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Life 82 The habituation of people is a frightening thing. 寝る位置を変えてみた。

二人がランニングに精を出し始めたら、なんか毎日、夕飯後にランニングに行くようになった。

娘も、トレーニングウェアを買ってもらったみたいで、なんだかんだでランニングが楽しくなってきてるらしい。

奥様は、早朝ランニングをわざわざ夜のランニングに変えて、毎日付き合ってる。週3回、10キロと、週7で6キロ、どっちのほうがいいんだろうか。


僕は、留守番...と言えば聞こえがいいけど、洗濯物を畳んで、お風呂を洗って沸かし、落ち着いたらYoutube見ながらPCで色々情報収集。

二人が帰ってきたら、最近は二人でお風呂に入ってる。まあ、二人にしかわからない話もあるだろうし、僕は僕で、一人暮らしが長かったせいか、最近はその頃の感覚に戻っていて、どうしても夜更かしをする感じになってしまっている。二人揃って出ていかれてたりしたら、僕は死んでしまいそうだけど、確かに自分勝手な僕が出てきているのも分かっていた。


「オトーサン。お風呂上がったよ。」

「うん、今日も頑張ったね。」

ほとんど反射的に出てしまい、あまりに心無い言葉な気がした。

「ごめんなさい。二人で占領しちゃってた。あなたも疲れてるのにね。」

「大丈夫だよ。ビール、冷えてるから、飲んでね。」

またしても、PCから目を離さずに答えてしまった。無意識だけど、普通は怒られるポイントだと思う。

「なんか、重要な書類でも作ってるの?」

「そこまで僕は熱心に仕事をする人間じゃないよ。ただ、ちょっと目が離せないだけ。ごめん。」

言い訳してるな。内心、二人に嫉妬してる自分がいると分かっている。でも、大人げない態度を取ってしまう。


「なんか、怒ってる?」

「そういうわけじゃないけど、なんというか、二人がうらやましいなって。」

「かまってちゃんになっちゃったのね。あなたが、私達がいない間に、色々やってくれてるのは知ってるし、感謝もしてる。でも、一人だとちょっと寂しい?」

「寂しくはないけど、そのせいか、僕も一緒に寝なくなって、一人で夜更かししてることが増えてる。良くないと思ってるんだけど、二人が羨ましくなってるのかな。」

奥様と娘が顔を見合う。そして、クスクスと笑いながら、

「オトーサンは、そういうところが可愛いよね。そういうことなら、言ってくれればいいのに。」

「なら、あなたもランニングする?案外、何も考えてないで走るって、気分がいいわよ。」

「勘弁してよ。それに、僕自身、なんでそんなことで嫉妬してるのか、良くわからないんだ。」

「この娘を取られたって思ってるのかもね。今まで、あなたにべったりだったけど、私と運動するようになって、一人の時間が増えたから、そう思っちゃったのかもね。」

「それに、オトーサンを嫌いになれるわけないし。あ、じゃあ、明日から、オトーサンと同じ時間に家を出るよ。」

「無理しなくていいよ。」

と、娘の方に向き直って、頭を撫でてあげた。

「ごめん、僕が、感情のコントロールをうまく出来れば、そんなことしなくても、暮らしていけるのにね。」

「そんなことない。私も、早起きとまでは行かなくても、オトーサンと一緒に出ると、楽しいもん。」

笑いかけてくれる娘。僕が大人げないのはいつもだけど、それを知ってて、そういうことが言えるようになったんだね。

「なら、あなた達も、私と同じ時間に起きて、一緒に家を出ましょうよ。私も、仲間に入れてほしいかな。」

「え、おねえちゃんと同じ時間?それって、朝は7時ぐらいに起きるってことだよね。」

「まあ。起きて、着替えて、メイクして、なんとなく朝食を食べて出かける頃に、あなたが起きてくる感じよね。」

