表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/102

その89 私は君から離れる。私は君を恋人にする。

「あなたに助けて欲しいの。娘としてではなく、20年前の私として、私を助けて欲しい。」

「...深刻そうな内容っぽいよね。話そう。私同士で会話するなんて、初めてじゃない?」


オトーサンが寝付いたあと、私は、おねえちゃん、いや、もう一人の私、20年先を生きる、私と、本当に初めて、話し合うことになった。


「大人になると、ずるい考えしか浮かばなくなる。私は、彼に本心をぶつけているけど、それを知ってもなお、怯えている。性的なことも考えたけど、今の彼には、そんな欲求はない。彼の不安は、多分死ぬまで晴れないと思うけど、曇らせないぐらいにはしてあげたいと思ってる。でも、その方法を、私は分からなくなってしまった。」

「彼は、本心をぶつけたぐらいじゃ、心を開かないよ。唯一心を開くとすれば、それは彼に認められることなの。私はそうやって、彼との恋を楽しんでる。私も嬉しいし、彼も笑ってくれる。でも、今は、何を伝えても、彼の心には届かないと思う。届けば、不安を感じることなんてなくなるんだよ。」

「でも、現にスキンシップをすることで、少し和らぐとも言っている。心は拒絶してるのかもしれないけど、緊張状態をほぐすには効果的なのかもね。」

「だけどさ、私も、助けて欲しいと言われたところで、私を不安にさせないように頑張ってくれた彼と、今の穏やかな三人で暮らしてる彼しか知らない。私にあって、私にないもの。それって、やっぱり肉体的なことぐらいじゃない。考え方や、心は、きっと私より未熟だよ。」

「一つ、私より、強いところがある。それは、あなたにとって、彼の気持ちを受け取ってから、時間が経っていないこと。私は25年以上かけて、彼を好きになってしまった。でも、あなたは、あなたの時間で言う3年で、夢も、約束も、すべてが叶ってしまった。その分、ストレートに感情を出せてたはずなのよ。」

「子供扱いと、彼氏扱いの切り替えがうまく出来てた頃だね。私が子供だったから、そうするしかなかった。彼が見捨てたりしないと思っていても、やっぱりずっと不安だった。でも、狭い部屋で二人で一緒に眠り、毎日いろんなことを話していた。これだけで、自分の不安は消えていったの。」


「私と二人で暮らしてた時は、彼は頼りになる父親で、私を認めてくれる彼氏だった。認められた私は、きっとこの先も、ずっと幸せが続くと思っていた。でも、この世界には、私がいた。本当は、私だけを見て欲しかった。私と彼は同世代。私はそれより20歳も若い。子供に扱われて当然だった。だけど、気持ちを隠すことはしなかった。だから、好きと言い続けてる。今も、私の彼氏は、彼だけ。」

「私は、あなたに謝らなければいけないことがたくさんある。あとから知って、図々しく一緒に暮らし始めて、本当だったら二人で楽しみたいエッチな時間までも奪ってしまっていた。あなたには恨まれてもおかしくない。」

「だけど、私は、おねえちゃんには、感謝しかないんだ。自分との関係がありながら、私の初めての機会をくれたあとで、3人で暮らすことになったし、金銭的な援助もしてもらってるし、そして、今、私は、私に頼られてる。私はそれが幸せ。頼ってくれて、ありがとう。」

「もうすぐ2年...いや、まだ1年半ぐらいだけど、あなたは、私の前で、娘であり続けてくれた。女にならなかった。けど、やっぱり、女性として、私はあなたを上回るほどのものは持っていないのよね。」

「オトーサンがおねえちゃんを選んだ理由を前に聞いたけど、実はそれも建前の話だったと思ってるの。私はガラスのように扱い、おねえちゃんはプラスチックのように扱う。彼にとって、身近にいて欲しいのがおねえちゃん。娘と言いつつも、体の関係が切れない彼女が私。すんなり、娘で収まれたら、私はもっとおとなしい感じだったと思う。」

「あなたの立場を利用することがずるいんだけど、あなたは、彼の彼女として、完璧に振る舞う自信はある?」

「え、それってどういうこと?」

「私は、今の好きな気持ちを制御出来ていない。何かとスキンシップをして、気を引くだけの卑しいおばさんになってる。でもそんなことでは、あの人の不安を取り除く...というよりは、不安を晴らすことが出来ないと思ったのよ。」


