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その90 これは、僕達が元に戻る話だ。

「ねぇ、一緒にお風呂入ってもいいでしょ?別に恥ずかしがる仲じゃないんだし。」

「そこは節度を持とうよ。それに、君はその先を期待してるでしょ?今の僕には、そんなことは出来ないよ。」

「出来ないかどうか、試してみる?どうせ、子供みたいに胸に顔を埋めるぐらい、平気でやるくせに。そんなことして、下半身が元気にならないなら、別の病気だよ。」

久しぶりの二人暮らし。彼女と言えば、常に僕の隣で、肩を寄せ合ってる。不思議なもので、自然と不安な感じがしない。そして、他愛のない話ばかり。

僕は、彼女が非常に賢くて、人懐っこいことを忘れていたみたいだった。やっぱり、あの人の手前、こういう行動を取ることが出来なかったのか、それを埋めるように、昔のようなスキンシップを平気でやってくる。あの頃は可愛い娘だったけど、今スキンシップをされると、やっぱりドキッとする。大人の女性の魅力も、自然と身につけてきたようだ。

「君とは、彼氏彼女の関係であっても、開放的な性生活をするつもりはないよ。それに、君達は、一度火が付くと、ずっと体を求めてくる。好いてくれるのはありがたいけど、そうやすやすとエッチしてたら、きりがない。」

「ひどいなぁ。それを彼女に言っちゃう?しかも、サラッとおねえちゃんもバカにしてるし。知ってるよ。君が、エッチすることを、本当に大切なことだって思ってるの。でも、せっかく二人暮らししてるんだし、なんなら、毎日上に乗って、腰を動かしてもいいんだよ。」

「はぁ~...、なんか、昔は大事にしてたのにね。今でも覚えてるよ。君と最初にエッチした時、初めてとは思えないほど、いやらしい声を出しててさ。」

「あははは~...、うん、知ってると思うけど、私、あの頃から、もう指を中に入れて、一人で発散してたし、初めてでも思ったほど痛くもなかったし。体の相性は本当にいいと思うんだけど、君としかエッチしたことないから、君に都合の良い体になってるんだよ。嬉しいでしょ?」

「そういうことは聞きたくなかった。まあ、一緒に入ってもいいけど、本当にエッチはしないよ。いいとこ、洗っこぐらい。」

「そうやって、私の体を触りたいんじゃない。なんで、そういう考えになるのかわからない。敏感なところを触られたら、君だって興奮するじゃん。」

「今はどうだろうね。ただ、君の体温、君の熱を感じたい気持ちはあるよ。」

他愛のないおしゃべり。人様にきかせていいもんじゃないけど、こういうやり取りは、婚約してからはあまりなかった。僕にとっても、初めて接する、彼女としての娘。不安がどうこうと考える余裕もなく、今日は本当にただエッチしたいだけのようだ。親の顔が...ああ、そう言えば親は僕だったか。



「楽しかったね。だけど、君、本当に元気がなかったね。無理に、エッチなことできる感じじゃなかったしね。」

「うん...、期待してたら、ごめん。だけど、最初から別にエッチなことは考えてなかったから、これが普通。」

「思ったけど、恋人同士なら、やっぱり一緒にお風呂入ったりするのかな?」

「君の友人はどう言ってるの?」

「そんな話、したことないし、大体女子大だから、彼氏持ちの子ってあんまりいなかったりするしね。しかも、私は2歳年上じゃん?」

「君が進んでてもおかしくないってことね。しかし、本当に、なんで君に声を掛ける男性がいないのか、全く理解できないよね。」

「そりゃぁ、私を抱いていいのは、君だけだし、君にしか体を許してない。でも、そんなに、私って魅力的?」

「まあ、人の好みもあるしね。」

今となっては胸のあたりまで伸びた、ロングストレートに、目がはっきり見えるようなぱっつんのスタイル。この辺はあの人と瓜二つ。しかし、服を着ていてもわかるほど、ボリュームのある胸と、キレイな曲線を描くくびれ、そして男を魅了するであろういい形のおしり。僕は、素肌の君を知っているから、どんな格好をしても、余計に魅力的に見える。昔は地味だけど、なんとなく華のある片鱗は見せていたが、一気に開花したかのような感じ。それでいて、服装もブランドではなく、しまむらとかユニクロとかばかり。この娘に気取るという言葉はない。いつでも自然体。あの人や、僕が、それぞれに不安を重ねて行く中で、彼女にも葛藤はあるだろうが、それを感じさせない。だから、僕は君が好きなんだろうね。

