Life 81 I've reached an age where I need to lose weight. 私、いつもなんか食べてるな。
突然だけど、もし、自分の体に、お肉が付いてきちゃった時、みんなはどうしてるのかな?
どうも、私は、週3回、4時間程度のバイトと、大学の行き帰りだけじゃ、足りないぐらいのカロリーを取っていた。
食欲の秋。本来なら、キノコだったり、栗だったり、サンマだったり、季節のものを食べるべきだと思うんだけど、どこのスーパーでも年中売ってる。同じように、私は、ここまで若いからカロリーをすぐ消費出来ると油断をしまくり、肉肉魚ぐらいのペースで、美味しく食事をしていた。
結果、あんまりいいたくはないけど、体重は55キロになってしまった。適度に動いているとはいえ、筋肉があるわけでもない私。ついにダイエットを決意。
「で、僕に相談というのは?」
「申し訳ないんだけど、私の夕飯は、野菜中心にしてほしいんだよね。」
「それはいいけど、それって、バイト先で自分で買ってきたらいいんじゃない。一般のスーパーだと、煮物だったり、和え物だったり、あんまり若い人が食べるようなものは少ないよ。」
「どっちがいいんだろうね。二人は、その当たりどういう管理をしてるの?」
「う~ん、僕は、とりあえず値札を見て、その日のお惣菜を買ってるから、これと言って、凝ったことはしてないんだよ。だけど、僕の好みになるから、無駄にお刺身だったり、ひじきの煮物だったり、そういうさっぱりとしたものがメインになってるかな。でも、1週間に1回ぐらいは、どうしても揚げ物になりかねない。バリエーションに乏しいよ。」
「私は、特に考えない。だって、その分走ればいいだけ。アンタも始めたらいいじゃない。若いから、すぐに10キロぐらい走れるわよ。」
「それはそうと、10キロって、どこまで行ってるの?秋葉原までだって、たかだか5キロぐらいしかないのに。」
「決まったコースだと、このまま不忍通りに出て、不忍池をぐるりと一周、そのあと着た道を戻ってくる。おおよそ10キロ。水分を補給するポイントはある程度決めておく。これだけで、体は順応していくと思う。」
「だってさ。厳しいね。」
「でも、それが体を老化させないから、もう10年以上も、スタイルを維持してるんでしょ?やっぱり、努力が違うね。」
「アンタは、そうねぇ、不忍池まで行って、そこで折り返せばいいんじゃない。行きは軽い下り坂、当然、帰りは登り坂。それでも片道3キロ以上あるかな。最初はそれぐらいで、ペースは守る。速くてもだめ、遅くてもだめ、淡々と同じペースを維持出来ると、身体能力の全体的な強化につながるわよ。」
「トレーナー?言ってることが、陸上選手のトレーニングみたいになってるけど。」
「私もそこまで勢いよく走ってない。だけど、ペースを落とすぐらいなら、距離を短くしたほうが、将来的に慣れたときに、もう少し伸ばそうっていうことが出来る。そこまでやってたら、私も10キロまで出来るようになったのよ。1キロ6分ペースを淡々と守れば、10キロなんて1時間。ま、実際はその後にシャワー浴びて、二度寝するから、本当ならもう少し早く切り上げる必要もあるかもね。」
「6キロを、1時間で走りきる。しかも、同じペースで走る。出来るかな?私。」
「1キロあたり10分って、普通に早足で歩けば、そのぐらいにならないかな。千駄木駅の入り口まで、おおよそ1キロぐらい。無理に走るより、最初は動くだけでもいいんじゃないかな。」
「競歩みたいな感じ?」
「いやいや、そこまで速度はいらない。ああ見えて30キロぐらいの速度で歩くらしいからね。ちょっと速いかなってペースで十分だと思うよ。」
「まずは慣れていく、速度をあげるトレーニングはその後、そして、最終的には、10キロ走破が理想かな。」
「オトーサンは?」
「僕は睡眠障害なので、早朝に運動しちゃったら、会社で寝てるような状態になると思う。色々厳しいよ。」
「ま、それで、この体型なのよね。身長が175cmあるから、それ相応に大柄って見られるけど、脱がせると普通にお腹の出てるおじさん。」
「不摂生がたたってますから。と言っても、僕も食べる量が年々減ってるから、若干だけど体重は落ちてるんだよね。」
「アンタはこの人に会ったとき、丸くなったって思った?」
「結構丸かったよね。だけど、素直にそういう感じになったんだって受け入れられたかな。元を知ってるけど、あんまり変わらないなって。」
