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新たな仲間、深まる絆

ハルオの家の居間は、ソラがもたらした重い情報と、迫り来る革命党の脅威に包まれていた。ソラの**ポータブル通信機**の小さなスクリーンには、かすかな衛星回線を介して得られた断片的な情報が映し出されていた。**風力発電施設**の位置図、革命党の移動経路の予測、そして他の避難所から入る悲報——「LGBTQ+サポートセンター襲撃」「移民コミュニティ食糧庫略奪」——が、文字列や歪んだ音声となって飛び込んでくる。ソラは眉をひそめ、細かい指で機器の操作を続けていた。**ITと機械工学の知識**が、限られた電波状況で最大限の情報を引き出す鍵となっていた。


「…襲撃は、おそらく明日の夜明け前」ソラの声は緊張で張り詰めていた。「人数は少なくとも二十人…武器は…棍棒、刃物、そして数丁の火器らしい…」。彼女の視線がケイへ向かい、言葉を選んだ。「…危険すぎる。私たちだけでは…」。


「わかっている」ハルオは松葉杖を握りしめ、無力感と怒りが入り混じった表情を浮かべた。「だが…何もしなければ、多くの命が、この街の復興の可能性そのものが…」。彼の目が、壊れた窓の外、壁に残る**全天候型太陽電池モジュール**の残骸に留まった。破壊の無意味さが、未来への希望を蝕むように思えた。


アキラは居間の隅で、**半硬直化した尾の基部**を壁に接触させたまま、三人の人間の**表情**と**声のトーン**を鋭く観察していた。ソラの報告する「二十人」「火器」という音節、ハルオの深い憂慮、ケイの震える手——これら全てが、彼の**発達した大脳半球**で処理され、巨大な脅威のイメージを形成していた。風車の映像がスクリーンに映るたび、彼の**優れた空間認識能力**が、ソラが示した「北西5キロ」の方角を頭内の詳細なマップ上に重ね合わせた。そこは、開けた丘の上。隠れる場所が少なく、監視と防御が難しい地形だ。彼の**羽毛**が微かに逆立ち、**第II指**の**鎌状爪**が無意識に床を軽く引っかいた。


その緊張した沈黙を破ったのは、玄関口からの激しいノック音と、引きずるような足音だった。

「おい! 誰かいるか!? 助けてくれ…!」


新しい人間の声。苦しげで、切迫している。ハルオとソラが顔を見合わせ、警戒の色を強めた。ケイはアキラの陰に隠れた。アキラは即座に警戒態勢に入り、**体勢を低く**し、**大きな眼球**を玄関へと向けた。**聴覚**を研ぎ澄ます——一人か? 負傷している? 追手の気配は?


ハルオは松葉杖をつき、慎重に玄関へ近づいた。「誰だ?」

「…シリア…から来た…ジャビール…。あの…黒い服の連中に…追われて…」声はかすれ、息切れがひどい。玄関ドアの隙間から、血痕が付いた作業ズボンの裾が見えた。


ソラの目が「シリア」という言葉に強く反応した。彼女はハルオにうなずき、バリケードを外すのを手伝った。ドアを開けると、そこには、がっしりとした体格の男性が、壁にもたれかかりながら必死に息を整えていた。**ジャビール**だ。30代前半。濃い髭面に深い彫りのある顔は蒼白で、額には深い裂傷から血が流れ、左腕を不自然に押さえている。作業ズボンと頑丈なブーツは埃と泥で汚れていたが、それらは**建築現場**で働く者であることを物語っていた。


「中へ…早く…」ハルオが促す。ジャビールがよろめきながら中に入ると、ソラが素早くドアを閉め、再びバリケードを築いた。


ジャビールは居間の床に崩れ落ちるように座り込んだ。「…ありがとう…」。彼の視線が、ハルオ、ソラ、ケイへと移り、そして隅に佇むアキラの姿を捉えた。その漆黒の羽毛と鋭い眼差しに、一瞬、目を見開いた。「…こ、これは…?」

「アキラ。恐竜…だけど、仲間だよ」ケイが小さく、しかし確かな口調で言った。


ジャビールは驚きを隠せなかったが、追手の恐怖と疲労が優先した。「…革命党…奴らが…僕が働いていた復興作業現場を襲った…『異国の者が日本の仕事を奪う』だと…」。彼の**日本語**は流暢だったが、アクセントが残っていた。「同僚は…逃げ散った…僕は…なんとか…」。彼が左腕を押さえた手を離すと、上腕部に深い打撲傷と裂傷が露わになった。


ソラがすぐに応急処置キット(ハルオが常備していたもの)を取り出し、傷の洗浄と止血を始めた。ジャビールは痛みに顔をしかめながらも、ハルオたちに状況を説明した。彼の**リーダーシップ**と**建築技術**は、復興作業現場で重宝されていたが、故郷シリアで家族を戦火で失った過去が、革命党の標的にされやすい要因となっていた。「…家族を守れなかった…だからこそ…今、ここで…誰かを…」言葉が詰まった。


その時、天井裏から、カサカサという物音と、鋭い「キッキッ!」という鳴き声がした。全員が思わず天井を見上げた。アキラは即座に反応した。**首**を鋭く天井へ向け、**羽毛**を逆立て、低く威嚇するような「シャーッ」という音を発した。彼の**優れた聴覚**と**嗅覚**が、天井裏の侵入者が**霊長類**であることを識別していた。


「…サルだ」ハルオが呟いた。「多摩動物公園から…逃げ出した個体が、この辺りにも…」。


天井の一部がわずかに外れ、一匹の**ニホンザル**が顔を覗かせた。**タマ**だ。雌。茶色の毛並みは汚れているが、大きな目には強い知性と警戒心が光っている。彼女はまず、人間たちを一瞥し、次に最大の脅威と見なしたアキラを鋭く見据えた。牙を剥き、威嚇の声を上げる。


