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Life's margins EX 2 Friendships that begin with “see you later”.「またね」から始まる友人関係

僕は、今、二人の女性とテーブルを共にしている。

左側には僕の奥様、そして正面には、「またね」以来、25年ぶりに出会ってしまった、彼女がいた。


どうしてこうなってしまったのだろう。それは、多分、彼女が声を掛けてくれたことに嬉しくなった僕が原因なのだろうか。


きっかけは、1時間前に遡る。

たまたま、僕は実家に帰ってきていた。シルバーウィークというやつだ。当然、奥様は付いてくる。娘はなんか色々あるそうで、東京に残してきた。

で、実家でなにか振る舞おうと思い、二人でスーパーに来ていた。ここまでなら、いつもの日常。まあ、栃木で起こっているから、日常とはいい難いのかもしれない。


突然の再会、それは、スーパーの精肉コーナーだった。

「別に特別感とかいらないからさ、鍋に入れるならこま切れでいいんじゃないの?」

「そういうところよ。あなたは大雑把なんだから。当然しゃぶしゃぶ用のお肉を買っていくのよ。」

「へいへい、スポンサーがそういうなら、僕は従いますよ。」

「まったく。美味しいものを食べたいんだから、材料はケチったらダメなのよ。」

「知ってる。でもって、自分はそういうとき、全然食べないだもんね。」

「うっ、痛いところを突くわね。そこは奉仕の精神よ。お二人に美味しいものを食べて頂きたいもの。」

うちの奥様、こういうところに変なこだわりがあるんだよなぁ。どうせ僕が作ることになるんだから、材料なんてどうでもいいでしょうって。


と、たまたま隣の女性と目が合った。

「あれ、違ってたら申し訳ないんですけど、...君?」

「はい。そうですけど......あっ、思い出した。」

「お互い、老けたねぇ。会ってみたかったけど、まさかこんなタイミングで会えると思わなかった。」

「それは僕も一緒。」

「あの、ちょっと、お知り合い?」

「あ、...さんだっけ。へえ~、あのときは高嶺の花とか言ってたのに、ちゃっかり付き合ってるんだ。すごいね。」

「う~んと、この人は、中学2年のときに仲が良かった...さん。」

「あ、ごめんなさい。もしかするとちゃんと話したことなかったよね。なるほど、この人が、中2の想い人か。」

うちの奥様は別として、やっぱり40代になって、しっとりとした感じの女性になっていた。

「想い人...う~ん、どう言ったらいいのかな?」

「再会して、最初から助けを求めるんだ。なんか昔から変わってないんだね。」

「ということは、私達3人は同級生ってこと?」

「そういうことになるかな。しかし、こんな偶然があるんだな。」

「二人はこっちに住んでないの?」

「うん、普段は東京で暮らしてる。」

「そうなんだ。私は結局、ここで暮らしてる。でも、ちゃんと家庭が持てたし、今の生活も悪くないよ。」

「そう、良かった。」

「何二人で納得してるのかな。ちょっと、妬けちゃうんですけど。」

「そう?じゃあ、想い出話でもしに行こう。私、車だから、ファミレスとかでいいかな?」

「それはいいんだけど、買い物中なんだ。ある程度買ってから、ご一緒していいかな。」

「うん、決まり。じゃあ、私はマツキヨのほうにいるから、買い物終わったら、そっちに来てね。」

「分かった。なんか、いきなりでごめん。」

「ううん、いいよ。色々知りたいこともあったしね。」

そうして、彼女は買い物カゴに豚こまを入れて、自分の買い物に戻っていった。


「言いたいことはだいたいわかってるよ。」

「あなたがそれでいいなら、私も昔話を聞きたいし、うまくいけばこの歳で同級生の友達が出来たりして。」

「昔の話しが本当ならば、意外と趣味も合ってるしね。彼女もキンキ好きだし。」

「もしかして、銀狼怪奇ファイルを1話取り逃して、死んだ目をしてたって子?」

「そうそう。知りたいでしょ?」

「それはそれかな。私が知らない、彼女から見たあなたを、私は知りたいかな。」


「...というわけで、ちょっと帰りが遅くなるけど、必ず18時までには帰るから。うん、ごめん。」

オカンに電話を掛けた。まあ、僕が料理を振る舞うということは、これで無くなったかな。

「じゃ、ファミレスに行こうか。ちょっと狭いけど、二人ぐらいなら乗れるから。」

「お言葉に甘えて。」