「好みって言っても、君の好みじゃなきゃ、意味がないよ。」

「それなら当然、僕の好みだよ。あの人には言わないで欲しいけど、君のほうが、女を感じる。あの人が僕を収めるための鞘なら、君はなんなんだろうね。」

「難しいこと言うね。そっか、おねえちゃんの言う通り、私、女の人になっちゃったんだね。」

「今が一番眩しい時期かもしれない。君は可愛いけど、綺麗な女性へ生まれ変わる過程を、僕らは見せてもらっているんだね。」

「その...照れる。素直に褒められると、私も反応に困っちゃう。」

「いい加減、褒められることにも慣れたほうがいい。そういうときに、困った顔になると、印象が悪くなるからね。」

不思議なものだ。あの人には、母親を求めてしまうが、この娘には、彼女を求める。好みを言えば、どちらかと言うと、あの人だけど、この娘はそれを無視するように、自分の魅力で包んでくれる。だから、不安を覚えるより、ぬるま湯に浸かっているような、気持ちよさを感じる。不安なのは変わらない。だけど、不安にさせないほど、この娘の存在が大きかったのを、久々に痛感する。僕は、こんな魅力的な彼女をほったらかしにしてしまっていた。情けないし、僕を嫌いにならないか、不安にもなる。


「たまには、こういうこともしてみようかな。」

そう言うと、後ろから抱きついて来た。本当に、包まれる感覚がする。

「ねぇ、感想は?」

「君も女の人なんだなって。もちろん知ってることだったし、今でも君のことは特別。だけど、あの人とは違う、僕にとって、君は安心させられるための材料というか、安定剤のような感じがする。あの人が不安に寄り添って、一緒に色々悩んでくれるけど、君はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ただただ包みこんで、優しくしてくれる。」

「そっか。私と君、一緒に過ごして、結構経つもんね。私は、君にずっと包まれてる、守られてるような気持ちでいたの。今の君を、私は守ってるかな?」

「彼女に守られてるなんて、カッコ悪いよね。でも、なんでだろう。君といると、すごく心地良い。やっぱり、僕が本当に好きなのは、君なのかもね。」

「嬉しいこと言っちゃって。...ねぇ、キスしようか。」

そうやって、顔を近づけて来た。僕も合わせるようにキスをした。恥ずかしさすら感じる。今まで、こんなに堂々とキスをしたことがあっただろうか。

「ふぅ...。」

色っぽい顔をする。ドキッとした。僕は、この娘の親という立場で、本当に助かっている。今は彼女だけど、僕の彼女にはもったいないぐらい。

「なんか、いやらしくなった。」

「え、舌を絡めたりとかしなかったじゃん。」

「そういうことじゃないよ。君の色気がすごいってこと。僕の彼女で本当にいいのか、すごく心配になる。」

「私が好きなんだから、君の気持ちなんて関係ないもん。それに、私のこと、好きだもんね。」

「大好き。ありきたりな言葉だけど、シンプルに返すほうが、君もいいでしょ?」

「子供扱いするなよ。まあ、好きな気持ちは伝わったから、いいよ。」

顔を背けるんだよね。こういう仕草も、可愛いところ。



「で、なんで君は、服を脱ぎ始めてるのかな?」

「え、決まってるじゃん。恋人同士、体をくっつけて、温め合いながら寝るんだよ。服なんか着てちゃダメだよ。」

下着姿になる彼女。僕が普通の精神状態だったら、本当に性行為をしてしまいそう。可愛くて、いやらしい。一番掛け合わせたらダメな組み合わせだ。

「ほら、君も脱いで。あ、私の下着、脱がせたい?君になら、いくらでも脱がせて欲しいよ。」

「盛り上がってるところ悪いけど、要は裸で抱き合って寝るってことだよね?」

「分かってるじゃん。おねえちゃんとはできるのに、私とは出来ない?」

粗治療と言っていたあの人の言葉がようやく分かってきた。この娘は、僕を骨抜きにして、本気で僕の不安を、自分への気持ちに向かせて、僕を振り向かせるように仕向けてる。しかし、あの人は、それでいいのだろうか。よほど、自分に自信があるんだよな。実際、本当に好きなのはあの人だし。