「あれ、じゃあオトーサンって結構早起きなの?いつも2番めに起きてるけど。」

「僕も朝は弱いんだよ。だから、とりあえず起きて、なんとなくパンをもそもそして、着替えて出かける感じ。初動さえなんとかなれば、元気に会社へ行けるんだろうけどね。」

「でも、アンタって、1限の授業、取ってないんだっけ?去年に比べて、ちょっと遅いわよね。」

「それが、元々1限の授業が、後期になって、3限に移動になったんだよね。で、元々週に2日しか、1限には出てなかったから、早く起きる必要がないんだよ。」

「うらやましいわね。あれ、じゃあ、ノーメイクで学校へ行くの?」

「今は、特にしてないけど。なんか、元々の肌艶がいいから、すっぴんで肌をキレイにしてたほうがいいって。友達に言われたんだよね。」

「そういえば、アンタにメイクの仕方とか、教えたことないよね。」

「その割にしては、一時期コスメポーチ持ってたりしてたと思ったけど、あの頃はメイクしてたんだ。」

「あれはなんというか、...大人になりたかったんだ。オトーサンと一緒に出かける時に、恥ずかしくないようにしようって。」

「恋の力よね。あなた、案外罪深い人なのね。」

「気づいてあげられなくて、本当にごめん。でも、君は本当にすっぴんでも、大丈夫だと思うよ。それは、あなたも一緒だけど。」

「私はおばさんよ。ある程度、薄化粧ぐらいはして当たり前。それに、派手なメイクするほど、目立ちたくないし。」

「...相変わらず、言い寄られたりするの?」

「私が既婚者ですって言っても、聞く耳をもたないのよね。そういう輩は。だから、人事権を持たせないほうがいいと思うんだけどね。」

「と言っても、人事査定だけじゃないの?監査も含めて。」

「実質的には査定してるのは監査部じゃないかな。私はほとんど何もやってない。あ、採用には関わってるかな。」

「じゃあ、例えば私が応募したら、おねえちゃんが面接官なんだ。」

「それは問題よね。あいにく、名字が違うから、その可能性は否定できないのよね。」


「で、結局、私に合わせて三人起きるってことでいいの?」

「う~ん、僕は出来ればもう少し長く眠らせて欲しい。」

「あなたはそれでいいような気がするわ。無理させると、凹んじゃうものね。」

「そうなの?それにしては、自力で起きて会社に行くじゃん。」

「本心だけ言うと、嫌なんだよ。一人だったら、もう引きこもってる可能性だってあるよ。」

「どうしてそうなっちゃったの?」

「う~ん、無理って言っちゃうとそれまでなんだけど...気分的なところが大きいよ。重い気持ちを引きずったままだったり、そのまま飲まれてしまうこともある。発作もそうだけど、自分で受け止めるだけの精神的な余裕がないことが多いからね。」

「無理強いは出来ないのよ。こう見えて、この人には負のオーラが満ちてる感じだから、そこを気晴らし出来ることさえやってもらえれば、私は文句を言わない。」

「おねえちゃんはそのあたり、甘いように見えて、オトーサンをうまくコントロール出来てるよね。」

「年齢もそうだけど、とにかく生きることに対して、希薄な部分があるのよ。だから、私は責められない。この人の妻になったときに、覚悟してたことだから。」

「僕ってそんなに生きてる感じがない?」

「なんというか、頼りがいはあるかもしれないけど、それを頼っていいものなのかが良くわからないのよね。厳しいけど、そう言わざるを得ない。」

「そうだよね。僕も、なぜ生きていられるのか、良くわからないからね。」

「そうやって、存在を否定しちゃダメなのよ。あなたは私達といっしょに暮らしてるし、あなたの変わりはいない。この娘も、あなたがいないと、生きる希望みたいなものを失ってしまう。もちろん、私だってそう。それが不慮の事故であれば、受け入れるしかないけど、自分から捨てるなら、その生命を私が拾い上げるわよ。」

