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その92 僕は、本当に望んでいた生活を手にしたのかもしれない。

「ふぁ~あ、あれ?」

隣に寝ているはずの、彼がいない。時計を見ると、まだ朝の7時だ。っと、TVの音が聞こえる。


ガラガラガラ

「あ、おはよう。起こしちゃった?」

「いや、なんでこんなに朝早く起きてるのかなって?」

「不安で眠れなくなって、辛かったから、早朝から起きてた。ごめんね、一緒に寝てなくて。」

「それで、不安じゃなくなった?」

「得体の知れない不安だから、あんまり効果はないね。やっぱり、君の顔を見て、声を聞くのが、一番安心する。」

そのまま、密着して座る。さすがに、もう3日目。慣れた。恥ずかしさというものは、そんなものだった。

「もう肌寒いよ。着替えてきたほうがいいんじゃない。」

「肌寒いなら、君が温めるぐらいしてもいいんじゃない?」

わがままを言ってみた。多分、何かを掛けてくれるぐらいだろうと思ってた。

「じゃあ、遠慮なく。」

私を抱きしめてきた。あれ?私の彼?それともオトーサン?

「君のほうが温かいよね。僕は冷たい体でしょ?」

「そんなこと...いや、冷たい。なんで、こんなに冷えるまで、一人でいたのかなぁ。」

「僕は、君の寝顔に弱いから。寝てる時は、僕の知ってる顔に戻ってる。だから、起こさなかった。」

「子供扱いして。今の私は、24時間、君のものなんだから、起こしてくれていいのに。」

私も抱きしめ返した。君が冷たいままじゃ、不安だもんね。


「しかし、こう朝からTV見てても、何にも面白くないね。」

「君は音楽でも聞いていれば、それで良かったんじゃない?」

「気分じゃなかったし、割と時間泥棒なんだよ。音楽って。」

「でも、つまらないTVを見てるより、好きな音楽を聞いてたほうが有意義なんじゃない?」

「それもそうだね。まあ、別に知らなくてもいいけど、ニュースとかはちょっと見ててもいいかなって思うからさ。」

「前々から思ってたけど、君は知ることと試すことは好きだよね。活かすこととか、使うこととかは別として。」

「好奇心が強いとは思ってないけど、知りたいことはなんとなくでもいいから、どういうものかと概要が分かればいいし、試せるものは、試してみて、結果はどうでもいいってのはあるよね。そして、別に活かそうとは思ってないんだよね。」

「なんか、面白いよね。使わないだけで知ってることって、無意味だと思うけど。」

「無意味かもしれないね。でも、知ってることで、何かに活かすことは出来る。意外と、その機会は身近にあるものだよ。」

「例えば?」

「普段、大学に通っていると、雑談する時、話題が欲しくならない?そういう時、率先して、こちらから話題を出せば、だいたいその話になると思うんだ。」

「そういうものかな?言わんとしてることはわかるんだけど、私は、話に相槌を入れるぐらいだから。」

「ニュースと言っても、芸能だったり、天気だったりのほうがわかりやすいか。みんななんとなく知ってるし、話もしやすい。」

「そっちのほうが盛り上がるかもしれない。でも、興味がないから、なんかつまらないよね。」

「そういうところまで僕に似てくる必要はないと思うけど。」

「え、どこが似てる?」

「それには興味があるんだ。その、興味があるかどうかで、自分の気分が変わるってところ。」

「...言われてみると、そうかもしれない。」

「人間の本能だと思うけど、興味があるものに対して動くことが出来るのは普通のことだと思う。でも、興味がないものだと、動機を探さないと動くのは難しい。」

「つまり、私は今、本能で生きてるってこと?」

「そういうことなのかな。僕に興味はあるでしょ?」

「興味なのかな?好きだから興味がある?興味があるから好き?どっちだろう?」

「...つまり、どうなっても、僕が好きだと?」

「好きじゃなくて、大好き。だから、似てくるんじゃないかな。君の一挙手一投足、すべてに興味があるしね。」

「それって、僕のすべてってことだよね。」

「そう。それって、なにかおかしい?」

「いや、おかしくはないんだけど、今、僕が直面している問題も、興味があるってことだよね。」

「私がおねえちゃんに託された使命は2つ、1つは君を私に惚れさせる。これは完璧なぐらいにクリア。そしてもう一つは、君の不安を吹き飛ばすこと。方法はなんであれ、君を不安にさせないようにするのが、私の使命。今、不安?」