そして、今日起こったことを、色々話してみた。包丁を自分に向ける彼、午後、だんまりになって不安を増大させていく彼、そして、慰めた彼の話。

「...本妻って、色々大変なんだね。」

「私は本妻であり、あの人が好き。純粋に好き。愛してる、とはちょっと違う領域に入ってしまった。そして、彼と同じく、迷い始めてしまった。」

「う~ん、おねえちゃんにも悩みがあるんだね。そういうこととは無縁の人だと思ってたから、意外というか。」

「あなたに頼みたいこと、助けて欲しいこと。それは、あの人を元に戻せるのは、あなただけじゃないかと思ったからなの。私以上に彼を知っているとしたら、それはあなただけなのよ。利用するような感じだけど、あなたに、しばらく恋人になって欲しいのよ。本当の意味で、彼氏彼女の関係に戻ってほしいの。」

「それで、おねえちゃんはいいの?私は、おねえちゃんだから、彼の結婚相手も許せたし、そしておねえちゃん自身にも助けられて生きてる身だよ?」

「だからよ。少なくとも、少し前の彼を知っていて、そして今の精神年齢の下がった彼は、あなたに助けを求める場面ができると思う。その時、あなたは彼女として話を聞いて、あなたの考えで、彼を不安から遠ざける方法を知ると思う。それに、私は賭けてみようと思うのよ。」

「私が、より彼を好きになると思うけど、それでも、私にその役をして欲しいの?」

「私は本気よ。だって、私になら、彼の不安を振り払うことが出来ると思っていたけど、その役目を持ってなかった。ただ、彼をもっと愛おしい存在にして、傷つけたくないとすら思ってる。困った問題よ。だけど、ずっと好きだと思い続けて、どことなく雰囲気も彼に似てきている、今のあなたは、彼に釣り合うどころか、もっと強い存在よ。正直、親バカだと思われるかも知れないけど、あなたは私よりも女性らしく、独特な雰囲気を付けてきた。無邪気にやっていることに、意味を感じるようになったのよ。」

「いや、決してそんなことはないんだけどな。」

「一つ、心当たりがあるとすれば、あなたと彼の距離感が、この夏を境に不安定になってきた。私がその穴を埋めるように頑張っても、あなたに対する思いは、やっぱり残ってると思うのよね。あなたも私だけど、二人の私があまりにも違いすぎてきてしまった。だから、あなたにしか出来ないことが生まれてるのよ。」

「うん、まあ、理由は分かったよ。私もオトーサンが好きだし、彼としても好き。だけど、今の私は、どうしようもないほど好きというわけじゃないんだ。それでも、私が恋人になっていいのかな?私も、できることはおねえちゃんと同じだと思うんだよ。」

「さっきも言った通り、彼はあなたと一緒に暮らしていた。その時の彼は、こんなふうな感じじゃなかったでしょ?あなたが恋人になることで、生きがいを見つけて欲しいのよ。不安を一時的にでも忘れさせるには、ちょっと粗治療にはなると思うけど、あの人に、生きる勇気を与えてあげて欲しい。」

「...生きる勇気か。昔は、オトーサンにもらってたものだけど、私に返せるのかな。大体、本当に恋人に徹することができるのかな。」

「いきなりは難しいと思う。分かってる。だけど、本気で好きだった時を思い出して。一生懸命に気を引いたり、話をしたりしたでしょ?今、彼に足りないとすれば、どうでもいいことを話せる、恋人の存在だと、私は思う。私じゃ、ただの重い女にしかならなかった。ただ、若いからだけじゃない。あなたが、彼と過ごした日々を思い出せば、自然とドギマギしてくると思うわよ。いや、そうじゃないわね。新しい関係で、恋人同士になればいいのよ。」

「いやいや、おねえちゃんは簡単に言うけどさ、おねえちゃんみたく、愛する人をまた好きになっちゃった、なんて話は稀なんだよ。それに、明日から私は、オトーサンのことを、何て呼べばいいの?まさか、君って呼ぶの?」