なんか可愛い感じの車...一時期CMですごく見たんだけど...パッソかな?これなら、大人3人でも問題ない。


今日もココスは満席に近い。たまたまタイミングが良かったせいか、4人席が空いていたので、そこに入った。

そして、今である。空気は幾分和やかとはいい難いような、若干ピリピリする感じ。僕の奥様ってこんなに嫉妬する人だったっけ?って思うぐらい。


「しかし、お互い、老けたねぇ。」

「老けた?今の君のほうが、今の僕には好みに見えるけどね。」

「相変わらず口がうまいよね。そうやって、何人思わせぶりをしてきたのかな?」

「う~ん、実を言うと、流れで付き合うことがあっても、しっかりと話をして、結婚出来たのは、彼女しかいないかな。」

「え、結婚してたんだ。指輪してないから、てっきりずっと恋人同士で暮らしてるのかなって思った。」

「でも、半分は当たっているのよねぇ。私達、籍を入れてから、最近は意識しちゃってる気がするのよね。」

「だって、君は本当に見た目が変わっていないんだもの。そりゃ、僕からしたら、意識しちゃうでしょ。」

「本当にお互い好き同士なんだね。羨ましい。」

「やっぱり変に見えちゃうのかな。私達って?」

「そうだねぇ。失礼なことを言っちゃうけど、...さんって、本当に同い年なのか、それぐらい変わっていないから、アンバランスな感じはするよね。」

「僕もそれは思う。籍を入れて2年ぐらい経つけど、まったく変わらないからね。僕も不思議に思う。」

「え、私?そうは言われても、私も42年生きてきてるんだけどなぁ。強いて言えば、ストイックなのかな。」

「そうなのかもね。別に不摂生が良くないのは知ってるけど、案外、体型をキープし続けるって辛いことだもんね。」

「そういうものですか。結局、僕だけが取り残された感じがする。」

「そういうことじゃないよ。君が纏ってる空気が穏やかだから、それも含めて、君もいい歳のとり方をしてると思うよ。」

「それは同感。あなたは見た目と、その空気感が、周りを穏やかにさせてくれる。だから、自慢の旦那様なのよ。」

「だって。本当に仲良しなんだね。二人。」


「君の話も聞きたいな。今はどうしているの?」

「う~んと、何から話そうかな。実はバツイチ子持ちで、再婚してる。息子がいるんだけど、ようやく中学生になったんだ。」

「案外というか、結構波乱万丈な感じ?」

「そういうわけじゃないんだけど、最初の旦那、息子の父親になるんだけど、息子を出産したあとに、急にかまってちゃんになっちゃったんだよね。」

「あら、ウチと同じ。」

「僕、そんなにかまってちゃんなの?」

「人並みに、かまって欲しいオーラが出るわよ。無論、私の気分によって相手をしないこともあるけどね。で、そのあとは?」

「なんだか一緒に暮らすのが厳しくなっちゃったの。ワンオペ育児と、旦那の世話を両方できるほど、私は器用じゃなかったの。」

「分かるなぁ。娘が大きいから、私達もなんとかやってるけど、私一人だったら、あなたの世話だけで、嫌気がさしてたかもね。」

「娘さんがいるんだ。どっちの子なのかな?」

「う~ん、なんというか、養子みたいなものなのかな。」

そうやって、奥様は彼女に娘の写真をスマホで見せる。

「え、彼女そっくりなんだけど。本当に養子の子なの?」

「なんというか、彼女とこの娘は、同じ両親から生まれているんで、その点でそっくりなのは、ある意味当然といえば当然なんだ。」

「私もそうなんだけど、両親とは死別して、残されたこの娘を引き取って育ててるって感じかな。」

「何歳なの?」

「21だっけ?なんか私、その辺が良くわからないのよね。」

「10月で22歳かな。自分の娘って扱いなんだから、覚えてて欲しい。」

「そっか。それで、結婚したんだ。」

「なんだかんだで両親がいたほうが、この娘にとって幸せだろうって思ったのと、あとは昔の約束もあったからね。」

「それは知らない話だね。でも、そういう話は当人同士で大切にしまっておいたほうがいいよね。」

普通の人なら、その話を聞きたがるだろう。でも、彼女はあまり深いところまで入ってこない。


「そうそう、私は、あなた達の過去の話を聞きたかったのよ。私の知らないこの人のこと。あなたから見た彼はどんな感じだったのか。」

「思い出話になっちゃうね。聞いて、仲違いしちゃうのはイヤだから、半分フィクションとして聞いてもらえるとありがたいんだけど...。」



約25年前、これは僕が中学2年生のこと。

たまたま、席が隣同士だったことがきっかけだった。

「ねぇ、国語の教科書忘れちゃったんだけど、見せて欲しいな。」

