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1945年

作者: 口羽龍

 春斗はるとは放課後の教室にいた。先ほどまで子供たちの声がこだましていたのが、まるで嘘のようだ。教室はとても静かだ。


 今日は塾がある。塾が始まるまで少し時間がある。なので、ここにいて暇をつぶそうと思っているようだ。春斗はそれまで、勉強をしている。春斗はとても勉強熱心で、クラスではかなり成績がいい。先生も両親も期待していた。きっとこの子はいい高校、大学に行くのでは?


「今日も勉強してから帰ろう」


 ふと、春斗は空を見た。今年は2025年、戦後80年だ。そして、東京大空襲が起こって80年だ。いろんな意味で節目の年だ。


「今年で戦争が終わって80年になるのか」


 80年前、東京はどんな風景だったんだろう。みんな、貧しそうに生きていたんだろうか? そして、空襲で東京は焼け野原になったんだろうか? 毎年、夏休みの登校日に東京大空襲の話を聞いていたが、今年はどんな話が聞けるんだろう。今年は80年が経ったという事で、例年以上に何か特別な事を多く言いそうだな。


「どんな風景だったんだろう」


 春斗は、どんな風景だったのか、想像できない。だが、絵本や資料などで見た事がある。だけど、間近で見ると、どんな状況だったんだろう。よくわからないな。


「この辺りは焼け野原になったんだろうな」


 夜中に空襲警報が鳴り、多くの人が逃げまどい、焼け死んでいった。まるで地獄絵図だっただろうな。今、平和である事をがどんなに幸せか感じないと。


「あの頃は大変だったんだろうな。多くの死者が出たんだろうな」


 突然、教室のスピーカーからサイレンが聞こえた。聞いた事のないサイレンだ。そして、どこか恐ろしい。何だろう。全く想像できない。


「えっ、サイレン?」


 春斗は首をかしげた。どうしてこんなサイレンが鳴っているんだろう。火事だろうか? いや、火事の時のサイレンとは違う。


「何だろうこのサイレンは。聞いた事がないな」


 春斗は思った。ここにいたら大変だ。早くここから出よう。外で待っていよう。


「教室を出よう」


 春斗は廊下に出た。だが、いつもとは違う光景が広がっていた。白い床の廊下ではなく、木目の古めかしい廊下だ。どうして廊下がこうなっているんだろう。明らかにおかしい。


「えっ、何だここは?」


 春斗は首をかしげた。どこかに迷い込んだのか? いや、ここはいつも通っている小学校だ。


「廊下って、こんな感じだったんだろうか?」


 春斗は廊下を歩き始めた。ミシミシと音がする。いったいこれはどこなんだろう。どこの時代のものなんだろう。


「古めかしいな」


 春斗は外を見た。すると、人々が逃げ回っている。彼らは、まるで戦時中っぽい服を着ている。春斗はその光景を呆然と見ている。


「えっ、みんな逃げ回ってる」


 と、春斗は何かを思い出した。これは東京大空襲の頃の東京だろうか? 自分は東京大空襲の頃の東京に迷い込んだんだろうか? 夢であってくれ。ここで死にたくない。


「まさか、東京大空襲の日?」


 と、春斗の近くに焼夷弾が落ちてきて、燃え上がった。まさか、自分の近くに落ちてくるとは。


「うわっ!」


 春斗は思った。これは逃げなければならない。自分の命が危ない。裸足でもいい。早く逃げないと。


「逃げろ逃げろ!」


 春斗は廊下を走っていた。廊下には逃げ惑う生徒が多くいる。彼らも戦時中っぽい服装だ。それを見て、春斗は思った。自分は東京大空襲の頃の東京に迷い込んだんだと。


「どうしよう・・・」


 春斗は学校の外に出た。外の風景はいつもとは違う。木造の2階建てが多い。今ではあんまり残っていない家々ばかりだ。


「何だこれ! 本当に東京大空襲のようだ」


 春斗は辺りを見渡した。多くの民家が燃え上がっている。周りにいる人はパニックになって、逃げている。自分も逃げないと。


「東京が燃えてる!」


 春斗は信じられない様子で辺りを見ている。東京がこうなるって、誰が予想したんだろう。とても悲惨だな。


「信じられない!」


 春斗は逃げていた。だが、目の前に焼夷弾が落ち、あっという間に燃え広がった。


「えっ!?」


 春斗は振り向いた。だが、そこは火の海になっている。どうしよう。炎に囲まれた。このまま死んでしまうのか? それは嫌だ。もっと生きたい。もっと夢をかなえた。幸せな家庭を築きたい。こんな事で死ぬのは嫌だ。


「どうしよう。炎に囲まれた!」


 春斗は助けを求めようとした。多くの人々が、そんな暇はないだろう。だけど、奇跡を信じたい。


「誰か、助けて!」


 春斗は助けを求めた。だが、誰も来ない。どうしよう。春斗はその場に崩れこんでいる。


「助けて!」


 あっという間に春斗は炎に包まれた。春斗は目を閉じた。とても熱い。春斗は騒ぎ出した。どうしていいのかわからない。


「熱い! 熱い!」

「どうしたの?」


 春斗は目を開けた。そこは元の教室だ。そこには担任の石田がいる。石田が教室の物音に気付き、ここにやって来たようだ。迷惑をかけてしまったな。春斗は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「えっ!?」

「廊下で騒いでたんだよ」


 どうやら、春斗は廊下で騒いでいたようだ。今さっきのはやはり夢だったようだ。春斗はほっとした。夢であってよかった。だけど、こんな悲劇はもう繰り返してほしくないな。


「は、はい・・・」


 石田は思った。どうして廊下で騒いでいたのかな? 何か夢でも見てたのかな?


「どうして騒いでたの?」

「東京大空襲らしい風景が広がって」


 東京大空襲と聞いて、石田は反応した。祖父や祖母からその事をよく聞いた。だけど、祖父母が死に、あれから80年にもなると、記憶も薄れていく。また夏に平和学習があるだろう。それではどんな話をしよう。石田は悩んでしまった。


「夢でも見てたんじゃない?」

「そうかもしれない」


 春斗は時計を見た。そろそろ塾に行く時間だ。小学校を出発して、塾に行かないと。


「まぁ、今日はもう帰りなさい」

「さようなら」

「さようなら」


 そして、春斗は小学校を後にして、塾に向かった。石田は春斗の後ろ姿を見ている。ここにいる子供たちは、もはや東京大空襲の事は、資料でしか知らない。東京大空襲はもはや遠い昔の出来事になった。だけど、忘れてはならない。80年前、東京は焼け野原になり、多くの人が亡くなった。そして、そんな悲劇を繰り返してはならない。その為には、どんな事を教えていかなければならないんだろう。

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