「悪いけど、そこはもうあなたに任せるしかないわね。今のあなたは、あの人への立場を自由にしていい。私を気にする必要もない。あの人は、多分、私を頼ってくると思う。それが面白くないと思うのも分かってる。けど、あなたが入り込むスキは、なんとかして私が作る、って、ゲームのボスか?」

「オトーサンがボス...なんか、それもしっくりくるんだよね。あれだけスキだらけなのに、入り込むスキが本当にない。あ、そうか。だから、私は必死に話をしたくて、色々聞いてもらってたんだ。なんか、今考えたら、本当にそうなのかもしれない。」

「頼む立場だけど、一つだけ、あの約束は守って欲しい。あの人と、あなたの子供は、作っちゃダメ。別にエッチなことをして気を引くのは、構わないわ。」

「なんか、うちって性生活のモラルは壊れてるよね。でも、その約束は、必ず守る。」

「そりゃ、25年も体型が変わらない思春期みたいな小娘と、女の私が惚れるほどに豊満な体の娘がいて、しかも血がつながってないなら、男なら飛びつくわよね。」

「オトーサンは、性生活にはものすごく厳格だからね。変なところはあるけど、セックスを自分からしようとは言わないんだよ。ある意味、ずるい人だけどね。」

「私は、あなたを信じてる。簡単なことよ、自分が好きな男を惚れさせなさい。骨抜きにしてあげて、あの人が抱えてる不安を取り除くの。それが、私達二人で、今できること。」

「...もうさ、別に3Pでもいいんじゃない。おねえちゃんが壁越しに聞いて、一人でしてるのも、なんか悲しいよ。」

「そんなことは...あり得るのよね。やっぱり、私、発情してるのかしら。疼いてしょうがないのよ。何も出来ないから、余計に疼くのかしらね。」

「なんか、おねえちゃんなのに、私のほうが姉みたいな話し方だった。おねえちゃんも、姉が欲しかった?」

「姉妹が欲しかったかな。今の生活が好きなのは、そういうところ。必ず守らないとダメだと思ってる。あなたも、もちろん守る。それが私の役目だもの。」

「大黒柱だね。やっぱり、おねえちゃんはカッコいいよ。別に、おねえちゃんが思ってるほど、子供じゃないもん。しっかりした、大人の女性だよ。年齢詐称だけどね。」

「真面目に、未だに20代に見られるのよね。子供扱いとは言わずとも、アンタと並ぶと、確実に妹だわ。」

「おねえちゃんのおねえちゃんになっちゃった。それは、それでいいけどね。ほら、私をおねえちゃんと呼んでみてよ。」

「アンタ、いい加減にしなさいよ。ったく、私は立場上、アンタの母親でもあるんだから。」

「なんか、不思議だよね。元は同じ人間で、今は同じ人を好きになって、一緒に暮らして、そして悩んでる。誰も体験したことないし、これからも体験する人はいないもんね。」

「そう思いたいわ。アンタは、私だけの特権だと思ってるし、本当はあの人になって欲しかったけど、私の最大の理解者は、やっぱりあなたよ。だって、私だもの。」




「私、しばらくウィークリーマンションを借りて、そこで平日は暮らす。休みには戻って来るから。」

彼女がそんなことをいい始めた。やはり、僕に愛想が尽きたのだろうなぁ。

「勘違いしないで。テレワークしちゃったじゃない。それで、ちょっとどころか、すごい量の仕事が溜まっちゃったのよ。」

「だって、来週もテレワークしてもいいって、あなたの後輩は言ってたよ。」

「あの子は優しいからそう言えるのよ。現実に、私の来週の予定を、リモートアクセスして確認してみたのよ。そしたら、外部とのやり取りだけで、昼間はリモート会議状態。そこに、いつもの人事の事務作業も入るから、真面目に出社してこなさなきゃ、もう無理な量になってたのよ。本当にごめんなさい。」

「うん、分かった。と言いたいところだけど、あなたがいなくなったら、僕はどうすればいいの?」

「ああ、それは心配ないじゃない。この娘がいるもの。ああ見えて、この娘は立派な大人なのよ。ああ見えて...私が言う事じゃないわね。」

「私のほうが、おねえちゃんよりも家事できるし、大学は定時。バイトも回数減らしてるし、ちょうどいいかなって。また二人で暮らそうよ。」

「それが心配だよ。君を頼れないとかじゃなくて、僕がこんな感じなんだよ。」

「だからだよ。おねえちゃんは、仕事しなきゃいけないけど、私は大学にいかなくても、もう単位は進級に問題ない程度には取ってる。だから、残りの授業は行かなくても大丈夫なんだよ。それに、大学の友人も協力してくれるの。」

