未知の世界
轟音と振動が遠のいた後、アキラを包んだのは、異様な沈黙ではなかった。瓦礫の下から漏れるうめき声、遠くで続く火災のぼうぼうという音、崩れかけた構造物がきしむ不気味な音、そして——何よりも——彼の**鋭敏な聴覚**を最も苛立たせる、人間たちの混乱した叫び声と泣き声が、破壊された街に重く響いていた。空気は埃と煙、そして雨を含んだ冷たい風で満たされ、彼の**吻端**の感覚神経を刺激した。
アキラは、崩れ落ちた動物公園の外壁近くの、コンクリート塊と歪んだ鉄骨が積み重なった陰に身を潜めていた。全身の黒い羽毛は微かに逆立ち、危険に対する本能的な警戒態勢を示している。**左前肢**の風切り羽には、脱出時に引っかかった鉄片による**特徴的な切れ目**が走り、白黒の縞模様が乱れていた。彼は細い**頸部**を伸ばし、**大きな眼球**をわずかに左右に動かして周囲を精査した。**強膜輪**が眼球を支え、高速で対象を追跡する。
目の前の光景は、彼が知る「世界」ではなかった。かつて整然と並んでいた建造物は、無惨にねじれ、押しつぶされ、崩れ落ちていた。道路は亀裂だらけで、自動運転EVや大型ドローンが衝突して炎上し、黒煙を上げている。あちこちで、**全天候型超高効率太陽電池モジュール**が壁面から剥がれ、破砕されていた。あるビルの壁面では、モジュールの一部が辛うじて残っており、曇天の弱い光を受けて発電を続けていた。その表面では、**超撥水・親油性ナノコーティング**が雨水を弾いていたが、激しい損傷を受けた箇所では、内部の**4接合タンデム構造**(ペロブスカイト層、CIGS層、シリコン層、量子ドット増感層)がむき出しになり、**トンネル接合を形成する高度にドープされた半導体層**が破断し、効率は著しく低下していた。アキラの**四色型色覚**は、損傷部から漏れる微弱な放電の青紫の輝きを捉えていた。
彼は慎重に身を乗り出した。**軽量な中空骨格**と**発達した後肢の筋肉**が、不安定な瓦礫の上でも敏捷な動きを可能にする。**右後肢**の**第III趾**で踏ん張り、**左後肢**を前方のコンクリート片に踏み出した。長い**尾**は無意識に動き、**半硬直化した基部**が微妙なバランス調整を行い、**可動性の高い後部**が障害物を避ける舵取りを補助した。彼の**優れた空間認識能力**は、足場の強度や、頭上から崩れ落ちる可能性のある破片の位置を瞬時に計算し、安全なルートを割り出していた。
突然、鋭い悲鳴が近くで上がった。アキラは即座に身をひそめた。数十メートル先、崩壊した商業施設の入り口付近で、二人の人間がもがいていた。一人は足を重い瓦礫に挟まれ、もう一人が必死にそれを引きずろうとしている。その場に近づこうとする他の人間たちの姿もあった。アキラの**警戒心**が強く働いた。人間は——少なくとも彼の飼育下での経験では——時に餌を与える存在だが、同時に巨大で予測不可能な潜在的な脅威だった。地震という異常事態は、その脅威をさらに不気味なものに感じさせた。
彼は瓦礫の陰から、別の方向へ移動を始めた。本来の生息環境である森とは全く異なる、コンクリートと金属とガラスのジャングル。異様な化学物質の匂い(漏れた冷媒、燃えるプラスチック)が、彼の**平均的な嗅覚**を混乱させた。目指すべき安全な場所はどこにも見当たらない。
その時、アキラの**耳孔**(羽毛に覆われているが機能は保たれている)が、新しい音を捉えた。規則的な、重い足音と、金属が擦れるような音。人間の声だが、動物公園で聞いた子供たちの声とも、飼育員の声とも、先ほどの悲鳴とも違う。低く、威圧的で、何かを命令しているように聞こえた。