「ああ、朝とか、どうしようって思ってる?私の魅力でそうなっちゃったなら、私が責任を持って、気持ちよくさせてあげる。」

「あのさ、ちょっと無理してるよね?普段、エッチなことには積極的かもしれないけど、僕の知ってる君は、もっと落ち着いてる。今の君は、なんだか、急いでるように見える。」

「正解。私は急いでるよ。だって、1週間経ったら、おねえちゃんが帰ってきちゃうもん。その短い間に、私が一番だって、君に言わせるの。本物の彼女になりたいんだよ。」

「なるほどね。それなら、心配ないよ。だって、君のこと、僕は一番好きだもん。前にも話したけどさ、あの人が現れなかったら、僕は君とずっと暮らしていくつもりだったし、それに今も、あの人より、君のほうがずっと魅力的な女性。褒め言葉じゃなくて、僕の本音。」

すると、抱きついて来た。今度は下着姿だから、より刺激的。減退して、その気はないにしても、妙な色っぽさにやられる。

「言葉にしてくれると、やっぱり嬉しいね。そっか、私、君にとっては、おねえちゃんより魅力的なんだ。」

「勘違いしないでよ。君のことは大好きだし、ずっと愛してる。君たちが何を考えてるのかわからないけど、僕は、もう一度君達との関係を考えるときに来たのかも知れないね。」

「いやいや、関係は変えたら、三人で楽しく暮らせないもん。関係はこのまま。違いがあるとすれば、君が、あの人の旦那さんを演じながら、私と恋人になる。それだけ。」

「浮気って言うんだよ。僕を、社会から抹殺したいの?」

「私達、独占欲が強いんだよ。君を社会に出すことなく、このままの関係を続けるのも、悪くないと思ってる。でも、君には、彼氏だけど、オトーサンの役割を思い出して欲しかった。オトーサンが不安に襲われてから、私は何も協力出来なかった。でも、今はオトーサンと一緒にいて、やっぱり君には、彼氏でいてもらったほうがいいんだろうなって。」

「じゃあ、彼氏の特権でも使おうかな。一緒に、裸で抱き合って寝よう。っと、僕の匂いは大丈夫?」

「もう、台無しだよ。心配しなくても、君の匂いは、私は大丈夫。安心する匂いだよ。」



「アイツら、全然出ないじゃないの。全く、楽しくやってるのね。」

旅行を除けば、私は久しぶりにホテルだけど、一人暮らしをやっている。ビジネスホテルは、正直なところ少し寂しい。あんなに不安を抱えて、私を頼って来た君と離れる。粗治療とは言ったけど、心配よね。でも、あの娘は、きっと君を救ってくれる。いや、確実に救う存在なの。

今まで、私は君を支えることが美徳と考えてたところがある。それが、彼をたてることにも、彼が自信を持つことにも、つながると思ってた。でも、現実は、今の有様だった。私は、寄り添うこと、そして支えることはできる。でも、勇気づけたり、元気づけたり、いい方向へ導くことが出来ない。前の彼には、寄り添うで、うざがられた。君は、寄り添うことを喜んでくれた。でも、寄り添うことで、立ち直れると思っていた君は、違う不安に潰されていた。私が他に持つ、君を癒やす手段は、この体で慰めることぐらい。だけど、それも無理な状態にまで、君の不安は膨らんでしまった。そう、私は母親になったことはないが、母性はあるようで、家を出る時の、君の泣きそうな顔に、心を締め付けられた。私はずるい女だから、一人で抱え込まず、あの娘にも話してしまった。でも、それでも、たとえ、彼があの娘を本当に恋人にしてしまったとしても、私は笑顔になった君が見たい。その一心だった。