「話してると不安は和らぐね。やっぱり、殻に閉じこもることが、悪いことだとよく分かるよ。」

「まして、君は悪循環に陥りやすい。気分が体調にも響くし、自分で勝手に滅入る。なのに、助けを呼ばない。」

「怖いんだよ。助けを呼ぶ勇気すらない。でも、今の僕には、自分から助けに来てくれる恋人がいる。」

「その答え、すごく嬉しい。私が、絶対に一人にさせない。あと2日。君は、私に甘えていいんだよ。」

「不安そうな僕は、やっぱり興味がある?」

「当たり前だよ。それは、私じゃなくても心配する。」

「ありがとう。心配してくれるだけで、僕は嬉しいよ。」

「それじゃダメ。心配事があるなら、それを話して、一緒に解決する。そうでしょ?」

「君の言う通りだよ。やっぱり、君との付き合いも長いし、僕の扱い方も分かってるね。」

「だって、千載一遇のチャンスだもん。本妻以上に浮気相手を愛するようになる恋人になって欲しいからね。」

「社会的モラルに欠けるよね。」

「うちは、そんな社会的モラルがないから成り立ってる。やっぱり、普通じゃない家庭なんだよ。」

「普通じゃないから、幸せでもある。僕らが今噛み締めている幸せは、普通じゃない幸せか。」

「そういうこと。でも、普通じゃないから、私は君に寄り添って、少しずつ不安を取り除く。そんなことでも、幸せを感じるよ。」

「こういうのは変だけど、健気。君が頼りになるというのは知ってるんだけど、褒め言葉がこれしか出てこないんだ。」

「君がオトーサンだからそういう言葉が出てくるんだよね。さすがに3日ぐらいで、恋人のような心変わりは出来ないよね。」

「出来ないかもね。でも、それ以上ってことでもあるんだよね。付き合いも長いし、君とは大体阿吽の呼吸で動けるしね。」

「恋人でもないね。そっか。私は一言で表せないほどの関係なんだね。」

「そういうこと。君が短期留学に行った時、僕はどうしようもない喪失感に襲われた。あの人がいたおかげで、僕はなんとか耐えられた。色々あったけどね。」

「私達が二人揃ってか。欲張りだよね。」

「欲張りになっちゃったんだね。三人とも、欲張りだから、こういう生活になってると思うけど。でも、幸せだよ。」


今日も、何も予定はないし、何より、僕が不安を覚えなければ、家にこもることもなかったのかもしれない。今の僕は、休職扱い。治療に専念すべき状態だと思ってる。

と、思っていたのだけど、なんか彼女が、面白いことをし始めた。

「じゃーん、久しぶりに凛ちゃんコスしてみました。」

「なんかずいぶん着替えに時間がかかってたと思ったら、そんな格好になってたのね。」

「好きなくせに?だけど、なんか、こうサイズが合わないような。」

まあ、そりゃそうだろう。コスプレ衣装でも、既製品だし、彼女があっという間に成長しちゃったしね。

「相変わらず、ネクタイ結べないんだね。」

「ネクタイする人じゃないもん。結んでくれていいんだよ。」

「そうは言うけど、別になくてもいいんじゃない?」

ブラウスの2つ目のボタンまで開けてるせいか、胸の谷間が見える。前にコスプレした時には...と言っても、1年半前ぐらい。引っ越した頃だったような気がする。

適度な運動もそうだけど、この娘の場合、とにかく色々食べてるからってのもあるんだろうなぁ。しかし、急に体の構造が変わったと思うぐらい。もしかして、僕が育ててた時には、栄養不足だったのかな。成長期だったのに、悪いことをしちゃったな。

「なんか複雑な顔してるけど、どうしたの?」

「三人で生活し始めた時、君達二人は体つきまでそっくりだったと思ったのを覚えてる。でも、君はこの1年半で、瞬く間に女性らしくなってしまった。今はもう色気が溢れてるぐらい。そう思うと、僕との2年半は、色々無理を強いてたのかなって思って。」

「君は、私の体に惚れてるの?そういうわけじゃないでしょ?」

「今の君が言っても、説得力がなさすぎるんだよね。君のすべてが好きということは、君の体も、もちろん好き。」

「本当にエッチなんだから。私と会ってから、暮らし始めた2年半。苦痛だったことは一回もなかったよ。不満があるとすれば、最後の夜にしか、エッチしなかったことぐらいかな。」