「え、そうなの?僕も中学時代から丸かった?」
「体型的にがっちりしてたイメージかな。でも、もやしっ子ってイメージは拭えなかった感じはする。」
「そうそう。再会した時は丸くなってたから、逆に痩せちゃってもおかしいって思っちゃうかも。」
「それってどうなんだろうね。丸いからって得したとは思えないんだけど。」
「アレよ。いつも例えてるけど、趣味に没頭してるあなたって、パンダが遊んでるような感じがあるのよ。」
「いいイメージすぎない?もっと、クマが鮭を取ってるとか、そういう感じじゃなくて?」
「動物だと、そうだな。オトーサンはコアラのフリをしたパンダみたいな感じ?」
「いつも寝てるって?それはそうだけど、そんなにじっとしてる?」
「うん、じっと何かやってる感じがあるよね。プラモ組み立てたり、イヤホンのケーブル差し替えたり、パソコンをいじってたり。」
「座椅子で完結する生き方ですから、そう見えるのもしょうがないか。」
「あなたも家にこもってないで、運動してみたらいいんじゃない。それだけでだいぶ体型変わると思うけど。」
「ヤダよ。通勤と、買い物だけで十分動いてるじゃん。1日6000歩も歩いてれば、十分だと思ってる。」
「また、すごく微妙な指針。どうなのかしらね。歩いてるほうなのかしら?」
「さあ?でも、1日1万歩は昔やってて、疲労感が半端じゃなかった。その点、6000歩なら頑張れる感じはする。」
「Apple Watch使ってるのに、そういうところを見たことがなかったかな。どれどれ、ん...え、私、何もしない平日って5000歩ぐらい。休日だと2000歩行ってない日があるじゃない。」
「だから言ったじゃん。そんなに、日常で歩くって、実際には難しいんだよ。そりゃ、ホームセンター勤務とかなら1日で1万歩ぐらいあっと言う間だと思うけどさ。それに、都心に近いところで暮らしてるから、そもそもに距離もないしね。」
「むぅ......、なんか悔しい。」
「私も見てみようっと。う~ん、ヘルスケアってやつ?」
「あ、そうそう。どっかにない?」
「ボチっと、う~んと、歩行?ってやつ?」
「いや、それだと距離だけっぽい。アクティビティって一番上のやつかな。」
「あ、これだ。......え、今日って3000歩しか歩いてない?」
「大学の行き帰りぐらいじゃそんなものなのかもね。」
「そっか。そりゃ太るわけだ。反省。」
「もう少しバイトのシフトを入れられといいのよね。コンビニのバイトって、意外に歩いてるイメージあるし。」
「コンビニでバイトしてる日は、5000歩ぐらい。案外歩いてないね。」
「で、あなたはどうなのかしら?」
「僕は、う~んと、あ、やっぱり5000歩ぐらいだ。ほらね?」
「なんで運動してない人が、こんなに的確に歩数を言えるのかしら。」
「ま、身の程をわきまえてますから。」
そんなわけで、私は週3回、おねえちゃんとランニングすることにした。
朝、4時。まだ夜明けには程遠いけど、街灯のお陰で、暗いって感じはない。むしろ、夜走ってるのと感覚的には同じかな。
「寒いなぁ。ジャージだとこんなに寒いのか。」
10月も後半、日中はそうでもないけど、朝晩は冷えてくる。もっと寒い時期にも、ちゃんとランニングするおねえちゃんを、ちょっと尊敬した。
「寒いけど、如何にして運動した熱を逃さないようにするか。体を冷やしちゃうと、運動の効果はあっても、体調不良になりやすいわよ。」
「それにしては、なんか薄着じゃない?」
「私はトレーニングウェアだからよ。熱を逃さないような構造の服だから、これでも十分暑くなるわよ。」
「それ、欲しいな。買ってよ?」
「ジャージは自分で買ってきたのに、高い方をおねだりするとか、さすがに呆れるわ。ま、可愛い娘のためか。でも、続けられるんでしょうね?」
「う~ん、時間は違うかもしれないけど、空いた時間で運動するようにしようと思ってる。バイトが休みの日かな。」
「これから寒くなるし、もともとアンタはなぜか朝弱いし、空き時間で走るのは、いいかもしれないわね。でも、人が多いと、大変よ。そうなると、深夜か早朝になっちゃうわね。」
「二人がお風呂に入ってる間に、私が走ってくればいいのかもね。そうすれば、生活リズムは変わらないし。」
「最初はそれでいいと思う。今日はコースを覚えて、時間がかかってもいいから、とにかくここに戻ってくるようにしましょう。私も合わせるから。」