最初はこんな感じだったと思う。僕も彼女も、何かと忘れ物をすることが多く、なんとなく相互補完していた感じだった。


彼女は美術部、僕はバスケ部に入っていた。でも、部活にはあんまり行きたくなかった。

いわゆる、悪い見本みたいな感じの人が多く、尾崎豊の世界を現実で行くような人も何人かいた。それはそれではあるが、なるべく遅い時間に行くような感じで、適当に時間を潰したかった。彼女の美術部も、実際在籍しているだけで、文化祭の前と、学校として出品する作品を作成すれば、特に問題ないのだそう。

なので、特に何をするわけでもなく、あーだこーだ話していた感じだった。その頃のドラマの話だったり、アニメの話だったり、学校の噂話だったりをしていた。

部活強制入部だった時代の話であり、帰宅部が出来たのはそのあとの話ではあったが、隠れ帰宅部みたいな生徒は何人もいた。多分、僕らのことを言うのだろう。


ちなみに、3ヶ月ごとに電話をする仲の友人も、この頃に出会っていて、三人でワイワイやっていたと思う。友人は演劇部だったかな。その辺の部活だったような気がする。

「だけど、よくもまあ、二人でそんなに教科書を忘れるようなことが続くよね。意識的にやってる?」

「う~ん、僕は家に帰っても、カバンを開けることすらしないから、それでなのかな。教科ごとにノート取ってるわけでもないから、ノートはすぐ使い切るしね。」

「それって便利なのかな?あ、私は、ちゃんとカバンを開けて予習はするよ。で、そのまま朝起きて、忘れて来ちゃうって感じかな。」

「その割に、ノートは入ってるじゃない。そこが不思議だよね。」

「そうかな。複数教科やってると、最後は出しっぱなしで、朝に詰めればいいやって思いがあるから、それがいけないのかも。」

「それならそれで、別にいいと思うけどね。だけど、それだと僕が忘れてきたときはどうなっちゃう?って思ったりしない?」

「う~ん、思わない。だって、カバンの中に、全部教科書入れてるんでしょ。もしくは、机の中。」

「痛いところを突いてくるな。準備はしっかりしておきたいタイプなんだよ。」

「重い思いをしてまで、カバンを持ってるっていうのが、私には不思議だわ。やっぱり、意識的なんじゃないの?」

二人で顔を見合わす。なんとなく、笑ってしまった。

「うん、そんなことはないよ。本当にたまたまだと思う。だから、僕のほうが見せてる回数も多いしね。」

「忘れた分、私の学力が上がるなら、君に見せてもらっててもいいかな。」

無性に変なところで意見が一致する。なんと言ったらいいか。単に気が合うって、こういうことなのかなとも思った。


まあ、当然のことだけど、おしゃべりの時間が長いだけあって、クラスでは浮いた存在となる。

僕にも、彼女にも、友人や部活仲間なんかもいたはずなんだけど、なんかずっとおしゃべりをしているような関係。つまりは付き合ってると思われるわけだ。

だけど、僕らは聞かれても、

「そうなのかな?ただ、楽しく喋ってるだけなんだけどな。」

「そうそう。別に休みに会ってまで話すこともないし、学校だけの関係かな。」

あまりに的を射てない答えだったと思う。それに、そう思う人は、思えばいいかなとも思ってたんだ。


当然だけど、やっかみや嫉妬をされることも多いし、いわゆる軟派だと言う男子もいたと思う。

でも、当の本人たちに、その気がなかったし、僕も、彼女も、あまり人目に付くような感じでなかったことも幸いしていたのだと思う。

それでも、ちょいちょい関係性を男子に聞かれ、僕も困ったように弁解をしていた。弁解じゃないかな。言い訳のほうが正しいかもしれない。

その後は知っての通り、同じ学校にいながら、クラスが分かれてしまえば、やっぱり特別に会うようなことがなければ、話すこともしなくなった。

「またね」の関係だったから、今日のような再会もあったのかもしれない。特別ではないけど、日常でもなかった、それが、僕には分からなかったのかもね。

それから、友人とはマメに電話でオタトークをする間柄、彼女とは、「またね」のあとはほぼ会話もなく、今日まで来たというわけ。



「ふ~ん、そういうことだったんだ。確かに、この人とは、ずっと話していたいと思わせる空気があるものね。」

「そうそう。なんだ、分かる人がちゃんといるよ。」

「う~ん。でもね、多感な時期じゃない。あの頃の中学生のフィルターで見た世界だと、それぐらいでも、やっぱり付き合ってるって恋愛事に結び付けられるのも仕方ないのかもしれないわね。あなたは、どう思ってたの?」