「その結果がこれだもんね。案外、元気になってたりして、ちょっと怖い。だとしたら、彼って本当に単純な人よ。」


「どうしたの?もう、22時過ぎだよ?なにかあった?」

私は親友に電話してみた。彼女は、あの人との接し方と、今の彼について相談しようと思った。

「別居した。いや、正確には、娘にあの人を預けて来ちゃった。」

「いいねぇ。愚痴大会?話聞くよ?」

「実は、彼の精神病が悪化したのよ。今は外に出られないレベルで、刃物を持つと、自傷行為をしかねないの。」

「あんな感じで、感受性も高かったけど、何より顔に出ないから、状態を把握し辛いのはわかる。けど、昔は喜怒哀楽がちゃんと出せてたもんね。」

「あなたって、1年間だけ同級生やってただけじゃないんだっけ?」

「ほらほら、中2だよ。多感な時期だし、変なところで正義感も強いけど、部活はサボるし、勉強も出来ない。その割に、私が理解できないような、難しい機械の本とか読んでた。あ、アニメ雑誌と、ファミ通もね。」

「根っからのオタク、違うわね、根っからの理屈バカなのかしらね。」

「私が彼を評価してる点って、自分を押し付けず、自分も引かないスタンスなの。来る者拒まず、去る物追わず。だから、私は卒業するときに、別れもしなかった。」

「本人が言ってたものね。そのまま、あの時まで会わなかったって。」

「そうそう。で、相変わらず天然ジゴロで、私に言い寄ってくるの。意識してないけど、ほら、この年齢だと、やっぱり私も女なんだなって再認識したよ。」

「アイツ...。」

「口が悪いねぇ。そういうところ、好き。だけど、娘さんに預けるなんて、大胆な方法を取ったね。」

「あの人に必要なのは、引っ張っていく存在だと思ったのよ。私は、どちらかと言うと、あの人と同じタイプだから、やっぱり二人でいると、彼を尊重しちゃうのよね。」

「フラフラさせておくのもどうかと思うしね。まして、今の彼は、自ら死を選ぶような状況だと。それで、24時間、一緒に行動させておくと。」

「経緯を話したか思い出せないけど、彼とあの娘の二人暮らしが、私達の原点なのよ。そして、彼女には、彼を惚れさせなさいと言ってる。」

「え、あなたの立場、ちょっと危うくなるよね?」

「その辺は、変な確信なんだけど、あの人は、私が帰るべき場所だって、ずっと言ってくれてるのよ。だから、私から離れることは、自分から出来ないと思うのよね。」

「ふ~ん、そこは、本妻の強さってやつね。」

「でも、私にない要素があるのが、あの娘。人を引っ張る力もあるし、女性としての魅力も増してきてる。私はずるいから、自分にないものを利用してあげるだけ。」

「あれ、じゃあ、本当に惚れちゃって、二人暮らしをするって言ったら?」

「残念ながら、あの二人だと、借金が膨れ上がるのよね。ただですら、あの娘の学費は、私が払ってるし、彼も、養えるほどお金は稼いでない。今の生活を守ってるのは、私なのよね。だから、ずるいことを平気でやる。良心はあるけど、彼があの状況じゃ、私も仕事に支障をきたすのよね。だから、大学生だけど、私が認めた娘に預けた。」

「あなたの家の事情は理解してるけど、その、言っていいのかな、性生活が奔放なところがあるじゃない。3人でエッチしてるとかさ。いいの?娘さんとエッチしてるかもしれないよ?」

「そこは心配してない。何しろ、そんな状態ではないし、彼がよほど回復しない限りは、どんなに誘惑しても、気持ちがついて行かないのよ。少なくとも、私と裸で抱き合って寝ても、手を出さないということは、性欲がほぼないに等しい状態だと思ってる。まあ、あの娘は、脱がせたらグラビアアイドルみたいな体型してるから、本能でエッチしてるって可能性はあるかもしれないわね。」

「いいの?」

「別に?だって、公認の浮気だもの。それに、あの娘がいなかったら、今の私は、あなたにも会えなかった。あの娘を愛してるから、託してみたのよ。」

「娘さんって言ってるけど、実際は姉妹なんだっけ。」

「そう。私と両親は同じ。どういうわけか、彼と二人で暮らしてたのよ。わけがわからないでしょ?」

「だから、娘さんを許してるんでしょ?姉妹だけど、同じ人を好きになる。あ、あなたはそんなに好きって感じじゃないんだっけ?」

「それがねぇ、急に、私のすべてと感じるようになってしまったのよ。あの人なしでは、私はもう生きていけないなって。愛おしくて、可愛くて、情けなくて、でも、本当にあたたかい人。私が25年前に忘れてしまった感情を、彼の病気に苦しむ姿を見て、取り戻してしまうなんて、皮肉なものよ。」

