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犠牲と決意

風力発電施設の丘は、夜明けの光に照らされて、戦いの痕跡を無残に晒していた。破壊されたバリケード、散乱した装備、そして黒く乾いた血痕。防衛隊の生存者たちは、重傷を負った仲間を担架に乗せ、静かに撤退していた。彼らの目には勝利の喜びはなく、代わりに深い疲労と喪失感が刻まれていた。


ジャビールは、ハルオの家の居間の床に敷かれた毛布の上に横たわっていた。ケイとソラが必死の手当てを続けている。弾丸は左胸上部を貫通し、鎖骨の下をかすめていた。肺や大きな血管を直撃していないのが不幸中の幸いだったが、出血は多く、ジャビールの顔は蝋のように青白い。ソラが**ポータブル通信機**で受信した**AGI医療支援ネットワーク**の指示に従い、止血帯と滅菌パッドで傷口を圧迫していた。ケイは涙をぬぐいながら、冷たい水で浸した布でジャビールの額を拭った。


「…し…心配するな…」ジャビールはかすれた声で言い、痛みで顔をしかめた。「…弾は…骨を…避けてくれた…ようだ…」。彼は**左腕**をわずかに動かそうとしたが、鋭い痛みに呼吸を詰まらせた。建築現場で鍛えた頑健な肉体が、今は無力だった。


アキラは、数メートル離れた場所からじっとジャビールを見つめていた。**大きな眼球**が、染み出す血の色(人間の視覚以上に鮮明な紫外シグネチャとして感知)、汗で濡れた肌、そして苦痛に歪む表情の微細な変化を逃さなかった。ジャビールの呼吸の乱れ、心拍の高まりが、彼の**鋭敏な聴覚**にも明らかだった。この人間は「群れ」の重要な一員だった。強く、指揮を執り、皆を守ろうとした。その存在が今、大きく損なわれている。アキラの**羽毛**は微かに逆立ったままだった。警戒と、理解しがたい不安が混ざり合った感情が、彼の**発達した大脳半球**を占めていた。彼は無意識に**第II指**の**鎌状爪**を開閉し、床を軽く引っかいた。


棚の上では、**タマ**が緊張した様子で周囲を見張っていた。ジャビールの血の匂いが彼女の鋭い**嗅覚**を刺激し、危険を感じさせていた。彼女はケイの肩に飛び移り、「クックッ」と心配そうな声を発した。


「…彼の状態は、移動に耐えられるか?」ハルオが松葉杖をつきながらソラに尋ねた。顔は疲労と不安でくもっていた。

「…無理です」ソラの声は硬かった。彼女が通信機の画面を示した。**AGI**がジャビールの傷の状態(ソラが入力した出血量、脈拍、意識レベル)を分析した結果が表示されていた。『**重篤な出血性ショックのリスク。絶対安静と専門的医療処置が必要。移動は生命の危険を著しく増大させる**』。「でも…ここに留まるのはもっと危険。革命党は敗走したが、組織は壊滅していない。報復は必至です…」。ソラの指が、通信機に映る新たな警告メッセージを指さした。『**革命党残存勢力、地域再編成中。貴グループの位置情報、襲撃目標リストに追加の可能性高し。即時避難推奨**』。


沈黙が居間を覆った。革命党が「アキラ」と「革命党を阻んだ多様なグループ」を標的にすることは明らかだった。ハルオの家は既に危険な場所となっていた。


その時、ジャビールがかすかな声で口を開いた。「…俺を…ここに…置いていけ…」

「何言ってるんですか!」ソラが即座に否定した。

「…足手まといに…なった…」ジャビールは目を閉じた。「…皆…逃げるんだ…山へ…」


「バカを言うな!」ハルオの声に初めて怒りが込もった。「お前は仲間だ! ここまで共に戦ってきた仲間を、置いていくなんてありえない!」


ケイがジャビールの手を握りしめた。「一緒に行くよ! 絶対に!」


アキラが一歩前に出た。彼はジャビールをじっと見つめ、次に**右前肢**を伸ばして、細長い**第III指**で北西の方角(風車施設とは反対の山岳地帯)を指し示した。そして、自身の**背中**を軽く叩くような動作を見せた。それは、獲物や重い物を運ぶ際に、飼育員がアキラの背中に荷を載せる動作を模倣したものだった。*運ぶ。お前を運ぶ*。彼の**高い知能**と**社会的知性**が、この決断を下させた。ジャビールは群れを守るために傷ついた。ならば、群れは彼を守り、運ぶ。


