#5「なりたい夢」
まだ少し肌寒い、四月下旬のある日。
「え〜、みんな、まだ三年生になったばっかだが、進路について話すぞ」
この日、八雲たちのクラスでは高校進学について授業が行われていた。
「ま、進路と言っても、どこの高校に行くかって感じの話だけどな」
川棚先生の話を、皆は静かに聞いている。
「……ちなみに、もうどこの高校に行きたいかとか、決まってるやつはいるか?」
雪月の机から左隣手前、一人が挙手する。
「おぉと、高森はもう決まってるのか。そんじゃぁ、えーと、話がつまらなかったら本でも読んどいてくれ。また別日に高校の話を聞かせてもらおう」
聞いたのは川棚本人だが、まさかもう決めている生徒がいるとは思っていなかった。
「もう決まってるのか〜、すごいな」
四月下旬にして、もう高校を決めている子がいることに驚く八雲。
「あ、その前に、今年の修学旅行先が決まりました。」
本題の前に、中学校三年間で一番のビックイベント情報が出る。
教室は生徒たちの期待する声でいっぱいになった。
「な、なんと、今年は……!」
少し焦らし、発表する。
教室内は自然に騒がしくなっていった。
「毎年と同じ、関西です」
教室は「おぉ……」と、嬉しくもなんか違うという空気になっている。
「はい、時期もいつもと同じくらいです。んじゃ、本題に入るぞ」
ひとまず、話を進路に戻す。
「……修学旅行、毎年いつなんだろう?。でも、ちょっと楽しみだな」
他クラスメイトと同じく、雪月も半年以上先の修学旅行が楽しみになっていた。
「……高校かぁ、ま、そのうち決まるでしょ」
クラスは修学旅行で軽く盛り上がっていたが、八雲は独り言をこぼしていた。
「そんじゃ、終わり」
チャイムが鳴り、進路の授業が終わった。
次の授業は体育。着替えて体育館に移動だ。
「ねえねえ、雪月。高校どこ行くか決まってる?」
制服を脱いでる雪月に問う。
「えぇ?……さ、さすがに、まだ、、かな」
雪月も、流石にまだ決まってないようだ。
「私もまだ何も考えてないんだよね〜」
八雲も着替えながら話す。
「ま、まだ焦る必要はないんじゃないかな……?」
制服を脱ぎ終わり、体操服に着替えながら話す雪月。
「そうだよね〜」
八雲は一足早く着替え終わった。
「あ、着替え終わったなら、先行っててもいいよ」
八雲に先行っていいよう、言う雪月。
「うんん、ちょっとくらい待つよ」
一人寂しく移動するより、話をしながら一緒に移動したいから、八雲は雪月を待つ。
「そ、そう?」
八雲が待つこと数十秒、雪月も着替え終え、一緒に体育館へ向かう。
「ねぇ雪月」
体育館へ向かってる中、八雲は左隣の雪月に問いかける。
「なに?」
グラウンド側の窓に向いていた視線を八雲に移す。
「夢ってある?」
「夢?」
「夢。眠ってるときにみるのでも、幻とかのほうでもない。なりたい、やりたいほうの夢」
どの『ユメ』かを説明する。
「ん〜、私は、ない、、、かな」
いつも通りのペースで、雪月は答えた。
「……そっか〜、私もなんか、やりたいこととかは、ないんだよね」
「八雲も私と同じで夢ないんだ」
「クスス」と軽く笑う。
「なにがおかしいのさ……‼️」
八雲は頬をふくらませた。
「うんん、なにもおかしくないよ」
雪月はまだ少し笑っていた。
「もう……でもね、なりたい夢はあるよ」
八雲は、一応は夢あることを言う。
「なに?」
「それは、まだ秘密……かな」
夢の内容は言わず、あることだけを伝えた。
「……八雲は意地悪だね」
雪月は正面を向いて言った。
「雪月も教えてくれなかったじゃん」
八雲は、さっきの仕返しと言わんばかりに言う。
「わ、私は、本当にないんだもん……」
ないものはない、そう雪月は言っている。
こうして、気づけば体育館のすぐそこまで来ていたが、
ギリギリのところでチャイムは鳴り、八雲と雪月は授業に遅刻した。