「それで、よく離れる決心がついたよね。やっぱり、強いね。」

「さっきも言ったけど、現状の打破をするには、寄り添うのではなく、引っ張る存在が必要だったのが一つ。そして、私自身が、彼を思い直す時間が欲しかったのが一つ。今まで、ホイホイと脱いで、裸を見せてたけど、今はものすごく恥ずかしい。恋人に裸を見られるって、こういう恥ずかしさがあったなって、改めて思ったのよ。」

「初々しいな。とても40を過ぎたおばさんの話じゃないよ。」

「あなただから言うけど、私って、見た目が変わらないって言われるでしょ?実は、18歳から、体型も、顔も、全く変わってないの。普通、もう40代にもなれば、女性の体って、やっぱり崩れてくると思ってたけど、私は、今の娘より若い子の体型なのよ。身長が160cmあるから、なんとか大人をやってる感じ。」

「変わってないと思ってたけど、まさかそんなこと、あり得るんだね。私の親友は、本当は18歳なのか。」

「ああ、40年以上は生きてるわよ。あなたと同級生。今まで、コンプレックスだったけど、彼はそんな私を好きだって、愛してくれてるって。知ってたけど、あの人の理想の女性は、25年前の私なのよ。そこから、あの人自身が歩みを止めてるのよね。だから、改めて好きと言われて、好きになっちゃった。」

「はいはい、お熱いですこと。ま、心配なのは分かったよ。私で良かったら、話ぐらいは聞いてあげるよ。」

「ありがとう。ごめんなさいね。なんか、子供みたいで。」

「恋する乙女なんだよ。悩み多き年代じゃない、その頃って。相談する相手は必要だよ。だけど、私はもうおばさんかな。」

「私もおばさんよ。元気出たわ。明日も頑張れそう。また、連絡するね。」

「面白い話、期待してるよ。それじゃあ。」



「あ~あ、やっぱり私、子供なのかな。私の40年は、あの人のためにあったと思いたいわよね。」

不思議なものよね。私が、私をうまく使っている。そして私はあの場から逃げた。託したって言うと、キレイな言葉だけど、あの人は、あの娘のものよね。

私がどういう立場になっても、あの人が真ん中にいる生活、それが戻ってくれば、私はそれでいい。ま、それであの娘の恋人になってても、私が今度は押しかけのおばさんになるだけだし。私が一番じゃないのが、悔しいけど、それより、今は君が元に戻ってくれることだけを願おう。あの娘がダメだったら、本格的に考えないと。

...なんか、君のことを考えると、やっぱりドキドキして、体が熱くなってくるわ。本当、男子中学生みたいな性欲。ホテルだから聞かれるのも嫌だけど、発散しようかな。




破廉恥だと思われるけど、私と彼は、ベッドの中で、裸で抱き合ってる。そう、抱き合ってるだけ。彼の下半身は、相変わらず元気がないまま。

「いつも思うんだけど、君って、こういうことしてる時って、何を考えてるの?」

「不安で、寂しいんだ。だから、こうやってちゃんと体があるってことを確かめてる。そして、体温が心地いい。不眠症だけど、こうして眠ると、ぐっすり眠れるみたい。」

「ふふっ、可愛いこと言うね。私が恋人だったら、毎日だってやってあげたのに。」

「今の君には、僕は溺れることだってできると思う。でも、二人で暮らし始めた頃は、君が出ていったらどうしようって思いもあった。いなくなったら、この寂しさは、どうすればいいんだろうって。」