「君はおしゃべりなんだよなぁ。で、君の彼氏が心の病気になっちゃったって?」

「そんなことは言わないよ。ただ、家族が病気になって、看病しなきゃいけないって言ってあるから、ノートぐらいは写させてくれるって。」

「う~ん、君は君の責務、大学に通って当たり前だと思うんだけど。」

「それじゃあ、24時間、私と一緒にいられないじゃん。君と二人で、一緒に暮らすんだよ。」

「...ん?君?君まで、僕のことを、君って呼ぶの?」

「だって、今は君のほうがしっくりくるよ。なんか、二人で暮らしてた時を思い出さない?」

「あ、そういえば、あの頃は君って呼ばれてたね。...なんか、裏を感じる。」

「はっきり言うと、まあ、私の仕事もそうなんだけど、この娘と二人で暮らしてた頃を思い出して欲しいのよ。不安さえ見せなかった、私と再会した頃のあなたは、自分の不安なんかに押しつぶされるような余裕もなかったでしょ?」

「大人になった君を、世話するほどのことはないじゃない。君は立派に生活してる。」

「だから、立派になった私が、君を支えてあげるってこと。私の恩返し、私に惚れちゃうかもね。」

「うん、だけど、あなたはそれでいいの?」

「複雑な気分よ。でも、私もこの家庭の大黒柱だし、ちょっと仕事がね、どうしても片付けるためには出勤しなきゃいけない。けど、一緒に暮らしてたら、私に迷いが出ちゃうのよ。どうしてもあなたを優先してしまう。すると我が家は...というわけ。ある程度あなた達を自由に出来てるのは、実は私の稼ぎがいいからなのよ。知らなかったでしょ?」

「私もそれは初耳。おねえちゃんって、実はエリートOLだったりするの?」

「見た目はこんな感じだけど、私は代理とは言え、人事部の部長なんです。ね、分かったでしょ?」

「...なんか、密談があったのは分かったよ。でも、素直に甘えてみる。あなたには悪いけど、この娘との生活で、何かを取り戻せるかどうか。試してみる価値はあるのかもしれない。それに、さすがにまた古いアパートで三人で暮らすのは、ちょっと考え物だし、僕も不安だと言っていられなくなる。」

「もちろん、私がいなくなって、不安になることも多いと思う。あなたのことだから、どうせ愛想を尽かしたと思ってるのかもしれない。それより、あなた達との生活を守るには、まず私が働いて、結果を出さなければ、3人で暮らすことも困難になってしまう。そんなことになりたくないのよ。二人を思っていたい反面、たかが1週間とは言え、代理と言いながらも、代理のいないポジションにいくらか穴を開けてしまったことで、会社自体の動きも若干滞りがちになってる。人事部っていうのは、思ったより大変なのね。」

「と、言うことで、私がおねえちゃんの代わりに、君と一緒に暮らす。まあ、暮らすというより、一緒にいようって思ったら、そういうことにしかならないんだよね。さすがにトイレとか、お風呂とかは別だけど、それ以外は、一緒にいろんなことをしよう。買い物にも行きたいし、デートもしたい。もちろん、エッチなことだってしたいよ。」

「エッチなことは置いといて、今の僕は、外にも出るのが怖いんだよ?」

「だからだよ。おねえちゃんと病院には行けたんでしょ?なら、私と買い物に行くこともできるはずだよ。だいたい、私が料理出来ないの、一番よく知ってるじゃん。」

「...そうだね。どうも、僕も君には、まだカッコつけたい気持ちがあるみたいだね。今年は離れ離れになってばっかりだけど、二人の話に乗るよ。あなたは、僕のことを気にせずに仕事に打ち込んで欲しい。落ち着いたら、また僕の相手をして。」

