Append Life 58 Karaoke is OK カラオケならOK
「ねぇねぇ、三人でカラオケデートしようよ。」
突拍子もない娘の思いつき。賽は投げられた感ある。
「おねえちゃんもカラオケ。私なんだから、歌はそれなりに自信あるでしょ?」
「どうかなあ。カラオケかぁ。何年ぶりだろ。面白いから、賛成します。」
奥様よ、あなた絶対に乗せられてる。しかし、歌がうまい自覚があるのか娘。
「...はいはい、行きます行きます。喉が潰れるまでやりましょうか。」
準備もしてないけど、ま、おおよそ2~3時間もやれば、終わる感じでしょう。
とは言え、歌に自信がある二人。聞いたことないからなあ。
別に俺氏は結構な男性アーティストの曲も行けるし、キーを下げれば女性アーティストも多分行ける。いや、原キーでもいけちゃうかな。
最悪、アニソンに逃げればいいし、そういう点ではいくらでも攻める感じがある。
早速、カラ館に入り、3人で入室。なんか部屋がたくさんあるけど、普通の僕が知ってるような部屋にしてもらった。入ったら適当にドリンクを注文。
「昔は歌本だったけど、今はリモコンで曲選ぶのね。大学の友達に、珍しいって言われちゃった。」
90年代後半はギリギリそれが出来た時代なので、歌本に歌い出しが書いてあったりして面白かった記憶がある。
...しかし、このカラオケ、なんかえらく歪な選曲で、僕のオーディオプレーヤーみたいな感じだった。
娘が「川本真琴 1/2」を歌えば、彼女は「PUFFY アジアの純真」。時代を合わせた訳では無いが、僕は「L'Arc~en~Ciel HONEY」と1曲めは相場が決まっている。
「なんか、僕らチョイスが古いですよね。」
「えーそれ言っちゃう?私は20年分曲が抜けてるんだよ?最近オトーサンのオーディオプレーヤーで知った曲とか多いもん。」
「あれ、たまに聞くけど、本当に25年分って感じだよねぇ。古い洋楽とかも入ってるし、あなたって割とそういうところ欲張り。」
その後もまあ、色々な女性アーティストが出てくれば、Kinkiの曲をこっそり入れてる奥様がいたり。さすがに娘がYOASOBIとか歌ってるのは新鮮だったりする。
んで、さすがに2時間を3人で回すと、ちょっと飽きてきたので、リクエストをしてみることにした。
最初は娘にリクエストしてみる曲なんだけど、うーん、どの曲なら知ってるのかイマイチ分からないんだよなあ。
...
......
.........
.............
あ、俺が聞いてみたい。これだ。
「それじゃあさ、君でも分かるでしょ。「安室奈美恵 CAN YOU CELEBRATE?」、意外と難しいんじゃない?」
「それって、おねえちゃんとオトーサンを祝えって意味?なんか焼いちゃうなあ。」
「ごめん、別にそういう意図でなくて、ただ聞いてみたかったってのがあったんだよね。」
「わかった、じゃあ、二人に送る歌ってことで、聞いてほしいです。」
...20年分の空白があるとは言え、YOASOBIを歌う現役の女子大生。リズム感もそうだけど、素人なりに歌唱力が抜群に高い。
自信があると言っていただけのことはあるんじゃないかと、思わず納得してしまった。
「ありがとうございました。いかがですか?」
「う、うぅ。」
「どうしたの、おねえちゃん?なんか普通に泣いてるけど。」
「ううん、すごく嬉しくて。結婚式とかでよくかかってるのと違って、あなたが歌ったから、すごく滲みた。おねえちゃん嬉しいよぉ。」
狭い室内だと言うのに、娘に抱きついてワンワン涙してる彼女。どっちがお姉さんなのか、本気でよくわからなくなる光景。
「オトーサンは?どうだった?」
「いや、まさかこんなに上手く歌うんだなってちょっと感心。あと、やっぱり歌詞がしみる感じするね。少なくとも、うちの奥様はもうやられてるみたいですし。」
「あははは~。こんなつもりじゃなかったんだけどね。ちょっとだけ、感謝の気持ちを込めたりしました。」
彼女がそれを聞いてまた号泣。とりあえず、一人で起きて頂いて、泣くなら縦になって泣いてもらうことにした。
「それじゃあ、オトーサンに歌ってほしい曲。あんまり得意じゃなさそうなほうで、「GLAY HOWEVER」をお願いします。」
縦になって泣いている人はただ頷くばかり。そんなに気持ちが来てしまったのかと思いつつ。
「ラルク派の人間にGLAYをリクエストするとは。お主、意地が悪いな?」
「いやあ、この前聞いててさ。久々に聞くと普通にいい曲だなって思ったから。オトーサンに歌ってほしいです。
......