「決心を決めたのがあの日だったんじゃないんだっけ?僕には、そう見えたけど。」

「女子校に通ってると、その辺の感覚が麻痺してくるけど、やっぱり初めてって、期待もあるけど、不安もあって、堂々と出来なかった。でも、そういうものだと知ってたし、私が今となっては恥ずかしい格好でウロウロしてたのも、君の気を引くため。体はいつでも準備出来てたけど、気持ちが追いつかなかったの。」

「あの時、すごく震えてた。普段と違って、体は綺麗なぐらいに真っ赤になって、全身で恥ずかしくて、不安で、だけどそれでも僕を選んでくれた。あの時の僕は、今と同じ、君の恋人だったよ。それに、今更で申し訳なかったけど、あの時はゴムなしでやってしまったよね。」

「私も、一人エッチしすぎて、実は処女膜がなかったけど、それには気づいてた?」

「...言われてみれば。やっぱり、あの頃からエッチな女の子だったんだ。」

「なんか恥ずかしい。でも、君と一緒に暮らしてる、そのこと自体が、私にとって、エッチな気分にさせてた時もあるよ。」

「二人で一緒にひとりエッチとか、よくしなかったよね。」

「そんなの見て喜ぶのは、君だけでしょ?私は恥ずかしくて、見てられないと思うもん。」

「でも、それをしなかったから、今こうして、君が隣にいるのかなって思ってる。初エッチ、ずいぶんと気持ちよさそうだったもんね。」

「痛いままとか聞いてたから、自分でもあんなに気持ちがいいとは思わなかった。多分、あのときのエッチより、気持ちよくなることは、今後ないと思うよ。」

「...また、エッチな話、してるね。」

「お互いにエッチなことを考えてるんだよ。ま、どっかのおばさんみたいに、おもちゃまで買っちゃうようなことはないけどね。」

「はぁ~。本当に、自信をなくす。あの人は、もう僕のものでは満足出来ない体になってるんじゃない?」

「こういう時なのに、性欲に素直というかね。私がコスプレまでして、気分を盛り上げようと思ってるのに。」

「しかし、女子校生ってのは、もう無理がある体付きだよ。本当にコスプレになっちゃってる。」

「似合う?」

「可愛いなら、なんでもいい。大好き。」

「あ~、バカップルだよね。もう、なんでこういうこと、ずっとしてなかったんだろう。」

「語弊があるかもしれないけど、邪魔者がいないから、ってことにしておこうか。」

「そんなこと思ってるの?本妻から浮気してるのに?」

「浮気を仕向けたのは、あの人。僕らはそれに、勝手に乗ってるだけ。」

「ずるいんだから。...そう言ってくれるの、すごく嬉しいよ。」

軽くキスをする。ひっついて、時々キスして、時々手を繋いで、時々抱き寄せて、なんか、こういう当たり前のことを、僕はこの娘としたことがなかった。長年、恋人ではなかったから、しなかっただけとも言えるけど、やっぱり君のことを、僕は好き。さて、帰るべき本妻に、こんな感情を持つことが出来るんだろうか。そういうスリルもあるのかもしれない。

彼女が隣にいる、そして僕だけを見てくれてる、それが安心出来る。当たり前のことだったけど、僕は奥様にそれを求めていた。奥様も同じことをしてくれるけど、彼女は献身的であって、積極的ではない。この違いが、僕に安心感を与えてくれるのだと思う。君達は、やっぱり二人とも違うから、ずっと好きでいられるのだろう。