そのアキラの意思表示が、決断を後押しした。ソラが深く息を吸った。「…山へ向かおう。ジャビールさんを担架で運ぶ」。彼女は通信機で**AGI**に避難ルートの推奨を要求した。「…推奨ルートを受信中。途中の廃村なら、一時的な隠れ家にできるかもしれない…」。


**移動準備**は迅速に行われた。ジャビールを運ぶ担架は、カーテンレールと毛布で即席に組み立てられた。食料と水は貴重品だけをリュックに詰め込む。ソラは通信機と工具キット、ハルオは限られた医薬品と松葉杖、ケイはアキラとタマに分けるためのわずかな食料(木の実やドライフルーツ)を担当した。


アキラとタマは偵察に先立った。アキラは**軽量な骨格**と**優れた空間認識能力**でルート上の危険(不安定な瓦礫、革命党の巡回ルート)を確認。タマは高い木々や電柱に登り、**広い視野**と**警戒音**で周囲を見張った。二人(一羽と一匹)の連携は、前夜の偵察任務を経てさらに洗練されていた。


いよいよ出発。ソラとハルオが担架の前後を担いだ。ジャビールは担架の上でうめき声を漏らしたが、意識は保っていた。ケイはジャビールの傍らを歩き、励ましの言葉をかけ続けた。アキラは先導を務め、時折立ち止まって**尾**を振り、安全な進路を示した。タマはグループの後方を高い位置から監視し、異常があれば直ちに警告音を発した。


瓦礫の街を抜け、市街地の外れに差し掛かった時、彼らは壊滅的な光景を目にした。小規模な**太陽光発電所**だった場所。一面に設置された**全天候型太陽電池モジュール**のほとんどが、力づくで破壊されていた。モジュールは粉砕され、**4接合タンデム構造**の層(ペロブスカイト、CIGS、シリコン、量子ドット層)が剥き出しになり、雨に濡れて変色・劣化していた。**トンネル接合を形成する高度にドープされた半導体層**は破断し、**超撥水・親油性ナノコーティング**は剥がれ落ち、むき出しになった**量子ドット増感層(PbSナノ結晶)**は踏みつぶされていた。革命党の破壊の痕跡——「不純な技術」への憎悪の跡——が、無残に広がっていた。


「…なんてことを…」ハルオが息をのんだ。「…これが…彼らの目指す『純粋な世界』の姿か…」。


ソラは唇を噛みしめた。「…AGIの報告では…この地域の自立電力供給は…ほぼ壊滅状態…」。通信機の画面には、破壊された発電施設のリストが表示されていた。


その廃墟の中を、グループは黙々と進んだ。ジャビールを乗せた担架は重く、ソラとハルオの呼吸は次第に荒くなっていった。ケイはアキラに支えられながら、涙をこらえていた。タマは時折、木の実をくわえてケイに渡した。


アキラは破壊された太陽電池の海を見渡した。彼の**四色型色覚**が捉えるのは、劣化した材料の無機質な色彩と、散乱するガラスの破片の鋭い輝きだけだった。かつて光を集め、エネルギーに変えたパネルたちは、今はただの無用の長物と化している。この光景が、彼の**知能**に何かを訴えかけていた。破壊だけが答えではない——守るべきものがある。群れを、仲間を。


彼は振り返り、担架上のジャビール、それを支えるソラとハルオ、必死に歩くケイ、そして警戒を続けるタマを見た。**群れ**。彼は再び先頭に立ち、**尾**を高く掲げて進路を示した。山への道は険しかったが、彼の**空間認識能力**が、ジャビールを運びながらも通れる、わずかに安全なルートを見つけ出していた。決意は固い。この傷ついた仲間を、この小さな群れを、何としても守り抜く——それが、ネオルニトサウルスである彼が、この歪んだ世界で選んだ役割だった。



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