「たまに、一緒の布団で寝てたよね。いっつも、匂いを気にしてた。けど、私にとって、すごく安心できる匂いだった。」

「オジサンになると、その辺はやっぱり気になるんだよ。まして、まだ未成年の女の子と一緒に暮らすなんて、想像してなかったし。」

「そうそう。布団を敷く場所もなかったもんね。場所を作っても、結局はまた一緒に寝たりして。」

「僕は、ずっと性対象に見ちゃいけないと思って、君と暮らしてた。それでも、君は、僕を最初に選んでくれた。僕のことを好いてくれるのが、内心は嬉しかった。同時に、君と離れる日を想像して、不安になった。あの時は、君だけが僕のすべてだったんだって。」

「...今頃になって、そういうこと言うんだ。ずるいよね。だったら、おねえちゃんと三人で暮らさなきゃ良かった。」

「彼女は、もう立派な大人だった。僕は、最初どうすればいいか分からなかった。でも、25年って時間は、それほど長い時間じゃないってことを、彼女は教えてくれた。」

「おねえちゃんのこと、大好きでしょ?」

「僕の生涯の伴侶だと思っていた。けど、この前、おかしなことを言い始めて、そこで、自分が勘違いをしていることに気づいて、また不安になった。」

「え、どういうこと?」

「僕が好きだったあの人は、まさに25年前のままだった。18歳から体型が変わっていないって言ってた。その時、僕は25年前の君が好きだったことに気づいた。この間に色々あったけど、本当はずっと、25年間、僕は25年前のことだと忘れて、本来は思い出の中で終わっていた君を、忘れていなかった。彼女を好きになるのは当たり前だった。」

私はその秘密を知っていた。けど、言っても誰も信じないようなことだから、本人達にも話すことはないと思ってた。だけど、二人は気づいてしまったみたいだ。

「あのね、信じてもらえないかもしれないけど、おねえちゃん、本当に18歳から、体型が変わってないのは、仕組まれていたことなの。」

「仕組む?誰が仕組むの?」

「本人も薄々気づいてたと思うけどね、おねえちゃんは本当に1回死んでしまっているの。タイムトラベルに耐えられなかった。だけど、現実に生きている。生きるための対価が、成長を止めることだったの。...と言ってみたけど、説得力がイマイチないよね。」

「彼女は、僕がそれを少しでも願った結果だと解釈してた。そして、僕が今みたいになったとき、25年前の目線に戻るために、与えられたものだとも言っていた。」

「おねえちゃんらしい解釈で助かった。だから、君は自然と、おねえちゃんを好きになる。そういう運命なんだよ。」

「でも、それは、彼女から未来を奪ったことになる。本来、君みたいな女性になれる可能性を奪ってしまった。そう思うと、いたたまれない気持ちになるんだ。僕が好きな人は、僕のせいで、今も昔のまま生きている。」

「じゃあ、こういうことにしようか。成長出来なかったおねえちゃんの代わりに、私がここにいる。これで、君は私達の未来を奪わずに、もっと幸せな生活を送れるようになった。これからの私は、おねえちゃんがなし得なかった未来を生きること。それを、二人に、おねえちゃんと、君に見せるために、私がここにいる。いいでしょ?」

「それじゃあ、僕が君を好きになるのも、必然ってことになるね。娘じゃなくて、彼女か。普段、あまり意図して使ってたことはなかったけど、今、初めて、君のことを、本当の恋人だって感じることが出来たかもしれない。」

「おねえちゃんの未来が、私の今の姿。君はおじさんになっちゃったけど、私も、ちゃんと成長してる。おねえちゃんには残酷だけど、今のおじさんになった君を、私は大好き。例え、昔の私が、君の帰る場所だと分かっていても、ずっと好きなまま。私に相手が出来て、結婚しても、ずっと大好き。ねぇ、どうやったら、この好きな気持ち、伝わるかな?」

「心臓の鼓動が速くなってる。君がドキドキしてるってことがわかる。裸で抱き合ってるからわかること。そして、君の体も、熱を帯びてきてる。だけど、こういうときに、恋人を満足させることが出来ない。悔しいと思えるようになった。」