「そうだなぁ。僕も、あの頃って恋愛を知らないような、軽々しい好き、likeな関係だったんじゃないかって思うよ。」

「そうそう、君って、やっぱりワードチョイスがいいんだよね。軽快に話すことが心地良いと思えるぐらいには、私達は大人だったのかもね。」

「大人だったか...。やっぱり、私と置かれた状況が違うのよね。だから、そういうことも出来たんだよね。」

「そりゃあ、君は...う~ん、」

「悩むぐらいなら言わないのが正解よ。私はその頃、特定の男子から事ある事に告白されて、部活の先輩にいじめを受けていた。その差が大きいのかもしれない。」

「そうなんだ。私、結局卒業するまで、告白されたこともなかったから、恋愛ごとが大変って思ったことがないかもね。」

「あれ、僕はてっきり、あの半年で、何人かは告白するんじゃないかと思ってたけどね。」

「男子にとって一大決心だとしても、女子から見れば、困ることも多いのよ。私の経験上、そういう男は決まって、自分の優位性を話すけど、それは恋愛にとって、決め手にはならないのよね。」

「そうそう。私も、高校に行ってからのほうが、そんな感じだったかもしれない。でも、付き合うよりも、もっと重要なことがあったからね。」

「やっぱり、今でも好きなの?」

「子供が出来てからはそうもいかなくなったけど、やっぱり光一君のことは好き。」

「噂通りなのね。私も光一君派だから、その辺はなんとなく通じ合うところがあるのかもね。」

「やっぱり東京に住んでると、色々見に行ったりするの?」

「う~ん、チケット争奪戦になるから、行きたいと思っても、なかなか行けないことが多いかな。」

「私は、やっぱり子育てと仕事の両立が難しかったかな。幸い、実家に戻ってきて、子供の面倒を親が見てくれたこともあって、なんとかなったけど。」

「その辺、すごく頑張ったんだよね。僕が言うのも、なんかおかしな気がするけど。」

「でもね、子供の成長を見ながらだと、やっぱり毎日が楽しくなるのかな。頑張ろうって思うことが出来る。私は何回もそれに救われたなぁ。」


「話は戻るけど、それで、結局離婚したってことだよね。それからは?」

「しばらくは仕事しながら、子育て。シンママだったけど、家には両親もいるし、そこは心配しなかった。まだ、父が仕事してた頃だし、母には迷惑を掛けたかもね。」

「で、今の旦那さんとは?」

「同じ職場だったの。私より年下。だけど、熱心にアタックしてくれるし、幸い、子供も小学校に入学した頃だったから、私もいいかなって思った。」

「今も同じ気持ち?」

「どうだろうねぇ。やっぱり、初婚って、なんか愛で押し切れる感じはするんだけど、再婚のときには、どちらかというと、家族になってくれる人のほうが嬉しかったかな。」

その発言に対して、僕らは唸ってしまった。

「え、二人は違うの?」

「いや、なんというか、最初から再婚みたいな感じでさ。家族になろうと思っていくうちに、やっぱり好きなんだって。loveな関係になってるのかな。」

「私もそこは同じかな。この人を知れば知るほど、この人への愛情が強くなってる気がする。」

「いいタイミングで結婚したんだよ。だから、ふたりともなんか楽しそうにしてる。それだけで、案外うまく行く家庭もあるんだよ。」

「そういうものなのかな?」

「私も、今は息子も、旦那も、すごく好き。不思議と、やっぱり暮らしていくうちに、ああ、この人たちで本当に良かったって思える時が、結構あるもんだよ。」

「どこの家庭も一緒なのかもね。あの娘がいることで、私とこの人も、より関係が密接になってくる。多分、二人で結婚を決めてたら、なんとなく冷めていたかもしれないわね。」

