白銀の探偵と紅茶の助手
このストーリーは両親を失いミステリー作家のゲーラ・ノートンに拾われた少女アイリス・ホームズが両親の仇を取るため探偵となり真実を解き明かすミステリー&バトルストーリーです
霧雨の校舎にて、最初の事件が始まる
春の終わり。
雨が静かに降る午後。
日本有数の名門校――私立・星霜学園高等部。
その校門を、一人の少女が静かにくぐった。
白髪。
雪のように透き通る肌。
白いブレザー制服に身を包み、小柄で華奢なその姿は、まるで物語から抜け出したようだった。
少女の名は――
アイリス・ホームズ
16歳。
自称、シャーロック・ホームズの弟子。
そして、
「IQ4000。
……凡人には少々、理解が難しいかもしれませんね」
そう平然と言ってのける、天才探偵だった。
その隣を歩くのは、茶髪のツインテールを揺らす少女。
リリア・ノートン
アイリスの助手であり、お世話係でもある。
「アイリス!
朝ごはんまた食べてないでしょ!」
「紅茶は飲みました」
「それ朝ごはんじゃない!」
「イギリスでは概念として成立します」
「しません」
このやり取りは、もはや日課だった。
10歳の頃、両親を亡くしたアイリスを拾ったのは、著名なミステリー作家ゲーラ・ノートン。
そしてその娘こそが、リリアだった。
以来、二人は家族のように過ごしてきた。
……とはいえ。
アイリスの部屋は地獄だった。
本の塔。
紅茶のカップ。
事件資料。
謎の化学器具。
もはや床が存在するのかすら怪しい。
教室にてリリアがアイリスに告げた
「帰ったら掃除です」
「それは未解決事件より優先度が低い」
「高いです」
「異議あり」
「却下です」
今日も平和だった。
――その時。
校舎の奥から、鋭い悲鳴が響いた。
「きゃああああ!!」
一瞬で空気が変わる。
アイリスの瞳が細くなる。
その色は、まるで氷の刃のようだった。
「……始まりましたね」
「え、ちょ、待ってアイリス!?」
彼女は静かに歩き出す。
走らない。
慌てない。
ただ確信している。
事件は、既に始まっていると。
悲鳴の主は、美術準備室の前にいた。
教師、生徒たちが騒然としている。
中では
美術教師、黒崎誠一が倒れていた。
鍵のかかった密室。
窓は内側から施錠。
凶器らしきナイフは床に落ちている。
誰もが口にした。
「密室殺人だ……!」
ざわめき。
恐怖。
混乱。
その中心で。
アイリスは、静かに紅茶の香りを纏いながら呟いた。
「なるほど。
実に退屈ですね」
「えっ」
「犯人も、トリックも。
三分あれば十分です」
教室が凍りついた。
一人の教師が怒鳴る。
「き、君! 何を——」
アイリスは視線すら向けない。
ただ、倒れた遺体を見つめる。
床。
窓。
時計。
花瓶。
濡れた靴跡。
そして――
机の上に置かれた、一枚のスケッチブック。
彼女は小さく微笑んだ。
その笑みは、美しくて。
少しだけ、恐ろしかった。
「さて
犯人を、指名しましょう」
リリアが小さく呟く。
「出た……
アイリスの“もう分かった”」
アイリスは振り返る。
白銀の髪が、静かに揺れた。
「助手。
メモの準備を」
「はいはい、名探偵様」
そして。
彼女は告げる。
この密室を壊す、たった一つの真実を。