「大丈夫。まだ4日あるよ。今夜は、私が一人でする。でも、この4日で、君が私を襲うくらい、君を好きにさせてみせる。そして、また、三人に戻ろう。」

「...大人だね。まあ、大人が自己申告で一人エッチするとは言わないと思うけど。」

「もう、知ってるくせに。最近の私達は、発情期なのか、発散する回数が増えてるんだよ。多分、君のせい。」

「理由がわからないけど。女性も、やっぱり好きって感情が高ぶると、エッチなことしたくなるのかな?」

「理由なんてない。ただ、好きな人と、体を重ねたい。それだけ。今、出来ないんじゃ、一人で我慢するもん。」

「...寒くなってきてるから、出来ればシャワーでも浴びながらね。今の僕じゃ、看病もまともに出来ないかもしれない。」

「ありがとう。って、やっぱり、君も一人エッチには興味津々なんだね。とんだ変態なんだよなぁ。私の彼氏。」


こうして、私は、彼の中で、たった1日で、彼女に昇格してしまった。おねえちゃんの思う壺だ。



「で、寝ちゃったの?」

「一人ベッドの中で。裸で寝てる。本当は、私と裸で抱き合って寝る予定だったんだけどね。」

「だけど、その後よね。私とアンタが、同じ人間だってことがよく分かるわ。まさか二人揃って、シャワーでしちゃうなんてね。」

「オトーサンが、寒くなってきてるからって。何が本意なのかわからないけど。で、おねえちゃんは?」

「似たようなもんよね。なんか、我慢できなくなっちゃって。変よね。夕方には、一緒にいたのに、一人になったら、急にね。」

「ねぇ、どうしよう。私の彼氏なんだよ。彼氏なのに、先に寝ちゃうんだよ。ひどくない?」

「自由気ままに生きている人だから、そんなもんなのよ。それに、エッチするまでには至らなかったんでしょ?」

「もしかして、口先だけなのかな?だったら、悲しいよね。」

「本心よ。あなたも知ってるでしょ?人の気持ちには、素直に応えるのが、あの人のいいところ。言わされたとも思えるけど、自分で思わなければ、絶対にそんなことは言わない人だから、あなたのこと、恋人認定したってこと。さあ、我が家はこれから荒れるわね。」

「そんな気ないくせに。でも、おかげで、私は前と同じように、彼の前でも振る舞える気がする。まあ、さすがにノーブラにショーツ1枚で密着とかはしないけど、オトーサンに密着して、色々話ができると思うの。変かな?」

「最初に見た時は驚いたわよ。あの人も気にしてないみたいで、なんなのって思った。まさか、ああすることで、あの人の精神がある程度安定する材料だったとは思わなかった。知ってたら、私も密着しておけばよかったと思うぐらいよね。」


「ねぇ、おねえちゃん。嘘だと思うけど、オトーサンには話しちゃったから、大事なことを話すね。」

「何?あらたまって。大事なことがありすぎて、逆に何が大事なのか、わからないぐらいよ。」

「おねえちゃんの体のこと。私はずっと黙ってた。けど、オトーサンも、おねえちゃんも、その秘密に気づいたから、本当のことを話すね。」

そして私は、おねえちゃんが1度死んでいること。生きるための対価に、成長が止まってしまったことを話した。

「アンタは、どこでそれを知ったの?」

「う~ん、正確には、タイムトラベルする時に、勝手に知ったというのが正しいのかな。だけど、おねえちゃんが会いにきて、一緒に暮らして、ある時、急にその話を思い出したの。だから、信じてもらえないのは当たり前だと思うんだけど、なぜかふたりとも、勝手な解釈をしちゃってたから、正確なことを伝えようかなって。

「ふ~ん、やっぱり、私、一度死んでたのね。まあ、普通の人間が、20日を一瞬で行き来することは出来ないだろうし、元の形だったら、維持することはできると解釈すれば、私が成長しなかった理由にもなる。」

「オトーサンに、おねえちゃんなりの解釈を聞いた時、自分でそこまで知ったんだって思った。それに、オトーサンが怯えて、精神年齢が下がった時に、対等な年齢で接するためって解釈してたことに、少し悔しさを覚えたの。」