「まあ、やられっぱなしだけど、君達には、僕は随分と救われてると思ってる。僕の悪いところもひっくるめて、僕として扱ってくれるから。」

「でも、そうなると、中学校時代の二人って、どういう関係なのかも、変わってくるわよね。」

「う~ん、想い出の中に出てくる登場人物って言えばいいのかな。特別な関係ではないけど、お互い意識した部分はあったのかもね。」

「今思うと、そういうことなのかもね。好きと言うにはまだ早いけど、お互いのことを話すぐらいの仲だったわけだしね。」

「なるほどなぁ。そもそも、自分の中で自覚出来ない感情が芽生えてたと考えれば、終わったあとに好きだったかもって振り返ることも出来るわよね。」

「好きだった?」

「そうかもね。ひと押しあったら、本当に付き合ってたかもしれない。」

「やっぱり、僕はその時も子供だったんだよ。たとえ、自覚出来ない感情だったとしても、君へ意識が向いていたことに、自覚はないからね。」

「そんな感じで思っていればいいんじゃない。君と、私には、他の人がわからない関係だったけど、特別な関係でもなかった。そして、今再会して、それを懐かしむことが出来た。そういうことなんだよ。」


彼女は名残惜しそうにいいつつ、奥様を見た。

「あなたが彼の奥さんって聞いて、私は納得したの。何に対して納得したのかは良くわからないけど、二人が仲良さそうな感じで買い物をしていて、やっぱりそうなんだって思うことが出来た。それは、あの頃、彼が高嶺の花と言った人に追いつけたこと、それに嬉しさを感じたのかもしれない。」

「例えば、親友が憧れた人と結ばれたようなことでいいのかしら?」

「ちょっと違う。今も思っていた彼への思いを、この人になら預けられるって感じかな。不思議だよね。付き合ってもいないし、はっきりと好きだったわけでもないのにね。」

「やっぱり、あなたも、この人に特別な感情を抱いてたのかもしれないわね。でも、その想いは、私がすべて背負って、生きていきたい。」

その時の僕は、少しの罪悪感に捕らわれていた。なんの気なしに話していた人に好意を抱かせてしまったこと、それをここで開けてしまったこと、そして奥様にその気持ちを預けてしまったこと、僕が、中学生の時に、そんな感情を抱かせてしまったことへの後悔。無意識でも、そうなってしまったことが、やるせなかった。


「背負うって感じじゃないよ。バトンを渡しただけ。そうじゃなくても、もうバトンは渡されたあとだったみたいだしね。」

「確かにね。私は知らないうちに、色々な人から、彼を支えて生きていくように思われているのかもね。」

「そういうものなのか。なんか、僕、色々愛されてるんだなって思った。」

「ほら、君は愛想の良さみたいなものとか、年齢を考えると不思議な感じに知的に喋ることで、説得力を持つことが出来てたから、そういう点で、君を妬んだり蔑むような人はいないと思う。それに、君は素直な考え方だったしね。だから、あの頃三人で話してたことが、良い思い出になってるんだよ。」