「おおお、なんか、カッコいい。」

「惚れる。僕の奥様って、こんなにカッコいいんだ。」

ハッとしたように、奥様、ちょっとクールダウン。

「分かった?あなたも、そうそう生きることをあきらめないの。」

「はい。ところで、なんでそんな話になったんだっけ?」

「そうそう、早起きの話ね。まあ、別にやってみたらいいんじゃないって思うけど。」

「でも、大学で、そんな早くから出入り出来るような部屋とかあるの?図書館ですら9時開始な気がする。」

「それは心配しないで。大学は7時半には開いてるし、ほとんどの部屋も8時には開く。なんか、適当に時間は潰せるよ。」

「それはそれでいいけど、また僕はぼっちか...。」

「あなたは会社に早く行ってもダメなの?」

「鍵を持ってないから、中に入れない。だから、微妙に困る。」

「だったら、そこまでマックなり、喫茶店なりで時間を潰してればいいじゃん。」

「そんなお金があったら、夕飯がもう1品増えるよ。」

「微妙に嬉しいような嬉しくないような言い訳。」


「それじゃあ、君が真ん中で寝てもらったほうがいいと思う。」

「え、なんで?」

「だって、僕が一番奥じゃないと、夜とか迷惑掛けるでしょ。それに朝だって...その、」

「騒がしいのが嫌なのね。しかも、逆に夜中に布団から出づらいと。」

「そうそう。結構、真ん中で寝てることで、ちょっと我慢することが多かったんだよ。」

「そっか。確かに寒くなってきたもんね。」

「じゃあ、アンタが、真ん中で寝ればいいんじゃない。愛する娘が、真ん中で寝るのが、家庭は一番幸せでしょ。」

「そうだね。寝る時ぐらい、子供になっててもいいんじゃない。」

「う~ん、それでいいのかな。私は、オトーサンを囲むほうが、抱きつく相手が一方だけでいいと思うけど。」

「あなたは真ん中だから、私に抱きつくことも出来るんだけど。」

「え、おねえちゃんに抱きついていいの?ここにいるおじさんがニヤニヤしちゃうよ。」

「おじさんって。まあ、おじさんだけど、そこまで百合に飢えて無い。」

「どうしてその考えが出てくるのかしらね。あ、でも、朝一人で遅く起きるってことは、私達が着替えてるのも見られちゃうのか。それはそれで、嫌よね。」

「オトーサンはそこまでスケベな人じゃないでしょ?」

「ところがね、この人、たまに着替えをジッと見てるときがあるのよ。恥じらいがないから、逆に堂々と見てるし。」

「オトーサン...。そこまで発情してたんだね。」

「自分の奥さんが堂々と着替えてるのを見ない男がいる?」

「普通は見ないと思うんだけどな。やっぱり、溜まってるんじゃないの?」

「まあ、どうでもいいわよ。別に、手を出してくるわけじゃないし、減るものでもないしね。」

「さすがに君が着替えてるところは、見ないよ。娘の着替えを喜んで見てたら、本当に変態になっちゃうしね。」

「いや、でも、エッチなことをしてる関係なのに、そういうところは娘だったりするの?」

「そりゃそうだ。なにも、前は一緒に着替えてた関係だし、嫌と言うほど見てるしね。」

「え、そうだったの?さらに変態じゃない。」

「あ、そうか、おねえちゃん知らないんだっけ。エッチなことはしてなかったけど、そういうところはズボラだったよ。」

「どおりでなんかおかしい生活だったのね。発散は個人でしてるのに、着替えを見ることはよくあったと。」

「昔はノーブラだったから、普通に胸とか見てたんじゃない?」

「どうだったかな。別に見てるとは思ってなかったけど、そう言われると、おかしいよね。」

「もう分かった...。あなたが、変に恥ずかしい時はソワソワしてるのに、堂々としてると見てるって言うのは、そういうことだったのね。」

「どう聞いても変態だよ。普通なら家庭崩壊の危機だと思うぞ。」

「う~ん、そう言われると、どうしようもないけど。見ないほうがいいのは分かるよ。」

「それ、当たり前の感覚。オトーサンはどうしてそういう答えになるのか?」

「ま、いいわ。あなたが見てようと、別に減るものじゃないから、どうでもいい。朝早くから、それを見る元気はないわよ。」

「そういうことだね。朝が弱いし、目が見えてるわけでもないから、あんまり気にしないでいいよ。」

「それなら、私はリビングで着替える。おねえちゃんみたいに堂々と出来ないよ。」

「そっちのほうがありがたいよ。ごめん。」

「それは何に対して謝ってるの?着替えを見ること?」

「いや、君を真ん中で寝てほしいってこと。」

「そうだった。そもそも、なんで着替えの話になったんだっけ?」

「私が変に話を振ったから?事実だから、弁解の余地はないわよ。」

「おかしいなぁ、被害者だと思ったら加害者になってるし。」

