。楽な道ではないことはわかっている。だけど、勇者として召喚された以上、避けることはできない。
「……はい! お願いします!」
声を張り上げると、リアンナさんは満足そうに頷いた。
「よし、では今日から毎日、魔力操作の訓練を徹底的にやってもらうからね、覚悟しなよ、勇者君」
リアンナさんがそう言ったその瞬間、僕の長い戦いがまた一つ始まったのだと実感した。