「もしかして、それは本来、この時代に来たアンタの役割だったって?」

「私は17歳でこの時代にたどり着いてる。より、オトーサンが好むとすれば、その頃の私だったのかなって。」

「あの人は、そこで親になってしまった。目の前の現実を取った。でも、結果として、それがあなたにとって、私にとって、正解だったんじゃない?」

「そうなんだけどさ。なんか二人に申し訳なくて。でっかいこと言っちゃった手前、どうなのかなって。」

「でっかいこと?あ、さては、アンタも勝手な解釈をしたのね。怒らないから、話してみなさいよ。」

「そう?オトーサンが、おねえちゃんの未来を奪ったって嘆いてたの。だから、私がこの時代に来て、おねえちゃんが本来歩めなかった未来を歩んでるって。」

「おっきく出たわね。私の人生全否定じゃないの。でも、半分は合ってる。今のあなたに、自分を重ねる時があるの。体が成長してたら、こんな服も着られたなとか、もっと奇抜な髪型にも挑戦出来たなとかね。だから、私の服を選ぶ感覚で、あなたに似合う、あなたの好きな服をたまに買ってあげるのよ。」

「私がみすぼらしい格好ばかりしてるからだと思ってたけど、そういうわけじゃないんだね。」

「そうなのよね。こんなにいやらしい体してるのに、量産型な格好をする。もっとボディーラインを出しちゃえばって思うわよ。」

「根が地味なものでして、おしゃれしたくても、すごく恥ずかしいんだよ。」

「ま、アンタは、それでも隠せなくなってきたあたり、もうそろそろバレるわよ。色々自衛策を考えておくといいわよ。」


「しかしねぇ、私はもう少し、あの人の心をこじ開けるのに時間がかかると思ってたけど、たった6時間そこらで懐柔しちゃうあたり、やっぱり私と違うのよね。」

「私も、まさかいきなり恋人と思われるようになるとは思ってなかったよ。オトーサンという人が、まったくわからない人だと、再認識した。」

「成長した私か。我が娘ながら、良い解釈が出来たと思ってるわ。過去も大切にしつつ、未来を見てみたいなんて、欲張りな人ね。」

「ねぇ、私とおねえちゃん、こんなことで終わらないよね。」

「私は、本当ならば身を引くべきだと思ってるのよ。だけど、本当の気持ちに気づいてしまった以上は、意地でも三人で暮らす。イチャイチャしてるのを見てるのも、私は好きなのよ。あなたたちは、何をやってても、初々しいんだもの。」

「おねえちゃんは、そういうところは慎重に行くタイプだよね。で、火が付くと止まらないタイプ。」

「最近、自分がおかしいと思うようになってるのよ。アンタにエッチしてるところを見られるほど、私も興奮してくるのよね。私、今、人生で一番性欲が高まってる時期かも。」

「私は見られるのが恥ずかしいかな。でも、3人でしてるんだから、恥ずかしがるのもおかしいのかな。」

「アンタの感覚が普通よ。うちの性生活が、本当に普通の家庭と違うから、私達も変な性癖がついてないか心配よね。そういうものって、わからないし。」

「おねえちゃんは前科が2回あるしね。そういうときに限って、おねえちゃんってすごく可愛くなるんだよなぁ。」

「なによ、普段から可愛い...おばさんが可愛いとか言ってて、自己嫌悪に襲われるって、やっぱり私だけなのかしらね。」

「おねえちゃんは可愛いじゃん。事実、もう秘密ではないから言うけど、見た目は18歳なんだからさ。」

「本当に身長が160cmあって良かったわよ。150cmだったら、今頃はどうなってたか。あ、そうか、見た目が変わらないってことは、暴飲暴食しても大丈夫ってことよね。ホテル暮らしの間に、いよいよチーズケーキを肴に、冷えた日本酒をグッと一杯やってみようかな。」

「...言わなきゃ良かったかな。いい、体型が変わらないだけで、内臓とかは多分年齢相応だから、気を付けてよね。」

「やっぱり、私が妹になった気分。姉のいる生活って、案外悪くないわね。心配してくれる人がいる。普段は立場が逆だけど、これはこれで新鮮。もう、アンタが私の姉を名乗ればいいんじゃない?」

「じゃあ、おねえちゃんじゃなくて、なんて呼べばいいの?」

「...考えてなかった。なかなか、姉はやめられないのね。」



そう、彼との関係は変わらない。けど、おねえちゃんなのか、母親なのか、それとも、彼の同級生なのか、私達の立ち位置が、いよいよ変わることになりそう。



つづく

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