「今更な感じだよね。こんな人でも、私の大好きなオトーサンだから、仕方ない...いや、そこはおかしいと思うのが普通か。」

「そうそう。アンタも普通じゃないことを散々やってきちゃってるから、なんとなく流されやすいのはあるわよね。」


と言う訳で、僕はベッドの端に交代。まあ、今まで真ん中で寝てて、やっぱり落ち着かない感じがあったから、それを考えると、別に端っこでもいいのかな。

「なんか、不思議な気分。私が真ん中で寝てる。両側に二人がいるって、なんか照れる。」

「初々しいわね。でも、ちょっとは娘って感じになれるのかしら。」

「今までは両手に花だったけど、本来なら、真ん中は君に用意されるべき場所だよ。」

「もっと甘えていいのよ。いい大人に言うセリフじゃないけど、あなたは、私達にとって、実の娘以上に色々与えてくれてる。だから、あなたの好きなようにしていい。」

「君が本当にいいと思ったら、そのままの場所でもいいし、変な感じになったら、また場所を変えればいい。もちろん、リビングでも、座る位置を変えていいんだよ。」

「リビングだったら、今の位置でいい。もしかして、オトーサンは結構辛い?」

「本音を言えばね。でも、君がそれを望んでるなら、僕はそのままで大丈夫。もうちょっと、頑張って支えるよ。」

「カッコいい。そんなにカッコつけなくてもいいのに。」

「やっぱり、君の親だからさ。少しはカッコよくなりたいと思うよ。」

「言うだけならタダだしね。お父さん。」

「なんか、凄い煽ってきてるけど、君のほうがずっと親らしいよ。お母さん。」

「このやり取りを真ん中で聞いてる、私がすごく恥ずかしいんだけど。」

「あんまり親らしいことをしてあげられなくて、ごめんね。それでも、君は自慢の娘だから。」

「あなたはどこに行っても、あなたらしく。もちろん、今は、私達の娘。」

僕と、彼女が、もう少し真ん中の娘に近づいて、挟んであげた。娘は、それを嬉しそうな、照れくさそうな顔で、天井をみていた。

「寝ようか。」

「そうね。明日から早起きしなきゃいけないし、寝ましょう。」

「うん、おやすみなさい。」

「「おやすみ」」



AM 4:00

う~ん、目が覚めてしまった。まあ、いつものことだけど、ここでベッドから出る時、端っこだと、誰にも迷惑を掛けずに出ることが出来る。

理由はともあれ、トイレに一度行きたいと思った。こう、なんか歳を取るごとに、ポンコツになってるんだなと実感する。


さすがに寒くなってきたなぁ。でも、これからもっと寒くなるもんな、と、ベッドに戻ってみるが、

「あれ、僕の場所、無くなってる。」

そう言えば、今ほどではないけど、僕の布団で一緒に寝た頃は、大の字になってたっけ。あの頃は、部屋も狭かったし、代わりに君の布団で寝ることが出来たけど、今は同じベッドで寝てるんだもんね。少しずつ、衰えていく僕と、女性として、これからも大きくなっていく君。いつも思うけど、いつまで好きと言ってくれるかな。


...感慨に浸ってる場合じゃないな。寒い。仕方ないけど、ちょっと端っこに入れてもらおう...あれ?

ドタン。アイタタタ。ベッドから落ちるなんて、どうしたんだろう。僕は?

「あれ、あなた?」

彼女が音を聞いて起き上がるも、僕はベッドに隠れてしまって見えない。そのまま、ベッドを出て、僕の方に近づいてきた。

「え、どうしたの?」

「ごめん、ベッドから落ちた。さすがに痛いよ。」

「ベッドから落ちるって...、ああ、なるほど。隙間に入り込めなかったのね。」

「この娘を起こしたくなかったから、あんまり考えないでこっちの隙間に入ろうと思ったんだけどね。」

「仕方ない。それじゃあ、私のほうで、一緒に寝ましょう。」

彼女の手を借りつつ、ベッドに入る。

「結局、いつもの場所になっちゃったね。」

「慣れって怖いものね。それにしても、この娘、あなたがいなかったら、ベッドから落ちるのかしら?」

「さすがに落ちたところは見たことないし、大丈夫じゃない?」



AM 5:30

ドタン。

ハッと目が覚める。横を向くと、寝てるはずの娘がいない。

「アイタタタ。私、ベッドから落ちた?」

「大丈夫?それにしても、同じ日に同じようにベッドから落ちるなんて、本当に、仲良しな親子ね。」

「え、誰が落ちたの?」

「僕だよ。気にしないで。それより、起こしてあげようか。」

「ごめん。やっぱり、いつものように、オトーサンが真ん中のほうがいい。」

「そうしようか。慣れって、本当に怖いね。」




今朝もこの辺りで。

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