アキラはそれに応戦するように、**右前肢**を高く掲げ、**第II指**の巨大な**鎌状爪**を完全に見せつけた。**尾**をピンと立て、体を大きく見せて威嚇姿勢を取る。デイノニコサウルス類と霊長類。本来なら交わることのない二種の捕食者(あるいは被食者)が、狭い屋内で対峙した。緊張が走った。


「ダメ、アキラ! ケイが飛び出した。彼女はアキラの前に立ち、両手を広げた。「この子も…きっと怖がってるんだよ! 動物公園から逃げて、一人ぼっちなんだ!」彼女は次に天井のタマに向かって、優しく、しかし確かな口調で話しかけた。「大丈夫だよ…。ここは…安全だよ。下りておいで?」


ケイの介入が奇妙な調和をもたらした。アキラはケイがタマを「守ろう」としている意図を感じ取り、威嚇の姿勢を徐々に解いた。**羽毛**の逆立ちが収まり、**鎌状爪**を引っ込めた。しかし、**視線**はタマから離さなかった。タマもまた、ケイの声と、アキラの威嚇が弱まったことに反応し、牙を引っ込めた。それでも警戒は続き、天井から降りようとはしなかった。


ジャビールはその光景を、痛みをこらえながらも興味深そうに見ていた。「…驚いたな。子供が…恐竜とサルの間を…」。彼はソラの手当てを受けながら、家の構造を観察し始めた。「…この家、古いが構造は頑丈だ…。ただ、入口の補強が甘い…あの机だけでは…」。彼の**建築技術**に基づく専門的な目が、即座に改善点を見つけ出していた。


ソラがジャビールの傷の手当てを終えると、彼は立ち上がり(よろめきながらも)、ハルオとソラに提案した。「…僕に…できることがある。まずは、この家の防御だ…」。彼は壊れた家具や庭に散らばる資材(かつての工事現場の残骸)を指さした。「…あれらを使って、入口と窓を…もっと強固に塞げる…。時間は…あまりないが…」。


ハルオとソラは即座に賛同した。ソラは通信機での情報収集を続けつつ、資材集めを手伝う。ハルオは松葉杖で移動しながら、工具の場所を指示した。ケイはアキラと共に、タマがまだ天井で警戒している様子を見守りながら、ジャビールに必要な小さな部品を渡す役割を買って出た。


アキラは、新たな人間ジャビールと、天井のサル(タマ)という二つの新しい存在を観察し続けた。ジャビールは、傷つきながらも、**リーダーシップ**を発揮し、具体的に「群れ」の安全を高める行動を取っている。彼の指示は的確で、ハルオやソラを素早く動かした。アキラの**高い知能**と**社会的知性**は、この人間が「群れ」にとって有益な存在であることを評価した。一方のタマは依然として警戒していたが、ケイが定期的に水や(貴重な)木の実を天井へ差し出すと、徐々にその距離を縮めつつあった。タマの**警戒能力**は高く、屋根の上や庭木のてっぺんから周囲を見張り、不審な物音があるたびに警告の声を発していた。これはアキラの**視覚**による監視と補完しあう可能性を秘めていた。


ジャビールの指揮のもと、玄関と壊れた窓は、分厚い合板とねじれた鉄骨を複雑に組み合わせた即席のバリケードで強化されていった。ジャビールは負傷した腕を庇いながらも、**右腕**で重い資材を支え、**左手**で工具を巧みに操り、接合部を固定した。「…こうすれば…簡単には突破できん…」。彼の顔に、達成感とわずかな安堵が浮かんだ。


作業が一段落した頃、タマが天井から慎重に降りてきた。まだ完全な安心はしていないが、ケイのすぐそばの、高い棚の上に腰を下ろした。アキラは居間の隅からタマを注視したが、威嚇はしなかった。代わりに、**左前肢**をわずかに動かし、**第III指**を窓の外の特定の方向(北東)へと指し示した。彼の**鋭敏な聴覚**が、遠くで再び近づく複数の足音(革命党の巡回隊か)を捉えていた。タマの**大きな目**がアキラの指さす方向へと鋭く向き、耳を立てた。彼女もまた、かすかな足音を感知したようだ。タマは警告の低い鳴き声「クックッ」を発した。


ジャビールはその非言語的な警告連鎖に驚嘆した。「…見事な連携だ…まるで…戦場の斥候のようだ…」。彼の故郷での経験が重なった。


夜が更けるにつれ、ハルオの家には、異なる背景を持つ者たちの間に、危機を共有することから生まれる、かすかな連帯感が育まれていた。ハルオ(元生物学者、脚不自由)、ソラ(トランスジェンダーの技術者)、ジャビール(シリア難民の建築家)、ケイ(迷子の少女)、そして、本来なら共存し得ない二種の生物——**ネオルニトサウルス**の**アキラ**と**ニホンザル**の**タマ**。アキラは、自身の**本能**が定義する「群れ」の概念を超えた、この複雑な集団の一員としての意識を、初めて明確に感じ始めていた。彼はタマが警戒する北東の窓へと移動し、**半硬直化した尾の基部**を強化されたバリケードに接触させ、見張りを続けた。その隣の棚の上では、タマもまた、耳を澄ませて外気を感じ取っている。互いに直接視線は合わせないが、同じ脅威を監視する者同士としての、奇妙な信頼の糸が、かすかに張られ始めていた。明日の夜明け前の決戦に向け、それぞれが持つ能力が、少しずつ噛み合い始めていた。



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