癒しと再生の地
廃村の朝は、深い谷間に冷たく澄んだ空気と小鳥のさえずりを運んできた。古民家の縁側に立つ**アキラ**は、全身の漆黒の**羽毛**をわずかに膨らませ、夜の冷気を遮っていた。**大きな眼球**は、谷底を流れる小川のせせらぎ、風に揺れる木々、そして遠くの尾根線をゆっくりと精査していた。革命党の気配は、今のところ感じられなかった。**優れた空間認識能力**が、この隠れ家の利点(岩壁に守られた位置、見通しの良さ)と弱点(逃げ道が限られる)を瞬時に把握していた。
古民家の中では、**ジャビール**が辛うじて朝を迎えていた。ソラが夜通し介護し、かすかに熱は下がっていたが、顔色はまだ悪く、呼吸は浅かった。傷口はソラが小川の水で洗浄し、最後の抗生物質軟膏を塗布したが、専門的な処置が必要なことは明らかだった。ハルオは松葉杖をつき、限られた食料(アキラが獲った小魚の干物、タマが集めた木の実、わずかな保存食)の分配を考え込んでいた。
「…水はある。食料が…」ハルオが呟く。
「…私が探す」ソラが立ち上がった。彼女は**ポータブル通信機**をチェックした。衛星回線はかすかにつながっているが、電力は残りわずか。**AGI災害管理ネットワーク**からの最新情報は、革命党が市街地周辺で勢力を再編し、捜索範囲を広げていることを示していた。「…この場所もいつバレるか…」。
その時、ケイが明るい声を上げた。
「見て! アキラとタマが…何かしてる!」
縁側から見える、古民家の裏手の荒れ地。アキラとタマが奇妙な共同作業をしていた。アキラは**強力な後肢**の**第II趾**と**第III趾**の鉤爪で固い土を掘り起こし、**左前肢**で石や根っこを取り除いていた。タマはその脇で、**器用な前肢**の**対向する親指**を使って、小さな種や球根のようなものを、アキラが耕した柔らかい土に丁寧に埋め込んでいく。近くには、タマが森から集めてきたと思われる、食用可能な野草の若葉や根茎が少し置かれていた。
「…まさか…畑を作ってるのか?」ハルオが目を見張った。
「アキラが土を耕して…タマが種を植えてる…!」ケイは興奮して外へ飛び出した。
アキラはケイの接近を**聴覚**で察知し、作業を一時中断した。彼は**細長い吻**で耕した土の感触を確かめ、短く「クッ」と鳴いた。これは、飼育下で飼育員が新しい環境(砂場や土のエリア)を提供した際の、彼の探索行動と非常に似ていた。彼の**高い知能**と**学習能力**、そして**本能**が、この場所での長期滞在に備えた食料確保の必要性を理解させ、行動に移させたのだ。タマの**優れた記憶力**(餌場の位置や食用植物の見分け方)がそれを補完していた。
ケイはアキラとタマの手伝いを始めた。彼女は小石を取り除き、タマが持ってきた球根を埋める。アキラは**右前肢**の**第III指**で、より深く耕すべき場所を指し示した。三人(一羽と一人と一匹)の間に、言葉を超えた協力のリズムが生まれた。
**日中**、癒しと再生の時間がゆっくりと流れた。
* **ジャビールの回復:** ソラが小川で洗った冷たい布を額に当て続け、わずかながら意識がはっきりしてきた。水分と少量のスープ(木の実と干物)を摂取できるようになる。「…皆…ありがとう…」彼の**リーダーシップ**は衰弱していたが、眼差しに感謝が宿っていた。
* **ハルオの観察:** ハルオは松葉杖で廃研究所を探索した。倒れた実験装置の中に、**培養網膜バイオニックカメラ**のプロトタイプらしきものを発見。**iPS細胞由来の網膜オルガノイド**を収めた頑丈な培養タンクは無事で、独立電源(太陽電池パネルの残骸が屋上に)で培養液の循環を続けていた。隣接する**マイクロ電極アレイ(MEA)**は破損していたが、**光学的計測ユニット**(カルシウムイメージング用)の一部が使えそうだった。「…驚異的な技術だ…震災で放棄されたが、生命は静かに維持されていたのか…」。
* **アキラの狩り:** アキラは小川へ向かった。**優れた動体視力**と**俊敏性**で、岩陰に潜む小魚やカエルを捕獲。**半月形手根骨**による**前肢**の素早い内転運動と、**第I指**、**第III指**を使った確実な把持が光った。獲物は群れに持ち帰られた。
* **タマの警戒:** タマは高い木々や廃屋の屋根に登り、**広い視野**で周囲を見張り続けた。不審な物音(動物か風か)があるたびに、警告の「クックッ」という音を発し、アキラやケイに知らせた。
**夕暮れ**、古民家の囲炉裏端(火は使わないが)で、グループは集まった。ソラが通信機の残り少ない電力で、**AGI**にジャビールの状態と位置情報を送信していた。「…応答あり。『医療支援チーム、最優先エリアに投入中。貴グループの位置をキープせよ。信号発信装置、可能な限り準備を』…」。かすかな希望の光だった。
ケイがアキラの**左前肢**の風切り羽にある**切れ目**を、小川の水で濡らした布で優しく拭いていた。乱れた羽枝を整えようとしている。アキラは微かに体を預け、羽毛の触覚を感じているようだった。タマはケイの膝の上で毛繕いをし、時折アキラをチラリと見る。
ハルオが廃研究所から持ち帰った、**培養網膜オルガノイド**の入った小さな培養容器(破損していない補助タンクから移した)を眺めながら呟いた。
「…生命とは…再生する力そのものなのかもしれんな」。彼の目は、オルガノイド、そしてアキラ、タマ、回復しつつあるジャビール、懸命に生きるケイとソラへと移った。「…壊れても…傷ついても…再び立ち上がろうとする。このオルガノイドのように…アキラのように…ジャビールのように…」。
アキラはハルオの言葉を理解できないが、その**声のトーン**(穏やかで深い感嘆)と、自身に向けられる**視線**を感じ取った。彼は**尾**をそっと振り、**大きな眼球**をケイの手元(羽を整える動作)に戻した。この安息は儚いかもしれない。革命党の脅威は去っていない。しかし、この瞬間、この廃村で、傷ついた者たちが互いの力で癒え、再生しようとする営み——それは紛れもない真実だった。彼の**発達した大脳半球**は、群れの絆がもたらすこの安らぎを、深く記憶に刻み込んだ。次の戦いへのエネルギーを蓄えるために。
夜空に星が瞬き始めた。タマが突然、警戒音を発し、南の山道を指さした。アキラの羽毛が瞬間的に逆立つ。遠くで、一瞬だけ、人工的な光が揺らめいた気がした。休息は、まだ完全には訪れていなかった。




