生きれてます、この世界で
ピィーピィー、と樹の枝の上で小鳥が囀っていて、辺りは長閑である。
元いた日本では見掛けない変わった樹が立派に生えているが、もうこの樹は見慣れてしまって新鮮さはない。
農耕具を肩に担ぎ擦れ違う村のおじさんと挨拶を交わし、洗濯物を干す村のおばさんとたわいない会話でコミュニケーションを取り、のんびりとした生活を送っている僕——ロウラー・ボタコこと伏縁隆だ。
六ヶ月前に、バスで登校している最中にこの世界の女神による召喚に巻き込まれ、日本からこの世界に異世界転移された。
僕は異世界転移に巻き込まれた高校生達と共に、女神からスキルを授かったが、彼ら彼女らとは違う疎まれるようなスキルを授かってしまい、女神を含んだ一国に棄てられた。
女神から国外追放を宣告された際の、隣に立っていた女子高生からの憐れみの瞳で見下ろされた時の心情は……精神が擦り減った。
後輩の女子生徒から、憐れみの視線を向けられる日が来ようとは思いもしなかった。
あの……彼女がバス通学であってくれたら、どれだけ救われたか。
正義感で僕をクズな両親から救い出してくれた生沢遥華がこの世界に転移されていたら……と思う。
男性が女子に救われたというのは情けない話であるのは、自覚している。
僕にとって、生沢は英雄という存在だ。
罵詈雑言を長々と浴びせてきた淫乱女神とは、比べるまでもなく生沢が紛れもない女神だ。
両親のことは、思い出したくもない。
長年身体の隅々にまで刻みつけられた痛ましい痣が、消えている痛みを疼かせる。
僕は、子供に虐待を繰り返す親が理解できない。
どのような環境で育ったら、あの残虐さを培ったクズな大人に成るのか……?
まあ、今は両親のことは置いといて……
僕は女神を含んだ一国から遠ざかり、スキルを駆使して、メブネラ村に一人で住むには十分な小さい家を建て、平穏な暮らしを楽しんでいた。
ちなみに、僕が女神から授かったスキルは、【寄生】というものである。【寄生】がレベルアップして、【分裂】というスキルを覚え、幾人もこの二つのスキルで救い、家を建てられる程に儲けた。
女神や虐げてきた奴らに対して復讐心を抱いているが、復讐の機会が訪れるのを待つくらいには余裕はできた。
「おはよ〜ロウラーくんっ!今日も気持ちいーねっ!今日はメブネラ村でのんびりするの〜ロウラーくん?」
勾配が急な坂道を笑顔で駆け上ってきたシェレフ・ヨゼッティラが僕の背中に両腕を回し抱きついてきた。
「おはよ〜シェレフちゃん!今日は一段と元気だね〜!村を離れるような要請は来てないから、のんびりと村で過ごすつもりだよ」
僕は彼女の頭を優しく撫でて、挨拶を返し、会話を続けた。
「そっか〜!じゃあじゃあっ、ロウラーくんがメブネラ村に来るまでのお話の続きを聴かせてよぉ〜!」
無邪気な笑顔で見上げ、旅の出来事を聞かせろとせがんできた彼女。
6歳も歳下の美少女に懐かれるのは、日本で生きていた僕ではあり得ないことだ。
この世界の染髪剤は日本の物とは品質は劣るが、彼女や村の住人に馴染められる程にはよく出来ている。
染髪剤で染めた髪はくすんだ紅に染まっている。
染髪剤を購入した店の店主が、金髪用の染髪剤を手にした際に金髪にだけはするなときつく忠告を受けたので、こうなった。
金髪にしていた五人の男女は災難に遭遇したか、気になった。
「それは構わないが、朝に済ましておきたい用事を終えてからだぞ。さっ、行くか」
「はぁ〜いっ!ロウラーくんの冒険、はやくききたぁ〜いっ!はやくはやくぅっ!」
彼女が僕の手を取り、繋いで急かした。
今日は、のんびりできたら良いなぁ……