声の主たちが、通り角を曲がって現れた。**「常識の革命党」**のメンバーだった。黒いユニフォームに身を包み、腕章を付け、何人かは金属の棒や、明らかに危険な工具のようなものを手にしていた。彼らは倒壊したビルの前で立ち止まり、崩れかけた外壁に掲げられていた、多言語表記の「多様性を祝おう」というポスターを、棍棒で力任せに引き裂き始めた。その粗暴な動作と、放つ**威嚇的なフェロモン**(アキラはそれを「危険な匂い」として認識)が、アキラの本能に強烈な警告を発した。*捕食者*。彼の羽毛がさらに逆立った。
革命党員の一人が、壁面に残る**全天候型太陽電池パネル**を指さし、仲間に叫んだ。
「見ろ! あの偽りの平和の象徴め! 自然を冒涜するこうした人造物こそが、天罰を招いたんだ!」
叫び声と共に、男は手にしたバールを振りかざし、辛うじて機能していたパネルを力任せに叩き割った。ガラスと半導体材料が粉々に飛び散る。**量子ドット増感層(PbSナノ結晶)** が砕け、微弱な赤外光を捉える能力は完全に失われた。彼らは破壊行為に熱中し、瓦礫の陰に潜むアキラには気づいていないようだった。
アキラは息を潜めた。**第II指**の特大の**鎌状爪**をわずかに開閉し、緊張を和らげようとした。彼の**高い知能**は、この集団の行動が、動物公園で見た普通の人間たちとは根本的に異なることを理解していた。脅威的で、破壊的で、制御不能だ。
革命党員たちはポスターと太陽電池パネルの破壊を終えると、次の標的を求めて動き出した。彼らの進路は、偶然にもアキラが隠れている瓦礫の山のすぐ脇を通るものだった。アキラは**左前肢**をわずかに引いて体勢を低くし、**右後肢**に力を込めた。飛びかかるか、それともさらに奥へ逃げ込むか——瞬時の判断が迫られた。
「おい、何か動いたぞ? あのガレキの陰で!」
一人の党員が鋭く叫んだ。鋭い視線がアキラの隠れ場所に向けられる。彼らは武器を構え、慎重に近づいてきた。
アキラの**心拍数**が急上昇した。**優れた動体視力**が、迫り来る人間たちの動き、武器の角度、足元の瓦礫の状態を逐一把握する。逃げ道は… 後方に狭い隙間がある。しかし、そこに入れば袋の鼠だ。
その瞬間——。
「ドカン!!!」
遠くではない場所で、大規模な爆発が起こった。地面が再び揺れ、革命党員たちは思わずよろめき、視線がそちらへ逸れた。おそらくガス管の破裂か、あるいは革命党自身の仕業か。爆風と衝撃波が通りを駆け抜け、アキラの**耳小骨(耳柱骨)** を強く振動させた。
「ちっ! 向こうだ! 急げ! あの風車を止めなければならん!」
党員のリーダー格が叫び、一行は爆発の方向へ走り出した。アキラへの興味は、より大きな破壊目標の前にかき消された。
彼らが去った後も、アキラはしばらく微動だにしなかった。爆発の轟音が耳に残り、危険な匂い(火薬の臭い?)が鼻腔を刺激した。彼はゆっくりと息を吐いた。羽毛の逆立ちが少し治まるのを感じた。
安全は、まだ遠い。この破壊と暴力に満ちた未知の世界で、生き延びねばならない。アキラは瓦礫の陰から慎重に首を伸ばし、革命党が向かった方向——おそらく近隣の**小規模風力発電施設**があった場所から上がる黒煙を、**大きな眼窩**の奥の眼球で捉えた。そして、全く逆の方向へ、細長い**尾**でバランスを取りながら、崩れたビルの谷間へと足を踏み入れた。彼の鋭い**視覚**は、道なき道の中に、わずかな生存の可能性を探し続けていた。