「当たり前じゃないの。君の相手は、私だけなんだから。たまたま、この娘に面倒を見てもらう時期に来ただけ。そして、二人だけだったときの感覚、取り戻せるといいね。」

「そんなの、おねえちゃんが出ていったら、すぐ思い出すよ。ねぇ、オトーサン。」

「...オトーサンか。親の僕が、こんなに不安なのに、君は不安じゃない?」

「全然。だって、オトーサンはずっと不安だった私を、一生懸命育ててくれたじゃん。だから、私が今度は、不安な君を助ける番。成長した私が、君の不安を打ち消すぐらいはしてあげたい。今だって、ずっと好きなんだから、離れてあげない。」

「なんか、10代だった君を思い出すよ。でも、あの時とは立場が逆。情けない親で、ごめん。」

「あ~、親としてじゃなくて、君のことは彼氏として見るから。情けない彼氏。でも、好きだよ。」

「ありがとう。僕はこんな感じだけど、しばらく厄介になるよ。」

「厄介...私にとっては、毎日が幸せになりそうだけど。」


翌日、本当にトランクケースを一つ持ち、彼女は会社近くのビジネスホテルにとりあえず5日間滞在するとのことだった。

「ねぇ、本当に行っちゃうの?」

「あら、可愛いわね。本当に子供みたい。私だって、君の横にいたいけど、それよりも生活よ。安心して、私もLINEで定例会には参加するし、声だけなら、毎日聞かせてあげる。」

「うん、待ってる。僕を安心させて。」

「安心しなさいよ。君には、本物の彼女がいる。その彼女は、私より魅力的で、君を知ってる。安心して、甘えなさいな。」

「う...ん、僕が甘えられるかな。」

「そう思うなら、彼女を思うだけ満足させてあげて。そして、対等な立場になって、あなたは私と彼女のどちらを選ぶか。まあ、どっちを選んでも、3人だけどね。」

「おねえちゃんも気をつけてね。いや、気をつけるほどではないにしろ、お酒は定量だからね。」

「あら、バレてた。せっかく、いい気分で話ができると思ってたのに。ま、適度にするわ。アンタも無理せずに、困ったら相談。私じゃなくても、周りに大人はいっぱいいる。バイト先の同僚やおばさんでもいいし、アンタの友人にも相談してもいいかもね。」

「分かった。じゃあ、一週間、頑張ってね。」

「アンタもね。君も、一週間で立ち直れるキッカケをつかめるといいわね。期待してる。」

「...うん。」

「ちょっと、泣きそうじゃない。1週間なんてあっという間。それに、これからは24時間一緒にいてくれる彼女に、弱音も、不安も打ち明けなさい。気が楽になるから。」

「...いってらっしゃい。」

「行ってくるわ。君のこと、大好きよ。」


「...ねぇ、僕は、なんでこんなに悲しいんだろう?」

「そんなにおねえちゃんとの生活が良かった?」

「そうじゃないんだ。言葉で聞いても、僕には、彼女が僕に愛想をつかせたようにしか思えないんだ。」

すると、肩に手を置き、娘...彼女が、じっと目を見て来た。

「私の目を見て。これからしばらくは、私が彼女。もちろん、今まで通り、君を困らせるし、君を振り回す。でも、そんな私でも、君は好きって言ってくれる。だから、私は君を信じる。怖いなら、私に話しても、抱きついてもいいし、不安なら、思いの丈を、私に話せばいい。受け止められるぐらい、私も大人になったんだよ。」

「うん、ごめん、僕は、どの立場で君の言葉を喜んでいいかわからない。でも、どうであれ、君が僕のそばにいてくれて、こんなに心強く思えたことは初めて。君は、本当の僕を受け止めてくれると思う。確信はないけど、そう思えるんだ。今まで、しっかり見てなくて、ごめん。」

「うん、大丈夫そうだね。じゃ、早速買い物にでも行こう。私は、おねえちゃんほど優しくないよ。君が嫌でも、外に連れ出す。」

「...分かった。でも、もう少し経ってから行こう。やっぱり僕は、夜行性の人間だ。それに、僕はしばらく料理を作ってあげられないから、お惣菜の値下げの時間に行きたいな。」

う~ん、私といると、本当にしっかりするよね。私になくて、おねえちゃんにあるものって、やっぱり母性みたいなもの?それとも年の功というやつなんだろうか。あるいは、彼独特のカッコつけ方なのかもしれない。何であれ、今度は、私が立ち直らせて、私から離れられないようにしてあげる。やっぱり、私って独占欲が強いのかな?





つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