「うん、ありがとう。おねえちゃん。」
やると言ったからには、やり遂げたいとは思うけど、それにしても2キロでこんなに辛いのか。確かに、オトーサンの言う通り、1キロ10分の壁は簡単。だけど、おねえちゃんはこれを6分で走っている。私は、8分ぐらいかかってしまっている。
「大丈夫?なんか、辛そうよ。」
「ハァハァ、そりゃ初めてなんだから、辛いよ。ハァハァ...。」
それにしたって、息がきれてないおねえちゃんは、本当に40歳を超えた人なのだろうか?フルマラソンでも行けそうな感じ。
私が、オトーサンとぐ~たらしてる前から、ずっと同じ距離を走ってるんだから、それほど苦でもないのかな。
「下を向くと辛くなるよ。前を、遠くを見ながら走っていくと、気分的に楽よ。」
それにしても、なんだろ、一歩ごとに、胸がチクチクするような気がする。どうしてだろう。
不忍通りを湯島方面に行くと、上野動物園の裏門にたどり着く。今日はそこで折り返すらしい。
若いだけで、運動出来るわけないんだな。やっぱり、日頃のトレーニングって大事だと思った。
「ちょっと休憩しましょう。大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないかもしれない。」
時間は4時半ぐらいになってた。おおよそ3キロぐらい?を、結果的に30分弱。つまり、歩いても大して変わらないペースで、私は走ってることになる。
走ってもいないオトーサンが、なぜこうなることを予想出来たのだろう。やっぱり、秋葉原から歩いて家まで戻ってくることを繰り返してると、ある程度の目安は分かるのかな。
「ちょっと水分を取っておいたほうがいいかも。はい、あなたの分。」
小型のリュックみたいなのを背負ってたけど、二人分の飲み物やら、タオルやらが入ってたんだ。なんか、準備してない私が甘かったのかな。
「それと、汗、家でシャワー浴びるにしろ、冷えちゃうから、拭ける場所は拭きなさい。ここから、折返しは緩やかな上りよ。」
「いまのが下り坂?ハァハァ、そうは思えなかった。ハァハァ...。」
「緩やかだから、あまり気にすることではないと思うけど、体感がきつくなるかもしれない。後半だから、それは仕方ないところ。いつかは着くから、大丈夫よ。」
「うん、ハァハァ...。」
思った以上に息が上がってる。全身運動だからなのかな。
「さ、じゃあ、体が冷えないうちに、戻りましょう。大丈夫、あなたのペースで走ろう。」
「うん...、ハァハァ...。」
帰りは、なんとなく気が楽になった。半分過ぎたと思えるからなのかな。それとも、ペースをある程度掴めたからなのかな。
息は上がってる。けど、寒くはない。体が熱を帯びてきてる。冷やすと動けなくなるっていうのも、分かる気がする。
「もうすぐだから、もう少しだけ頑張れ。」
本当に、おねえちゃんは、私なのだろうか?言い換えれば、私も続けていれば、おねえちゃんにはなれるってことだけど、本当にそうかな。
「ハァハァハァハァ......。」
言葉が出ない。辛さとかより、脱力感が上回ってきてる。そういえば、走る前に少し食べたほうがいいってオトーサン言ってたけど、カロリーが足りてないのかな。
あ、下を向いちゃう。前を見なきゃ。もう少しで、見慣れた風景にたどり着けるんだから。
そうか、自分を鼓舞するって、こういう時に思えるんだ。脱力感は取れないけど、本当にもう少し。
「あと1キロないぐらいよ。前だけ見て。」
前だけを見る。上向きに姿勢を正す。あれ、これが一番楽になった?
「そうよ、力を適度に抜いて、姿勢を保つ。大丈夫よ。」
漫画で読んだことがある、無駄な力が入ってるって言うのは、こういうことだったんだ。だから、きちんとした姿勢があって、楽に走れるようになるんだ。
「はい、到着。よく頑張ったね。」
「ハァハァハァハァ...、うん、着いた。」
あ、ヤバい、倒れそう。
「ほら、どうしたのよ。まだ、部屋じゃないぞ。部屋に戻るまでがランニングよ。」
そう言いながら、おねえちゃんが私を支えてくれてる。
「ごめん...、ハァハァ...。」
「最後のほうは、良かったよ。最初からあの感じで走れば、すぐに慣れていく。しばらく、私も付き合うから、一緒に続けていこう。」
「うん...、ありがとう...。」
時間は5時ぐらい。まだ夜は開けない。だから、シャワーを浴びて、一寝入り出来る。でも、興奮してるから、落ち着けるかな?