「オトーサン、GLAYも行けるよ。上手だよ。」
「本当?GLAYも一通りは分かるけど、そんなに歌ってる感じではなかったんだよねぇ。」
そして、縦になっている人が、またしても何かの琴線に触れたのか、また大号泣。まあ、HOWEVERも歌詞はいいしね。
「...オトーサン、一番むずかしい人が来てしまったよ?」
「マジでな。どういう曲を聞いて育ってきてるのか、さっぱり分からないからね。」
泣いている人が泣き止み、その間に歌本と格闘してると、本人が高らかに宣言した。
「はい、私、実はモーニング娘。が好きだった時代あります。」
「へぇ。意外というか。どうせLOVEマシーンとか、恋愛レボリューション21とかでしょ?」
「ぶぶー。残念。それも好きだけど、私が好きなのは、Do it! Nowです。」
「オトーサン、この曲は?」
Do it! Nowとはまたピンポイントなところを突く。この曲を以って後藤真希が卒業するということ、それから珍しいマイナー調の曲だった。
僕もモーニング娘。の最初のピークはこのあたりだと思っている曲である。
「ちょっとびっくりしたというか、あなた、割とモーニング娘。詳しい感じあるよね。」
「SPEEDも好きだったし、モー娘。も好きだったし、なんだかんだでAKBもそこそこ知ってたりするよ。」
「さすがにベリキューとか出てきたらどうしようと思ってたけど、ライトな感じで助かった。」
「じゃあ、本人が立候補してくれたので、それをリクエストします。お願いします。」
......
うん、その頃、生で味わってた人なら分かる、あの緊張感が伝わって来る感じ。仲間だけどライバルって感じ。それを一人で歌いきってるのがすごい。
さては、この人、モーニング娘。そこそこ好きだったな?
「おねえちゃんって、歌上手いよねえ。なんか好きって伝わってくる感じの歌い方だった。」
「絶対、現場行ってた人でしょ?あの緊張感を歌ってて出せるって、味わった人しかわからないもん。」
「えへへへ。まあ、その時代は、ちょっと色々あってね。私にとっては、イメチェン後のテーマみたいな曲だったの。」
「ああ、なるほど。ちょっと納得。」
「オトーサン...に聞くのも野暮だよね。とりあえず飲み込むことにするよ」
まあ、その後は曲のレパートリーが狭くなる中、あんまり歌ったことない曲を歌ってみたり。
意外に「1/6の夢旅人 2002」を知らなかった彼女たち。そういえば、水曜どうでしょうを見たことがないのかもしれない。まあ、そのうち見せてあげよう。
「ありがとうございました。」
自動ドアから出てくる親子3人。ぐったりとした感じ。周りから見たらなんか悲惨な感じに映ってないだろうか?
「面白かった。また付き合ってほしいな。二人共。」
これが若さか。3時間やってたら、結構来るんだけど、それは僕らが歳を取ってしまったからなんだろうと実感。やっぱり娘は体力が有り余ってる時期だね。
「なんか、色々恥ずかしかったなあ。また、いらないことがバレてしまった気がする。」
後悔しているのだろうか。顔を覆って恥ずかしそうにしている彼女。
「そんなことはないよ。少なくとも、僕はもっとあなたのこと、好きになっちゃった。案外、隠し事を話してみると、実は本質が変わらないのかもね。」
「そういう慰め方しないでよぉ。私は、ただ自分が好きなものに正直なのぉ。」
「そういうことにしておこう。今のおねえちゃん、何かに打ちのめされた顔してる。」
そりゃあ、あれだけ喜怒哀楽を出してちゃなあ。コロコロと表情が変わるあなた、やっぱり、側にいてほしい存在です。
「帰りはどうする?なんか食べて帰る?」
「あ、じゃあ、ガスト行って反省会。このあとファミレストークしちゃうのも、デートの醍醐味でしょ?」
「ははは、君は本当に策略家だよね。いいよ、ファミレストークなら受けて立つぜ。」
「ねえ、私を置いていかないで。私もファミレストークしたいよぉ。」
「おねえちゃん置いて行くわけないでしょ。今日はこの後も三人で話して、三人で家に帰って、三人で寝るんだよ。」
まあ、その後は言わずもがな。いつものなかよし家族のような感じ。ただ、ファミレストークが白熱しすぎたせいか、いつもの定例会もなく、お風呂に入った順にベッドに倒れていくような感じでした。
本当に、君たちがいるだけで、こんなに日常が楽しくなる。いつも、幸せを振りまく娘、そして幸せを与えてくれる彼女。そんな僕も、彼女たちが幸せに思ってくれるなら、ずっと嬉しいなあ。
今日はこの辺で。