「もう、離れてあげないよ?」

「君が望むなら、僕も望むところ。でも、あの人の前でもやる?」

「もちろん。私はもう遠慮しないことにした。君は?」

「一応、逃げ場所は作っておこうかな?僕は、二人共、遠慮しない。」

「欲張り。そんなに、私たちが好きなんだ。知ってた。」

「欲張りだよ。もう、僕は二人なしで生きていけないもの。遠慮もしないし、離さない。」

「私はいいよ。おねえちゃんはどうだろうね。3Pしちゃうぐらいだから、同じ気持ちだよね。」

「もっと強欲かもよ?君も覚悟しておいたほうがいいかも。」

「え、わたしもおもちゃの餌食になっちゃうのかな。」

「勉強だと思えば?」

「そこは、拒否してよ。もう。」

また軽くキス。バカップルというより、なんか禁断の恋が実ったような、変な開放感がある。僕はおじさんだけど、精神年齢は本当に20代に戻ったような感じだ。


「なにか食べに行こうよ?」

「絶対に嫌。外が怖い。」

「そろそろ昼間に歩けるようにならないと、このあとが辛いよ?」

「うん...分かった。昼間歩けないと、辛いよね。」

どうしてそう思えたのか分からないけど、なんとなくそんな答えをしてしまった。

「心配しないで、絶対に離れない。堂々と、恋人つなぎ出来る。」

「僕と出かけてる時、二人の時は、ずっとそうしてたような気がするけど。」

「そうだけどさ...、二人で出かけるってこと、最近はほとんどなかったじゃん。」

「それもそうだね。ここのところ、なんか変に忙しかったしね。週末は、君がバイトに行っちゃうしね。」

「じゃ、着替えてくる。着替え、見る?」

「もう少しさじ加減をよくすると、ちょうどいいんだけどね、君は。」

「?、見たいって言ってたじゃん。」

「昔は毎日見てたよ。それに、一昨日とは状況が違うだろ?まさか、下着まで着替えるの?」

「あ~、そういうことか。なんで、うつ病と言いながら、エッチなことばっかり考えてるのかね。」

「君の全部が大好きだから。...まったく、子供だな。僕は。」

「また一緒にお風呂入るんだから、そこまでお預けです。着替えてくるね。」



ガチャ

「もうすぐ冬だって言うのに、なんでこんなに明るいのかな?」

「逆に、今までどうしたらそれが分からないのかって話だよ。夜なら出られるって、やっぱり心理的に何かあるの?」

鍵を締めながら、そんなことを聞かれた。

「明るいことで、不安になることもあるって感じなのかな。僕は、元来薄暗いところが好き...というより、多分虐待されて、押入れに閉じ込められた経験が多いからかもね。」

「おとーさんって、そんなことするような人じゃなさそうなのにね。」

「君は孫の立場だし、可愛くてしょうがないんだよ。僕は、未だにわだかまりがある。あの人を好きにはなれない。でも、僕の父親だからね。」

「なんか、寂しそうな顔するんだね。」

「そう見えるんだ。思えば、今でこそ母親にはわだかまりはないけど、君に告白したあの頃は、ずっと母親から怒鳴られてたな。」

恋人つなぎ。駅前のガストだから、そこまでに見られようが、別に恥ずかしいわけでもない。逆にこの娘がこんなおじさんとしてて、可哀想になる。

「その話はあとにしよう。ご飯を食べてから。ガストから出られなくなっても困るし。」

「それ以前に、ガストに入れるのかも不安だよ。」

「そんな軽口を叩けるぐらいだから、もう平気だよ。君の気持ち次第。」

「君は、どこで励ましの言葉を覚えたの?」

「覚えたことはないよ。思ったことを口にしてるだけ。」

強いよね。若いからそういうことも出来るのか、それとも僕を思って、自然と出てくるのか。なんでもいい。今の僕には心強い。

「やっぱり、本能で生きてるんじゃない?」

「変なこと言わないで欲しい。それに、本能で生きてたら、私は君に嫌われちゃうよ。」

「ん?なんで?」

「それは、その、う~ん、私も、エッチな妄想はしてるから。」

「なるほど、恋っていう文字と変っていう文字が似てるのも、なんか納得がいく。」

「なにそれ?」

「恋をすると変わるって話。僕らは、恋人同士なんだろ?変になってもおかしくないよ。」

「なぐさめてるのか、からかってるのか、分からないよ。」

分かれば苦労はしない。恋をしたから、僕は外に出られると気持ちを変えたのは、君なんだから。



「食べた~。デザートまで付けてくれて、ありがとね。」

「うん、まあ、よく食べる娘は好きだからね。」

とはいえ、若いというだけで、とんかつ定食に山盛りポテトフライをつまみつつ、プリンにガトーショコラを食べるこの娘は、今だけ悪魔に見えた。足りない分は僕が出す。あの人も、さすがに1食で3000円近く食べるような娘は想定していなかっただろうし、そこを気前よく出してあげるのが...いや、これだけ思ってれば、気前も何もないか。