二人で、部屋に戻っていった。すごくゆっくりだけど、力が入らないから、部屋に戻るのも、支えてもらいながら。でも、続けていけそうかも。
部屋に戻って、おねえちゃんはお風呂を沸かしてくれてる。私の体が冷えないように、体温を維持しないと、体調不良になってしまうらしい。そうだよね。
着替えをとって、二人でお風呂に入る。おねえちゃんはシャワーだけでいいんだって。
私は下着を脱いでいた。あ、なんかチクチクするんだよな。
「あら、胸の下側、擦れた跡があるじゃない。そっか、普通のブラをしてたんだっけ。」
「うん?そうか、走ってて、なんかチクチクしてたのって、擦れた傷だったんだ。しかもこれじゃあ、私が下を向いても、気づかないわけだ。」
「なんか引っかかる言い方ね。でも、キレイな体なんだから、ちゃんとしたスポーツブラも買わないと、ダメそうね。」
私一人じゃ気づかないことが多すぎる。やっぱり、やってみて、体感しないとダメなんだね。
「あったかい。思ってたより、体が冷えてたのかな?」
浴槽に浸かって、初めて自分の体が冷たかったと感じた。思ったより、薄着で走ってたのが、よくなかったんだね。
「ん?どうかしら。あの格好じゃ、体温はやっぱり逃げていくわよね。ジャージって意外に万能ではないのよね。防寒着でもないし。」
そんなことを言いながら、シャワーを浴びてるおねえちゃん。もしかして、体つきが幼いわけじゃなく、運動してたらこういう体型になったってことなのかも。
スラッとしてる。私と違って、胸も、お尻も、適度なボリュームだから、オトーサンには幼いって見えるのかも。あ、でもくびれがあまりないのか。全身を見ると、前に思った通り、ちょっと幼い感じを受けるけど、そもそもくびれというか、お腹周りに無駄なお肉が付いてないんだ。
私は...うん、くびれはあるけど、すごく柔らかい。筋肉が付いてないからなんだろうな。あ~あ、おねえちゃんみたいになるって、大変だな。
「じぃぃぃぃ...。」
「何?どうしたの?」
「いや、おねえちゃんって、やっぱり体のラインがキレイだなって。」
「あなたのほうが女性らしい体つきじゃない。まったく、いやらしい体しちゃって。」
「なろうとしてなったわけじゃないんだから、そういうこと言わないで欲しい。」
「ごめん、そういうつもりじゃないけど、ほら、やっぱり、うらやましいって思うこともあるのよ。」
おねえちゃんが私の体型をうらやましいと思ってる?でも、体重は50キロ以上あるんですけど、そういうものなのかな。
「ねぇ、50キロ以上ある女性って、引く?」
「なんで引くの?ボリュームがあるってことは、それだけの重さがあるんだから、あんまり気にすることじゃないかな。」
「そうか、そういう考え方もあるね。」
「それでダイエットしたいって。なるほど。でも、体重を減らすよりは、体のバランスを考えて、鍛えていくってことも大事かもよ。男の人から見れば、私よりあなたのほうが、性的には好かれるのよ。一番ダメというか、若いうちから、ただ闇雲に体重を落としていくと、痩せすぎになっちゃうケースもある。体つきが貧相になっちゃうのよ。」
「おねえちゃんはどうしてたの?」
「あんまり気にしてなかった。だって、今のあなたぐらいの年齢って、大学もゼミだけだったりしてたし、就活も終わってたころだから、自由気ままに遊んでたような気がする。」
「でも、そこまでが黒歴史だって。」
「生活が荒れていた時は、もしかすると太ってたかもしれない。でも、不思議なことに、あんまり体型も、体重も、変わってないのよ。ほら、私が彼氏に捨てられた時とか、自暴自棄になってたのに、それでも体型は維持してたのよね。あの時に、お酒を覚えたし、チーズケーキもほぼ毎日食べてた。なのに、肌荒れもしたことない。」
「うらやましい。何が違うんだろうね。」
「あなたもそうなのかなって思ってたら、この2年ですごく女性らしい体つきになっちゃったから、私と違うんだって。」
「女性から見て、やっぱりそういうほうがうらやましい?」
「うらやましいかな。だって、若くはないにしても、愛する夫に抱かれる身だし。」
「また発情してる?オトーサン寝てるし、私も黙ってるよ。」
「そんなことしたら、体が冷えて、体調不良になるわよ。あなたも、ふやけるまで入ってちゃだめよ。体は急激な温度変化についていけないからね。」
