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AGIの灯火

タマの鋭い警戒音「キッキッ!」が、廃村の夜の静けさを破った。彼女が指さす南の山道——確かに、遠くの尾根を横切るように、複数の不自然な光点がゆらめいていた。懐中電灯のそれだ。しかも、規則的な間隔で停止し、明滅している。探索パターンだ。


**アキラ**は即座に反応した。古民家の縁側から飛び降り、**体勢を低く**しつつ、**大きな眼球**を光の方向へ凝らした。**四色型色覚**を最大限に働かせ、光の色温度(白熱灯の温かみを帯びた黄色)、点滅の間隔、そして光を遮る樹木のシルエットから、人数(少なくとも5人以上)と距離(直線距離で約1キロ)を推定した。革命党の捜索隊だった。彼の**羽毛**が完全に逆立ち、**尾**をピンと立てて警戒態勢を示す。


「…来たか…」ハルオが松葉杖をつきながら縁側に出た。顔は緊張で強張っている。「…ジャビールを移動させる余力は…ない…」。


ソラは古民家の中で、**ポータブル通信機**を必死に操作していた。画面には『**バッテリー残量:3%**』の警告が点滅。ジャビールの状態報告と位置情報を送信した直後だった。「…送信は…成功したはずだけど…応答が…」。彼女は無力感に苛まれながらも、機器を叩くように操作した。通信機の衛星アンテナがかすかに青いLEDを点灯させたが、応答はない。革命党が電波妨害を始めたのか、単に圏外なのか。


「…ソラ…」毛布の上で、ジャビールがかすかな声を出した。彼は汗ばんだ額を上げ、ソラの通信機を見つめた。「…あの…廃研究所…電源…あるか…?」


その一言が閃きを呼んだ。「…そうだ! 培養タンクの電源!」ソラは飛び起きた。隣の廃研究所には、**iPS細胞由来の網膜オルガノイド**を維持するための独立電源(**全天候型太陽電池モジュール**の小型版とバッテリー)が動いていたはずだ。


ソラはアキラとケイを連れ、暗闇の廃研究所へ向かった。タマが先導し、警戒音を発しながら周囲の安全を確認する。研究所内部は、倒れた装置や散乱した書類で足の踏み場もない。しかし、隅の実験台の下で、ソラの懐中電灯が目的の物を照らし出した——**頑丈なプラスチックケース**に収められたバッテリーユニットと、**電圧変換モジュール**だ。ケースはほこりまみれだが、接続されている小さな**太陽電池パネル**(窓から差し込む光で充電される仕組み)と、そこから延びるケーブルが繋がる**培養タンク**の循環ポンプが、微かな振動と音を立てて動いていた。


「…これだ!」ソラは工具キットを取り出した。彼女の**ITと機械工学の知識**がフル回転する。通信機のバッテリーケースを慎重に外し、廃研究所のバッテリーユニットの出力(12V)を通信機の要求電圧(5V)に下げるため、**電圧変換モジュール**を介して接続する。ケーブルの被覆を剥き、極性を確認し、素早くはんだ付け(工具キットに小型ハンダゴテが入っていた)。アキラはソラの作業を**鋭い視覚**で見守り、**左前肢**で懐中電灯を固定するケイを支援した。タマは入り口で耳を澄ませ、外の気配を監視する。


「…よし…接続完了…」。ソラが汗をぬぐい、通信機の電源ボタンを押した。スクリーンがかすかに明るくなる——そして、衛星接続のアイコンが点滅した!

「…繋がった…!」


通信機の画面に、**AGI災害管理ネットワーク**からの応答が表示された。文字列は高速で流れ、**量子暗号化プロトコル**による通信であることが示される。

『**送信確認:位置情報 & 患者状況。医療支援チーム(無人ドローン搬送)、最優先ルートで72時間以内に到達予測。周囲脅威:革命党捜索隊(5-7名)が貴位置から南南西900mを捜索中。警戒継続を**』

続けて、新たな情報が。

『**注意:政府治安機関(自衛隊・警察)、革命党掃討作戦を本日0600より開始。作戦名「オペレーション・フェニックス」。貴グループ所在区域(Sector Gamma)は、Phase 2(48時間以内)に作戦区域に編入予定**』

最後に、驚くべき提案が。

『**要請:貴グループは、所在区域の詳細な地形・敵情知識を保有。特に、生物個体「アキラ」(登録ID:N.harvardiensis-01)及び「タマ」(登録ID:M.fuscata-Tama)の優れた感覚・運動能力は、作戦遂行に極めて有効。作戦指揮(AIコントローラー:AGI-Command Gamma)との協力(偵察・誘導)の可能性を検討可否? 報酬:医療支援優先、保護区への安全な移動保証**』


