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第6話 親衛隊とモブペット

「さて、取り敢えずの現状は把握出来たか?カエデ」 「目を背けたいくらい悲惨な状況だけどな」

「そう拗ねるな、私直々に可愛がってやるというのだ、むしろ喜ぶべきだろう」


くそ、見てくれは良いだけに俺レベルの鋼の精神を持ってねえと堕ちちまうシチュエーションだ。


「はぁ...まあ俺に拒否権がないのは事実だからペットでもオモチャでも恋人でも好きにしてくれ」

「それは良い心がけ...おい貴様最後なんと言った?」


あダメだもう半分堕ちてる。


「取り敢えずこれから俺はどうすれば良いんだ?」 「先程言っただろう。お前は私のペットだと。基本的には私のそばにいろ。」

「相手が魔族じゃなかったらとても嬉しいセリフなんだけどなぁ」


いやペットは普通に誰でも嬉しくなかったわ。


「まずはお前を四天王や親衛隊、他の魔族に紹介をせねばな」

「けど俺の召喚を否定してる奴らもいるんだろ?直で会うのは普通に怖いんですけど」

「案ずるな。いきなりお前を襲ったりするほど馬鹿な奴は魔族にはいない」



そう言うとベルディが扉へと視線を向ける。


「……ちょうどいい、親衛隊を呼んである。お前に紹介しておこう」


ゴゴゴ、と重厚な音を立てて扉が開く。入ってきたのは二人の魔族――

ひとりは細身の銀髪、凛とした立ち姿に冷徹な瞳。まさに騎士と呼ぶにふさわしい男。

もうひとりは褐色肌に金髪、艶やかな笑みを浮かべて歩くギャルっぽい女魔族。

まったくタイプが違うが、二人揃って只者じゃない雰囲気を纏っていた。


「ベルディ様」


銀髪の男が片膝をつき、恭しく頭を垂れる。


「親衛隊長、ジークラウト。お呼びとあらば、いついかなる時でも」

「ベル様〜♡ 副隊長シェズ、参上で〜す!」


金髪の彼女は全然畏まらず、手を振るノリで入ってきた。……まじでギャルだ。ここ異世界だよな?

ベルディは軽く頷き、俺を指し示す。 


「この者がカエデだ。この間伝えた我が兄の器、そして今より私の……ペットである」


……うん。さらっと言いやがったな。

しかも他人の前で。俺の羞恥心はどうしてくれる。

ジークラウトの鋭い視線がこちらに突き刺さる。やめろ、俺は何もしてない! 


「ペット!?マジウケル!!」

「ベルディ様……ペット、でございますか?」


ジークラウトの声音には明らかな動揺の色が混ざっていた。


「そうだ。何か異論があるのか?」


ベルディが冷然と返す。


「……いえ、私ごときが意見するのは僭越。しかし……」


ジークラウトの拳がかすかに震える。


「ベルディ様のお側にふさわしき存在が、そのような……得体の知れぬ人間であろうかと」


え、ちょ、なんか俺、存在否定されてる!?ジークラウトの横でシェズがにやにやしながら口を挟む。


「ベル様が決めたことに、いちいち文句言うとか今までのジークならありえなかったよ〜...もしかして〜?ねぇ?」

「……シェズ」


ジークラウトの声が低くなる。

「お前は黙っていろ」

「はいはい、怖い怖い。そんなにカリカリしてるとハゲるよ〜?」


こいつら本当に上司と部下か?

ベルディはそんなやり取りに動じもせず、次の話題へ。 


「ジークラウト。こやつを鍛えさせたい。お前に任せよう」

「……ッ!」


ジークラウトの眉が動いた。


「恐れながら……ベルディ様、その命はお受けできません」

「なぜだ」

「私がこの人間と長く接すれば……殺してしまうやもしれません」


おいコラァ!? 初対面でサラッと物騒なこと言うなよ!!

シェズが爆笑しながら肩を揺らす。


「アハハハジーくんマジ正直〜。そういうとこ嫌いじゃないけどさぁ、勇者でもない普通の人間に本気になるなって〜」


サラッとモブ扱いされました。


「しかしジェズ...」

「はいはい、じゃあ私が鍛えてあげよっか。ベル様、私に任せて〜」


シェズが明るくそう言うとベルディは軽く頷く。


「よし、シェズに任せる。ジークラウト、お前はいつも通り私の護衛だ」

「御意」


……いやいやいや。


「ちょっと待ったぁ! なんでペット枠の俺が鍛えられる流れになってんの!? 戦うペットとか聞いたことねえよ!」


ベルディは涼しい顔で俺を見下ろす。


「お前が戦果を挙げれば、魔王の器としてだけではなくお前自身の価値も魔王軍の中で認められる」

「戦果って……要するに人間を殺せってことだろ!?」


俺がそう言うとジークラウトの瞳が鋭く光る。


「その通りだ」

「いやいやいや! 俺元はただの高校生だぞ!? いきなり戦場とか飛躍しすぎだろ!」


シェズが頬杖をつきながら俺に笑いかける。


「カエデって面白〜。でもジーくんの言う通り、人間を倒さなきゃ戦果にはならないんだよね〜」 


ジークラウトが一歩前に出て、低く語り出す。


「……お前は知らぬだろう。我らがなぜ人類を支配しようとしているのか」 


部屋の空気が張り詰める。その話題はさっきもベルディがしようとしたのものだ、だけど俺は聞きたくなかった。聞いてしまったら俺が、俺の価値観が、変わってしまうと思ったから。だがそんな俺の内心をお構いなしにジークラウトは続ける。


「昔、人間は亜人を酷く差別した。耳や尻尾が生えているだけで、異形と蔑み、奴隷とした」


ジークラウトの声の中に抑制されきれない怒りが滲む。


「亜人は穏やかで優しく争いを好まない。差別されても反撃せず、耐え忍んだ。だがそれが仇となった。人間どもの暴虐は加速し、亜人の多くは奴隷とされ、強制労働に駆り出された。」

「……っ」


思わず息を呑む。


「その悪意に、我らが魔王様は激怒した。人間は欲や悪意にまみれた存在である、その悪意を押さえつけられるのは力のみだと。力ある者が支配する平等な世界、厳しいが差別の無い世界を作ると誓われた」

「……魔族も人間と変わらないんじゃないか?」


思わず俺は口にした。


「魔族は本能的に強者に従う。兄が掲げる理想の秩序に逆らうことはない。そして……兄の闇の力は人類の悪意そのものから生まれた。兄はその力を憎んでいた。だからこそ悪意なき世界を望んだのだ」


ベルディがそう答える。

……確かに俺のいた世界だって、植民地だの奴隷だの、差別なんていくらでもあった。

正義ヅラできる立場じゃねぇ。


「……」


しばらく黙り込んだ俺は、頭を掻きながらため息をついた。


「話は分かった。だが正直まだ納得できたわけじゃない……だからとりあえずしばらくは鍛えてくれ。どっちにしろ強くならなきゃ話にならないしな」


そう言うとシェズがにっこり笑い、俺の肩をぽんと叩く。


「オッケ〜! じゃあ明日からバッチリ仕込んであげる!」


そのやりとりにベルディは微かに笑んだ___それはどこか安堵を含んだ笑みだった。

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