「うん、おねえちゃんがシャワー浴びたら、私も浴びて、出るよ。」
「しかし、どこでどうしたら、こんな風に育つのかしらね。私なのに?」
「あははは...、うん、そうだね。」
「あれ、なんか変なこと言った?」
「お互いに、隣の芝生は青く見える感じだよね。私達。」
「私のような体つきで、いいことってあるのかしら?でも、あなたは私の体つきのほうがいいんだ。」
「だって、体のラインが本当にキレイだもん。私はだらしない感じじゃない?」
「そう?私は、あなたのような体つきになりたいと思ってるけど、どんなことをしても、ボリュームアップは出来なかったしね。胸も小さいし、言うほどお尻にお肉もないし、柔肌って言われても、あなたほどではない。若いってそれだけで武器だって思う。だから、自信を持ちなさい。それに、鍛えていけば、もっと魅力的になれると思うよ。」
「もっと、色々教えてくれる?」
「もちろん。可愛い我が娘のためだもん。ん、娘?それとも私?」
「そこは、私じゃなくて、娘って言ってくれていいよ。私はおねえちゃんに教えてもらう側だし。」
「仕方ない、じゃあ、あとで、トレーニングウェアを一式、買いに行こう。あの人には内緒よ。」
「うん、ありがとう。おねえちゃん。」
「気持ちよさそうに寝てるな。やっぱり、クマかパンダか。」
時間は5時半ぐらい。二度寝するにはいい時間かもしれないけど、なんか、変な感じがする。体が起きてしまった感じ。布団に入って、聞いてみる。
「おねえちゃんって、いつもこの状態から、どうやって寝てるの?」
「なんとなくボーッとしてると、朝の目覚ましがなる感じかな。気づいたら寝てるってイメージ。」
「私、なんか興奮しちゃって、眠れないんだけど。」
「あるあるね。じゃあ、発散でもしてくれば?」
「それで体は静まるの?」
「う~ん、もっと起きちゃうかもね。疲れはちゃんと体に出てくるから、じきに眠くなるはず。落ち着いて目を閉じる。それだけで大丈夫。」
「あ、じゃあ、一つ提案。」
「なに?」
「真ん中で寝てる、このケダモノを挟んで寝ようか。」
「面白そうね。朝起きて、そんな状況だったら、どんな表情するんだろうね。」
二人で、両側に密着する。寝てるオトーサンは、全然気付かない。これで気づいたら、ちょっと驚く。
「それにしても、役得というか、この人は、本当に幸せそう。」
「なんか、楽しい夢でも見てるのかな。そうだったら、いいね。」
「うん、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
「......て、あなた。」
そうして、目を開けた先に、着替え中の奥様がいた。
「私がうっかりしてた。あなたの起きる時間よ。」
「あれ、なんで、今着替えてるの?」
「ああ、私が寝坊しちゃったの。ラッキーでしょ。」
「着替えを覗けるって?それだけで興奮するほど、僕は単純じゃない。」
「はいはい、私達に挟まれても気持ちよく寝てる人の言うセリフじゃないわよ。早く、あなたも着替えてね。」
あ、そうだ。僕も着替えないと。でも、僕のことを離してくれない娘がいる。
「どうしたの?」
「この娘にホールドされちゃってる。知らないうちに、力が強くなってるな。この娘。」
「幸せな朝ね、あなた。早く解かないと、会社に遅刻しちゃうわよ。」
「起こしたくないし、しばらくこのまましてる。せっかくだから遅刻するよ。」
「妬けちゃうわね。それじゃ、ごゆっくり。」
結果、僕は遅刻することになった。でも、幸いなことに、娘も講義が一限からだった。良くないことだけど、この娘と一緒に家を出ることが、ちょっとだけ嬉しかった。
「どうしたの?すごく楽しそうだよ?」
「理由はともあれ、君と一緒に家を出る日が、ちょっとだけ嬉しいんだよ。」
「遅刻してまで、私と一緒に家を出るの、そんなに嬉しいんだ。私のこと、大好きだね。」
「そうだね。僕は、君のこと、大好き。」
「うん。......なんか、恥ずかしい。」
「大好きなんだから、恥ずかしがらなくていいのに。」
「ずるいんだから。でも、そういうところも好きだよ。」
「うん、良かった。さ、今日も一日、頑張ろうか。」
読んでくれてありがとうございます。またね。