ガチャ

「大丈夫だったでしょ?」

「怖くはなかった。恥ずかしいけど、君と手を繋いでたから、なんとか頑張れた。」

「嬉しいこというね。大丈夫だよ。全然震えてなかったし。」

「君のおかげ。僕にはそう思える。」

「繊細だけど、実は強い。私の知ってる君は、そうやって私を育ててくれたよ。」

「そうだね。忘れないように、努力する。」

「今日は食べすぎたし、全然運動もしてないから、さすがに体もなまるよね。でも、私がランニングに出かけたら、また不安になって震えてそうだし。」

「行ってきたら。僕は、その間はヘッドホンをしてる。極力、音楽に集中する。あと1日と半分。君と離れるための準備も必要。」

「離れるって言葉は、なんか寂しいよね。う~ん、でも、子離れというしなぁ。」

「あの性欲お化けが帰ってくると、君との時間もなかなか取れなくなる。僕が自信を取り戻せるとは到底思えないけど。」

「その時は、君のいう、私の色気を使って、意地でもやる。私も、惨めな思いしてるんだぞ。」


「ごめん。せっかく恋人同士になったのにね。」

「恋人同士かぁ。今まで、私達は、やっぱり親子だったのかな?」

「僕の目線だと、やっぱり娘だったよ。最近になって、君も娘の立場を受け入れてくれてるって分かって、嬉しかったんだ。」

「だって、オトーサンだったんでしょ?ってことは、私は娘。そう思ってた。」

「色々思い出してさ、最初にオトーサンって呼び始めたときは、罪悪感があったんだよ。パパ活そのものだったからさ。」

「援助交際。交際してないから、オトーサン。でも、今の時代にパパ活って言葉がある。で、レンタルお父さんという職業があるって話だったよね。」

「最初は軽い気持ちだったけど保護者だった。僕も君のことを守ってあげたかった。昔の君は、もっと好奇心旺盛で、何でも知りたがった。」

「背伸びもした。100円ショップでコスメ買ったり、池袋とか渋谷とか、一緒に行ったよね。」

「あの頃は、本当に親子って感じだったかもね。父親を振り回す娘って感じだった。」

無言。色々な思いが巡る。目の前にいるのは、どう見ても大人になったであろう、君。僕は、見る目がなかったんだなと痛感した。

「もしね、君があのとき、私の恋人だったら、私はここいないと思ってる。」

「やっぱり、あの人と会ったら、君は身を引くか、喧嘩するか、どちらかになってた?」

「多分、意地になったと思う。今と違って、おねえちゃんと私が二人いちゃいけないと思った。絶対に渡さないって、二人を困らせたと思う。」

「自分だけを見て欲しいって思うか、自分に嫉妬したか、そんな感じ?」

「だって、自分そっくりで、君と同じ歳の私が、存在してたら、私は自分を誰だと思えばいいのか、それが分からなかった。」

「結果、僕は、君を恋人にはしなかったし、あの人と3人で暮らすまでは、スタンスを変えなかった。それが良かった?」

「君には感謝しかないよ。私は、あのときに君に会っていなければ、一人では生きていけなかった。生きていたかも分からない。そして、保護者として、親として、時々恋人のフリをして、私が一人じゃ分からないことを、色々教えてくれた。助けてくれた。今、私のすべてを君にあげられて、それが恩返しになるのなら、いくらでも預けられる。」

「おじさんで、こんなに情けなくて、精神も不安定な僕でもいいと思うの?」

「そんなの、関係ないよ。君だって似たようなものでしょ?おねえちゃん、昔の私の風貌をした、君と同じ歳の女性を、君は好きになってる。君は、昔の私のほうが良かった?」

「僕は、今の君が見られて、幸せだよ。でも、残念ながら、昔の君も、同時に好きなんだ。僕も、欲張りで、良くないとは思ってる。」

「君が恋をしているのは、私。両方とも、私。おねえちゃんと私を、同時に好きになるのは、当たり前だよ。」

「でも、一人の女性としては、許されないことだよね。」

「他人ならそう思う。おねえちゃんは、私のことを理解してくれるし、私はおねえちゃんのことを、理解してるつもり。最近は分からないけどね。二人に甘えて、二人に支えてもらって、二人と一緒に生活しているから、わがままも言えるし、君をこんなに好きになってる。」

僕は、また不安を覚えた。今の好きという感情。二人が僕を思っているその感情。それは永久に続くものではないと知っているから。

「弱気な僕を見せてもいい?」

「また、心配になっちゃった?」

「うん、子供っぽくて、自分でも情けないんだけど、二人は、本当に僕と、ずっと一緒にいてくれる?」

「私はそうするつもり。残念なのは、私の時代を、君と一緒に歩めなかったこと。前に話してくれたけど、やっと理解出来た。そして、君の死に目を見る覚悟を付けなきゃいけない。でも、まだ時間はたくさんある。おねえちゃんとの時間を歩みながら、私の時間も大切にして欲しい。」