ソラは息をのんだ。画面をハルオとジャビールに見せた。

「…自衛隊と警察が…動き始めた…。そして…私たちに…アキラとタマの力を借りてほしいと…」。


古民家に重い沈黙が流れた。外では、革命党の捜索隊の光が、わずかながらに近づいているように見えた。ジャビールは苦しそうに咳き込みながらも、意思の強い目でソラを見た。「…受けろ…。これが…チャンスだ…」。彼の**リーダーシップ**が、衰弱した体からにじみ出ていた。「…アキラたち…強制は…ダメだ…だが…」。


ハルオはアキラとタマを見つめた。アキラは縁側で、ソラの通信機の画面を**大きな眼球**で注視していた。彼は「協力」「作戦」といった言葉を理解できないが、画面に表示される**風力発電施設の地図**や**革命党のシンボルマーク**、そしてソラたちの**深刻な表情**から、重大な決断が迫られていることを感じ取っていた。彼の**高い知能**と**社会的知性**が、これが「群れ」の存続に関わる分岐点であることを理解していた。タマもケイの肩から画面を覗き込み、警戒したように耳を動かしていた。


「…アキラ、タマ」ハルオがゆっくりと話しかけた。「…外には、ケイやジャビールさんを傷つけようとする悪い人たちがいる。たくさんいる。それを追い払うために、大きな力(自衛隊)が動く。でも…その力は、どこに悪い人たちが隠れているか、よくわからない。君たちの鋭い目や耳、素早い動きで…その力を導いてほしいんだ」。彼はアキラの**優れた空間認識能力**と、タマの**警戒能力**を指さした。


ソラは通信機の画面をアキラにも見せやすく傾けた。AGIからの提案文を、可能な限り単純な言葉で説明しようとした。「…アキラ、タマ…敵(革命党)を…見つけて…教えて…。戦わない…安全に…」。


アキラはしばらく沈黠した。**尾**をゆっくりと左右に振りながら、**大きな眼球**でハルオ、ソラ、担架のジャビール、そしてケイを見渡した。ケイの目には、恐怖と期待が入り混じった複雑な光が浮かんでいた。アキラの**発達した大脳半球**は、高速で利害を秤にかけていた。

* *危険:* 革命党は銃を持つ。未知の大規模戦闘。

* *利益:* ジャビールの確実な治療。群れ全体の安全な避難(保護区)。

* *本能:* 群れを守る。ケイを守る。この安息の地を守りたい。


彼は一歩前に出た。**右前肢**を伸ばし、**第III指**で通信機の画面に映る革命党のシンボルマークを軽く触れた。次に、**左前肢**で自身の目を指さし、さらに北西の方角(多摩動物公園を含む市街地)を指し示した。*敵を見つける。導く*。それは明確な承諾の意思表示だった。


「キキッ!」タマもまた、アキラの肩に飛び移り、同じく革命党のマークを**前肢**で叩いた。彼女もまた、ケイやハルオを守る「群れ」の一員として、役割を引き受けたのだ。


ソラは深く頷き、通信機の入力画面に向かった。彼女の指が、決断の言葉を打ち込む。

『**AGI-Command Gammaへ。生物個体「アキラ」、「タマ」、及び人間グループは協力を承諾。作戦指揮下での偵察・誘導任務を引き受ける。現在地保持。詳細な指示を待つ**』

送信ボタンを押す。


数秒後、応答が返った。

『**承諾確認。感謝する。作戦指揮(AGI-Command Gamma)が貴グループを「チーム・オメガ」として登録。初期指示:1. 現位置を保持し隠蔽を強化。2. 0600以降、作戦区域(Sector Gamma)のリアルタイム戦術マップを送信。3. 初回任務:革命党主要拠点(多摩動物公園東側廃工場)の最終確認偵察。詳細は時間000に送信。安全確保を最優先せよ。医療支援、進行中**』


「多摩動物公園…」ケイが呟いた。アキラの故郷——そして脱出の地だ。


アキラはその名を聞き、**細長い頸部**をわずかに動かした。**大きな眼球**に、複雑な光が走った。あの崩壊した檻、恐怖と自由が入り混じった記憶。今、彼は自らの意志で、あの場所へ戻ろうとしている。群れを守るために。彼は縁側から外へ一歩踏み出し、夜明け前の闇に包まれた山々を見つめた。東の空が、かすかに灰色から青へと変わり始めていた。新しい光が、戦いと再生の朝を告げようとしていた。タマが彼の足元に降り立ち、警戒の視線を同じく遠くへと向けた。決断は下された。彼らは「チーム・オメガ」となった。


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