書状と暴れる転移者
僕は自宅に戻り、シェレフと食卓を囲み、朝食を摂る。
木製の皿に盛られた木の実を物欲しそうな瞳で凝視したシェレフは、煮込んだにんじんのスープをズズッと啜っていた。
彼女は器用だ。
彼女はにんじんが嫌いらしいが、原形を留めてないスープなどといった料理は難なく食べられる。
流石に日本の米に似た穀物は、無いらしく、リゾットに似せた料理を木のスプーンで掬い、口に運ぶ僕。
この世界のパンは、日本に比べると硬めでモソモソしており、日本のパンが恋しい。
目を細め、ため息が漏れた僕に、彼女がそわそわした様子で、「ソレ、食べたい……ロウラーくん、ダメぇ?」と甘えてきた。
「食べたいだけ食べれば良いよ、シェレフちゃん!」
「ありがとっ!んっ、美味い!美味い美味いっっ!」
彼女がお礼を言い、サラクと呼ばれる木の実に腕を伸ばし、茶色の蛇の皮に似た果皮を剥き、白い球根の形をした果肉を手掴みし、口に運ぶ。
サラクは栄養豊富で、栄養不足で死にそうな人間が食べると意識が戻るほどに効果がある。桃のような食感でライチのような味わいだ。
ちなみに、僕はライチを食したことが無いので、実際には分からない。
彼女のような幼い子供でも一口でひとつを食べきれる程のサイズのサラクである。
開け放たれた窓から脚に書状が括り付けられた鶯のような鳥がテーブルにのり、フェーホホゥー、とひと鳴きした。
「レクッシュさんだぁ〜!誰からぁ誰からなの、ロウラーくん?」
手を叩き喜ぶ彼女だった。
僕はレクッシュの脚に括り付けられた書状を手にし、内容を検めた。
ドラレスという国のお偉いさんからの要請だった。
ロアコロ港に辿り着き次第、要請の内容を報されるとのことだった。
大海原を渡った大陸の一国らしい。
「ドラレスってとこのお偉いさんからだね〜。航海しなきゃいけない遠いとこからの要請だよ」
「コウカイ〜?それってウミっていう大きな大きな池をフネってのりもので旅をすることだよね〜?」
「そうだよ〜!シェレフちゃんが親から許可をもらえる歳になったら行ける旅のひとつだよ」
「いいなぁいいなぁ〜ロウラーくんっ!今日はのんびりするって言ってたのに〜!行っちゃうの、ねぇ今日には行っちゃうの〜?」
目許に涙を浮かべ、泣き出す彼女。
僕は彼女を宥める。
僕は泣き止んだ彼女を家に帰し、旅の身支度を始めた。
ボストンバッグに似たこの世界の袋に、必要な荷物を詰め込み、食器を洗い終えてから自宅を出て、メブネラ村を出発した。
ロウラーがメブネラ村を出発した頃——ドラレスのタブノメ広場の噴水付近で、剣を携えた少年が不敵な笑みでドラレスの国民に斬りかからんとしていた。
「ハハハ、彼って随分変わったわね。この世界から排除されるんじゃねー!ウケるぅ〜、ハハハハハハ!スマホ使えないし、快適な風呂は無ぇのって不便すぎっしょ!はぁ〜嫌だ嫌だ……」
「リカちゃん……」
「何よ!嫌なら、あのいけすかないメス豚に付いてけば良かったじゃない!」
「幾ら嫌いでもその呼び方は……」
「はぁー、どうでもいいだろ。てか、ウチはどうでもいいけど、アイツを止めに行かねぇのぉおお〜〜ぽっぽちゃぁあ〜ん!」
剣を携えた少年に視線を向け、不愉快な言葉を連呼する勝気な少女が口答えをする少女の片胸を背後から伸ばした腕で揉みしだいていた。
「リカちゃん、やめぇ……はぁんっ……あっ、あぁあんっっ……もうやめっ……」
「感じちゃってんのかぁ〜胸ぇ揉まれただけでぇェェええぇぇ〜?まぁ〜あぁ、野郎を誘うには十分な胸だしねぇ〜ハハっっ!」
「リカぁああー、なに一人で楽しんでんだぁ〜ああっっ!ソイツはテメェのじゃねぇぞぉおおっっっ!」
剣を携えた少年が二人の少女に怒声を張り上げた。
「あぁーああ、ぽっぽちゃんはアイツにヤられたのかぁあーあぁ。可哀想ぅぅ〜にぃぃ!」
——ある二人の男女の転移者は、この世界でクズに堕ちていた。