聞いて、涙が出てきてしまった。君を一度は拒絶しようと思った僕を、諦めずに、そんなことまで言ってくれる君。子供だったのは、僕だ。君は、本当に大人になってしまった。

「ちょっと、なんで泣いてるの?」

「嬉しくてさ。それに、君は親離れして、僕を父親じゃなくて、本当に恋人だと思ってくれてることが、本当に嬉しいんだ。」

「私、ずっと頼ってたけど、親離れしてるってことなんだ。一緒にいても、親離れって出来るんだ。」

「昔じゃ考えられないぐらい、君の言葉には説得力があるし、僕をずっと好きだった気持ちを、君なりに受け止めて、それでも好きでいてくれる。これからは、君のことをなんて呼べばいいんだろうね?」

「ほらほら、私の胸を貸してあげるから、今は泣いておこう。そして、不安なことを、ひとつずつ二人で考えよう。いや、三人で考えよう。」

「ごめん...なさい...。」

そうして、僕の顔を、自分の胸に寄せた彼女は、

「ごめん。おねえちゃんの言っている意味、理解できたよ。儚いから、君は魅力的なんだ。脆いから、君が好きなんだ。危ういから、そばにいなきゃいけないんだ。君のトリセツ。」

涙が溢れて、止まらなくなってしまっている。僕の涙で、君の服を濡らしてしまう。でも、そう思っても、止まらない。嬉しさと不安で、僕はどうしたらいいか、また分からなくなってしまっている。でも、泣ける時は、素直に泣く。

「泣くことも、感情表現の一つって言ってくれてたよね。今の君は、泣くことで、私への気持ちを出してるんだよ。こんなに幸せな涙、私しか受け止められないよ。」

僕の頭にも、君の涙が落ちてきてる。君の涙は、嬉し涙?それとも、違う感情の涙?



「う~ん、あれ?」

僕は、今も彼女の胸の中だった。そして、僕の頭を抱きしめたまま、彼女も泣きつかれてしまったのだと思う。

恥ずかしさを感じた。同時に、安心感も感じた。今の僕は、世界で一番、安心出来るところにいる。

とはいえ、成り行きだけど、豊満な君の胸に、このまま顔を埋めたままでいいのかな。君をわざわざ起こすぐらいなら、僕も、もう少し、このラッキーな状況を味わおう。



...気がついたら、僕は天井を見ていた。

「あ、起きた?気が済んだかな?」

ニヤニヤしながら、彼女が話しかけてきた。

「どうしたの?ニヤついてるよ?」

「だって、君の下半身、自分でも見てみなよ?」

僕の下半身が、元気になってしまっていた。恥ずかしい。こんなこと...?いや、ここのところ、毎日一緒にお風呂に入って、裸を見ても、一切元気にならなかったのに、すごく元気だった。自分でもだんだんとその感覚が分かって、恥ずかしい。

「もうすぐ、目標が達成出来るね。最初に私を抱いた日みたいに、私だけを考えて、私のすべてを愛してください。でも、今日も明日も、エッチしていいよ。」

なにか、吹っ切れた思いがあったのだろう。自分でも良くわからない。でも、これで、君も、僕も、体を重ねることが出来る。一方的に辱めを与えなくて済む。

「はぁ~。なんか、安心しちゃったよ。別に、興奮しているわけではないのにね。下半身はなかなか収まってくれないね。」

「今からしちゃう?ストッキングに穴を開けて、ショーツをずらすだけで、君も、私も、お互いを感じられるよ?」

「今はお預けかな。その代わり、もっと乱れた君を見せて欲しいよ。今日も、お風呂一緒に入ってくれる?」

「お風呂かぁ。別にいいんだけど、背徳感がないというか。いけないことしてるって感じが薄いんだよね。」

「それは、明日にとっておけばいい。僕らの最初の目標は、あの人が帰ってくる前に、一緒に気持ちよくなること、だったよね。」

「私、欲張りだから、毎日気持ちよくして欲しい。あんまり、おねえちゃんのこと、責められないな。」



夕食を終え、彼女はランニング、僕は必死で一人の時間を過ごし、汗を流すついでに、別のことで汗を流す。でも、いつもに比べると、やっぱり持たなかった。彼女を満足させるには、もう少し、何かが必要だ。あと1日で、僕はそれを見つけることが出来るだろうか?



そして、夜の定例会へつづく

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