「裏表のない人だものね。あなたは、そのままでいて欲しいわ。私がそばにいて、それが叶えられるなら、ずっと寄り添う。」

「うん、ありがとう。でも、僕はそんなこと考えたこともなかったなぁ。」

そう言うと、女性陣はやや呆れた感じになりながら、

「素直というか、本当になんにも考えてないのかもしれないね。」

「同感。でも、その天然で無邪気な発言が、この人の魅力なのかもね。改めて思い出させてもらったわ。」

「なんか、ひどくない?」

「ごめんね。でも、今の君を表す言葉って、それぐらいしかないんだよね。そっか、あの頃の君と、なんにも変わってないことに安心した。」

「でも、強いて言えば、あなたはもう少し考えを巡らせて発言したほうがいい時もあるかもね。どちらにしろ、私達には、あなたはあなたってことよ。」


で、その後は、ずっとキンキの話をしてた。まあ、それを楽しく話してる二人が見られて、僕も楽しかった。

なぜ、その当時に、お互いの存在を知りながら、話す機会がなかったのか?というぐらい、二人は古い友人のように話していた。

人のめぐり合わせというものは、不思議なもので、僕を介して、双方が繋がったことが、二人にとっての幸運だったりするのかもしれない。


特に長い時間喋っていたとは思っていないけど、僕ら3人には、あの当時の感覚に戻れたような心地よさを感じていたのだろう。

「あ、ごめんね。なんか、色々話しちゃった。二人も夕飯の買い出しだったんだよね。」

「あんまり気にしないでいいよ。僕らは18時までに、実家に戻れれば、それでいいんだ。それより、君は?」

「私も大丈夫。話しながらLINEで遅くなるって伝えてたから。二人でゲームでもやってるんじゃないかな。」

「なんか、家族とかじゃない、純粋な友人のLINE登録が出来るなんて、めったにないことだわ。LINEの交換してくれて、ありがとうね。」

「私も、ありがとう。そう、私も、友人が出来るのってすごく久しぶりだったから、結構嬉しいよ。」

「あれ、僕は?」

「いや、君と文字で会話は出来ないじゃない。だから、三人で、また会って話をしよう。そっちのほうが、盛り上がるよ。あ、一応交換はしておこうか。」

「そうねぇ。あなたのいいところは、小気味良く相槌が打てるところ。そのライブ感が、あなたの魅力なのよ。」

「褒められてる?」

「最高の賞賛でしょ。あなたにしか出来ないことだし、あなただからそう思える。私だけのもの、誰にも共有出来ない感覚なのかと思っていたけど、そんな人と会えたことが、私は嬉しかったし、これからも分かち合いたいじゃない。」

「そうだね。まあ、君はおばさんに囲まれる...はちょっと言いすぎか、同世代の人たちと、もっと話せるはず。そういう世界にいないから、君は井の中の蛙でいられる...なんか、悪口みたいか。君が出来ることって、結構すごいことなんだよ。それを無駄使いする贅沢。私達だけの秘密にしておきたいじゃない。」

「悪いことみたいに言うな...。まあ、共犯関係みたいなものなのかな。」

「いいね。厨二病っぽい。その関係で、二人とはこれからも付き合っていきたいな。」

「私も同じ。本当に厨二病かもしれないけど、私達だけの秘密っていうのも面白いかもね。」

ふたりとも、穏やかな笑顔を浮かべていた。僕は腑に落ちない顔をしていたのだと思う。でも、そういう関係になるんだったら、それが僕の望んだ関係なのかもしれないね。




「...え、その人って、あの「またね」の人でしょ?会ってみたかったなぁ。」

「私ですら同じ歳に見えないって言われたのよ。アンタと同じ記憶を共有してるけど、アンタのほうが鮮明に思い出すじゃないの。それこそ、根底から覆るわよ。」

「でも、私も同級生なんだよ。いいじゃん、今度会わせてよ。」

「それは私が決めることじゃないわよ。それに、彼女も、どう思うのか。あんまり巻き込みたくないのよ、アンタの秘密に。」

「そうだね。ただですら、20歳、年の離れた姉妹って言い訳が苦しいところだし、君は当事者でありながら、僕らの娘を演じきることが出来るかい?」

スマホのスクリーン越しに、娘を見る僕ら。今日はバイトだったんだって。定例会は、大体離れていても、国内であれば、やっている。

「う~ん、そうか。下手に知られてるということを考えると、やっぱりボロは出てくるか。」

「私達は普通に暮らしてるけど、実際にそういうあり得ない家庭だってことを、忘れてきてるでしょ。アンタ。」

「いやいや、私は二人の娘だから。オトーサンにも、おねえちゃんにも、従うつもりだよ。」

「ま、彼女が会ってみたいって言ったら、今度は会わせてあげる。でも、私達はずっと二人で話し続けるわよ。」

「そっか。おねえちゃんのお友達になっちゃったのか。でも、その分オトーサンとドリンクバーでも制覇するよ。」

「...まったく、相変わらず、この人を親だと思ってないわね。」

「だって、オトーサンって言ってるけど、恋人なんだから。別に隠すことじゃないし。」

「あ、いや、そこは隠してね。僕も、君の立場に対して、やっぱり難しいところがあるんだ。せめて人と会う時は、娘として欲しい。」

「ちゃんと言えるようになったのね。それに、この人は私の旦那なの。アンタと張り合うつもりはないけど、世間一般的には、アンタは娘でいて欲しい。わかった?」

「大丈夫だよ。そこはわきまえてるつもりだよ。あれ、おねえちゃん、そこが心配だったの?」

「そうね。別に、あなたにどうこういう話ではないけど、やっぱり、この人が旦那だって胸を張って言っておきたいじゃない。」

「おねえちゃん、また一段とオトーサンを好きになっちゃったんだね。かわいい。」

「え、そうなの?」

「ん......まったく、少しは気づきなさいよ。この朴念仁。」


同じ空気を分かち合う。そうやって、自分や、お互いの良さに気づいていく。そういった意味で、彼女との再会、そして出会いは、いい刺激になったのかもしれない。

彼女は、それから奥様の親友みたいな存在になってる。僕との関係で対極な二人だから、面白いんだろう。




今日はこの辺で。

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